4話目
ええ、早速不満の声が。いや、怪しさ満点なのはわかってるけどね?言ってることが別に間違ってないこともわかってるけどね?うん、絶対あの隊嫌だ。
拒否された時点で、その隊に入る気の失せた私だが、九条さんは咎めるように言った。
「やめろ龍、そもそもはお前だろう。我儘はなしだ」
いえ、こっちもそんな隊入りたかないので、むしろ好都合と言いますか。止めて頂かなくていいです。
「あいつらからの刺客かと思ったんだよ。拷問で内部事情聞き出せるかもって言ったのは俺じゃねえ」
拷問されそうになってたのは初耳なのだが。なんと密偵扱いとは。まあ、確かにって感じだけど。
「というか、記憶喪失っていう話も嘘なんじゃねえの?」
馬鹿にしたように鼻を鳴らした男は、三白眼に高い身長に、短髪の黒髪、筋肉ってかんじの男。顔立ちは整ってるので、モテるかもしれんが、私のタイプは、椿さんなんだなあ。
私がそんなことを思っているうちに話は進んでいく。
「ほう…?そう言うか。だったら、お前のところで引き取れ、龍」
は?嫌ですけど。
「は?嫌に決まってんだろ」
「だが、結局は誰かが引き取らないといけない」
「だったら、郁とかいんだろ!あいつでいいじゃねえか!」
郁=椿さん、と思われる。椿郁人の郁から来てるんじゃなかろうか。いや、めちゃくちゃ勘なんですけど。
入るとしたら、私も、椿さんのところがいい!
「なとりさんは僕のところでも構わないですよ」
椿さんは困ったように笑いながら言った。
やったー!椿さんと一緒だという喜びで無神経な男に感じていた怒りがすぐさま浄化されていく。
『なとりさん、毎日お疲れではないですか?』
『ええ、少し…。でも、椿さんがいてくれるから頑張れます!』
『なとりさん…!』
『椿さん…!』
頭の中を駆け巡る未来予想図の幸福さに打ち震える。これは間違いなく、揆央組生活は、天国のようなものになるでしょう!
「いや、だめだ。そこまで嫌がるなら、龍のところにする。これは決定じゃよ」
訂正。暗黒生活になりそうです。
「はあ!?郁がいいって言ってんだから、いいじゃねえか!」
そうだそうだ!何故天邪鬼に突き進むのか!口には出さないけど!
「龍。これはわしが決めたことだ」
ぐっと言葉に詰まるゴリラ(こんなの西洋にいるらしい筋肉だるまの名前で呼んでやる)。
てか負けんな、頑張ってくれよ!
内心で喝を入れるが、ゴリラはそれ以降口を開く様子がない。
椿さんっ…。
助けを求めるように椿さんを見るが、椿さんは気の毒そうに首を振っただけだった。
そんなあ。
誰が好き好んで、自分に敵意しかない男のもとへ行きたがるか。そんなの一部の嗜好の方々だけだ。
「なとりさんもかまわないかな?」
九条さんはここでようやく私に断りを求めた。
すぐさま断ろうとしたが、
「…おい、わかってるよな」
ゴリラのほうから、強烈な圧がかかり、思わず、
「はい。大丈夫です」
って、しまったあ!圧に反抗したくなって思わず!
「は?お前馬鹿か!何が大丈夫です、だ!何で断らねえんだよ!」
そんなんこっちが言いたい!てか、そもそも、ゴリラがあんなこと言い出さなければ、良かっただけの話なのに!
最初の方、九条さん、椿さんと同じところにしようとしてくれてたよね!?
私の嫁と同じ職場でイチャイチャしたかった!
私の葛藤、ゴリラの不満を置いて、話はまとまってしまった。
「ふむ、それでは、なとりさんは、篝火龍一番隊長が引き取るということで決定とする」
「は?」
思わず声に出してしまっていた。かがりびりゅうっていいました?
「何か気にかかることでも?」
九条さんがこちらを向く。慌てて口を押さえて首を振るが、気持ちは大混乱状態だ。
えっ?あのゴリラが篝火さん?ゴリラ=私を見つけて運んでくれた、半分は優しさで出来ているであろう篝火さん?
「…理想ってはかないなあ」
ぼそりとそうつぶやいた私はがっくりと肩を落とした。