3話目
「そういえば、自己紹介をしてませんでしたね」
朝、朝食を持ってきてくれた椿さんが言った。
「僕は、椿郁人といいます」
えっ、つばき?すごいこの人!真正の椿だ!
「…感動しました」
「?何にですか?」
なぜか感動している私に、椿さんもとい、椿さん!は言った。
「今日の夜、早速新入隊員を紹介したいと九条さんが言っていましたが、体調などは大丈夫ですか」
急遽の予定に思わず咳き込みかける。
昨日の今日で紹介は急ぎすぎではないか。心の準備期間はどうすれば。
とは思うが、まあ、無職の怪しい女を何日もそのままにできないということだろう。置いてもらえるってだけで九条さんには頭が上がらないし、仕方ないから心の準備は明るい間に終わらせておこう。話題(私のなかだけで)の篝火さんにも会いたいし。
「お気遣いありがとうございます。大丈夫です」
「そうですか、それはよかったです。それと、隊服を用意しなければいけないので、今から採寸があります。言われた指示に従ってくださいね」
そう言って、にっこりと笑みを浮かべた椿さんをこの時点で私は大好きになっていた。こんな怪しい人間に、にこにこしてすっごく親切にしてくれるんだもん!
…椿さん、お嫁にしたい。絶対幸せにします!
錯乱している私は、隊服の採寸と挨拶練習で、心の準備期間を終えた。
そして、夜。
ついに私を助けてくれた、篝火さんとの初対面!ついでにお披露目。
女性服と男性服の区別はなく、大きさの違いくらいだったのだが、サイズを測ったりなどする、ちゃんとした隊服だったので、作るのに時間がかかるそうだ。隊服採寸は初めて(多分)だったのでテンションが上がった。障子の前に立つ今はとりあえず、来ていたものの上に、鴬色の羽織を着ている。
戦前のような気分だ。戦に出たことあるか知らんが。
深呼吸をして、障子に手をかける。ちょうど中は私の話題の様で、九条さんの声だけが朗々と響いている。
「……そこでうちは、なとりさんを新隊員に加えることにした。…入ってきてくれるかな」
最後は明らかに私に言っていたので、障子をからりと開け、恐る恐る入った。
たくさんの視線がこちらに向けられ、めっちゃ居心地悪い。無視してくれてもいいのになあ。いや、それはそれで辛いけどさ。
九条さんの横に立ち、ちらりと九条さんに目を向けると、うなずいたので、
「…なとりです。しばらくおいてもらうことになりました。よろしくお願いします」
しどろもどろで自己紹介をした。
きっとみんなどんな反応をすればいいのかわからないのだろう。シーンとした空気の中で、
「なとりさん、よろしくお願いしますね」
ほんわかとした笑顔で椿さんが言ってくれた。正直、涙腺緩んで号泣しそう。
決めた。椿さんは私の嫁だ。
私が決意している傍らで、どうやら受け入れは決まったらしく、わいわいした空気になっていた。
「ほら、静かにしろ。問題は、どの隊に入れるかだが……」
九条さんが軽く手を叩き、みんなを黙らせた後、あごに手を当て悩み始めた。
隊がわかれてるんだっていうのも新情報なんだけど。壱番隊、弍番隊的な?
「とりあえず、郁人のところに」
「俺のところは断る。そんな怪しいガキなんざ受け入れられるか」
ちょうど、九条さんが何かを言いかけていた時、誰かが声を上げた。