11話目
夢を見た。
小さい女の子が泣いている夢だった。その子は顔がないけど、泣いていることだけはわかる。慰めてあげたいけど声が出ない。そのうち女の子は成長して、誰にも頼らず自分で立ち上がる夢だった。その女の子は誰にも負けないくらい強くなるけど、それは、切なくて…とても悲しい夢だった。
「…じょうぶか!…きろ!」
誰かの声がする。心配そうな声だなあ。誰に言ってるんだろ。
「おい、大丈夫か?」
…もしかして私に言ってる?
あれ、そういえば私どうしたんだっけ。記憶があやふやだ。たしか決闘しようとして、それで…。
「おい!しっかりしろ!」
えっと、あ、遅刻して、で、頭ぐりぐりされて。あ、これは思い出さなくていいか。で、ゴリラにお礼と謝罪してニヤニヤされて…うん。言っていない!あんな屈辱覚えてない!
「起きろ!大丈夫か!」
で、それで、戦うことになって…。なんかさっきからうるさいなあ。
「なとり!」
「うるさいなあ!人が思い出そうとしてる時、声かけないでよ!」
ゴンッ!
「………!」
「………!」
叫ぶと同時に、ガバッと起き上がると、誰かの頭とぶつかってしまった。両者ともに無言の悶絶。
ごろごろ転がっていると、頭をむんずと掴まれた。
「え、なに?」
びっくりして声を上げると、
「…なに、じゃねえよ!てめえ、人が親切に心配してやってたってのに、なんなんだよ!」
「ふふふふっ」
急にキレられたと思ったら、急に笑われた。
…え?マジでどゆこと?
混乱して辺りを見渡すと、今私がいるのは、元々いた部屋で、決闘場ではなかった。
私の頭を押さえてるのが、ゴリラで、笑っていたのは椿さんだった。
…椿さんに笑われた〜!恥ずかしい…。
私のそんな恥じらい(?)を気にもかけず、
「ふざけてんのかてめえはずっと!急に殺意向けてきて、強くなったと思ったら、倒れやがって!情緒不安定か!思春期なのか!」
「痛い痛い痛い痛い全然状況がわからないんですよ!倒れたんですか私?」
「は?覚えてねえのか?」
少し手の力が緩んだ隙に逃げ出す。
頭をさすりながら、ゴリラを睨む。
「今ちょうど思い出してたんです!なのに話しかけるから!」
「お、おお、悪かったな?」
私の勢いに少し引いた様子のゴリラに言い放つ。
「まあ、わかれば良いんです」
満足げに頷き、
「…ん?それは別に俺のせいじゃ…」
「そんなことより、私、なんで倒れたんですか?」
ゴリラの呟きは捨ておき、私は聞く。
と、
「その話は私も混ぜてもらおうか」
後ろから、不意に声がした。
ってまさか。
「じ、じじい?」
「く、九条さん?」
私の後ろにいつのまにか立っていたのは、九条さんだった。
…ゴリラに集中しすぎて気づかなかった。
「さて、話の続きだ、龍。勝手に決闘したことは今は置いといてやろう」
すとんと座り、ゴリラに話の続きを促す九条さん。
決闘がバレてしまったゴリラは渋々話し始めた。