エピローグ 別れの朝
朝靄の立ちこめるラストリーフ支部前。
まだ日も昇りきらぬうちから、門の前に立つ影があった。
ゴルザンは肩に小さな荷を背負い、静かに深呼吸をする。
この空気、この匂いも、今日でしばらくは嗅ぎ納めだ。
「……遅かったわね」
声と共に、湯気の立つ包みが差し出された。
「マーサ」
「朝食抜きで行かれると、あとで胃に悪いでしょ」
それだけ言って、小さく笑う。
包みの中には、手のひらサイズのおにぎりが二つ。
塩気の効いた匂いが、体の奥に沁みわたる。
「ありがとよ。……いつも世話になったな」
「ん。……また、来なさいな」
続いて現れたのは、チーム光合成の面々。
三人とも私服姿で、どこか旅立ちに合わせた雰囲気をまとっていた。
「まぶしくなるな、また」
マーラスが軽く手を掲げると、ガモックが小さくうなずき、リィが満面の笑みで手を振った。
「今度は夜のステージも観てってよ! あたしの“ソロ立ち回り”もあるんだから!」
「……派手になったな、お前らも」
ゴルザンは、口元だけで笑った。
そして──最後に姿を見せたのは、ミーナ=ルクトリア。
制服姿のまま、きちんと髪を結い直していた。
「ありがとうございました!」
一直線に駆け寄って、彼女は深く頭を下げた。
「……おう。ちゃんと立ってんな」
「はい!」
その声に、迷いはなかった。
「次の支部長、今日着くんですよね」
「そうらしいな。聞くところによると、ガチガチに堅いらしいぞ」
「え……ほんとですか……?」
「……ま、誰が来ようと、“いつも通り”やればいい。
無理に合わせようとするな。お前は、お前のやり方でやれ」
「……はい!」
ミーナはもう一度、しっかりと頷いた。
門をくぐるゴルザンに、リリアが手を振る。
「また来てくださいねー! 報告書、空欄でとっておきますからー!」
「埋める前提かよ……」
そうぼやいて、ゴルザンはゆっくりと歩き出す。
遠ざかる背中に、誰かが小さくつぶやいた。
「……あれで、だいぶ変わったんだよな、この支部」
誰が言ったかはわからない。けれど、確かに、それは皆の想いだった。
道の先に、朝日が昇りはじめていた。
手放した盾の代わりに、その背中は、まっすぐに伸びていた。
【作者あとがき】
これにてゴルザン外伝4部作、完結となります。
本編と比べるとやや雰囲気が異なり、こちらはゴルザンという一人の人物の過去や成長を描く“静かな物語”として仕立てさせていただきました。
最後までお付き合いいただいた皆様、本当にありがとうございました。
『没落ギルドの仕事斡旋人』シリーズは、想像以上に世界が広がってきており、今後は一度、テーマや読む順番のご案内などもできればと思っています。
現在展開中の本編2ndシーズン、そして3rdシーズンと物語は続いていきますので、もしよろしければ、引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。