過去へ向き合い、未来へ託す
朝のギルド内は、まだ人の気配が少ない。
仄暗い照明のまま、休憩室の端に置かれた給湯器から、湯が注がれる音だけが響いていた。
ゴルザンは二つのカップを手に、そのままソファへ向かう。
「おはようございます──って、早いですね、ゴルザンさん。支部長室の片付けはもう?」
「……話しておこうと思ってな」
「え?」
「お前には、な」
真面目な口調に、ミーナの姿勢が自然と正される。
だが、ゴルザンは茶をすすりながら、しばらく沈黙していた。
そして、ぽつりとこぼれるように語り始めた。
「俺はな、なんでも一人で抱えて、勝手に燃え尽きるような生き方をしてきた」
かつての相棒、ラークのこと。
規則を破ってでも守ろうとしたカレンのこと。
そして、すべてを終えたあと、抜け殻のようになっていた自分のこと。
「この支部でな。お前たちと向き合ううちに……やっと、ちょっとずつ、変わってきた気がする」
ミーナは口を挟まず、じっと耳を傾けていた。
その目には、うっすらと涙がにじんでいる。
「お前は、周りを巻き込む力がある。力づくじゃなくてな……自然と人が動く。……なんか、そういうの、うまいじゃねぇか」
「……ま、俺にはなかったもんだ。たぶん。だからちょっと、羨ましかったんだろうな」
ミーナは驚いたように目を瞬かせ、それから、照れくさそうに笑った。
「そんなふうに言われたの、初めてです!……でも、そう言ってもらえるなら、もうちょっと、自信持ってみようかな」
「持て。堂々と構えとけ。
お前の肩にはもう、十分に“盾”が育ってる。俺が担いでたそれより、よっぽど立派だ」
「……はい!」
ミーナの返事は、力強く、まっすぐだった。
休憩室の窓の向こう、朝日が静かに差し込んでいた。