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悪役令嬢は優雅に微笑む  作者: 篠原 皐月
第3章 悪役令嬢の真実

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(10)天下無敵の悪役小姑

「あ、あの……、そうなると、リロイ殿とネシーナ様が次期公爵夫妻と認められたわけではないのですか?」

 その問いかけに、意識してゆっくりと振り返ったマグダレーナは、相手に冷ややかな視線を向けた。


「随分と、意外なことを仰いますのね。逆にお尋ねしますが、誰がそのようなことを放言していたと仰るのですか?」

「い、いえ……、ですが、公爵家嫡男の婚約披露の場ですし……」

「確かに先程父が、そのように口にしましたわね。この場が、兄の婚約披露の場であるのは事実です。ですが、父が兄とこちらの方を次期公爵夫妻だと紹介したのですか?」

「それは……」

「ご返答いただけますか?」

 鋭い眼光と口調で追及されたオルガは、居心地悪そうに視線を逸らしながら答える。


「……言っておられませんでしたわね」

 そこでマグダレーナは満足そうに微笑み、僅かに皮肉を込めた口調で言い聞かせる。


「オルガ様。あまり憶測で物を語らない方がよろしいかと。どこで曲解されて、とんでもない噂が一人歩きするとも限りませんから」

「そ、そう、ですわね……。気をつけますわ」

 そこで話に区切りをつけたマグダレーナは、顔つきを改めてネシーナを振り返る。


「それではネシーナさん。付いてきてください。他の方々にもご挨拶に行きましょう。兄に殿方同士のお付き合いがあるように、あなたにもご婦人方との交流をつつがなくこなしていただく必要があります」

「はい。ご紹介、よろしくお願いします」

「それでは皆様、失礼いたします」

 オルガ達に向かって軽く一礼したマグダレーナは、ネシーナを付き従えて他の女性達の集団に向かって歩き出した。そんな二人を見送りながら、オルガ達が囁き合う。


「マグダレーナ様にかかったら、男爵家のご令嬢など使用人扱いと変わらなさそうね」

「むしろ格下過ぎて扱いやすいから、兄嫁にそういうご令嬢が収まって願ったり叶ったりなのではない?」

「ようやく嫡男が結婚する運びになって後継者も本決まりかと思ったら、やはりマグダレーナ様が本命なのではないかしら」

「私も、てっきり次期公爵はリロイ殿に決まったのかと思ったけど……。でもそれなら、ナシーナ嬢をマグダレーナ様よりも下に見せるような真似はさせませんよね?」

「キャレイド公爵夫妻のお考えが、本当に読めませんわ」

 そんな会話を交わしていると、オルガが妙にしみじみとした口調で言い出す。


「でも、キャレイド公爵家に娘を嫁がせる事にならなくて、良かったかもしれませんわ。娘が事あるごとにマグダレーナ様と比較されて、あんな風に見下されたりしたらたまりませんもの」

「それはそうですわね」

 そんな夫人達の困惑と嘲笑の囁きは、会場のあちこちで密やかに囁かれつつあった。



  ※※※



 無事に夜会が終了し、主役二人とその家族は応接室の一つに引き上げ、お茶を飲みつつ寛いでいた。そこでリロイが、上機嫌にマグダレーナに声をかける。


「マグダレーナ、ご苦労様。今夜は会場内のあちらこちらで、お前の傍若無人ぶりとネシーナの追従ぶりについて噂されていたぞ。おかげで私が我が家の後継者に決まったとは確信できずに、困惑した者が殆どだったようだ。首尾としては上々だな」

 そのいかにも楽しげな声に、マグダレーナは内心で苛つきながら応じた。


「……狙い通りで良かったですわね」

「いやぁ、お前の強烈な小姑っぷりが皆の印象に残って、玉の輿のネシーナを妬む声など間違っても出てこないし、寧ろ同情されていたからな。義兄上達もそうでしょう?」

 リロイから満面の笑みで話しかけられたモーリスとアンナは、動揺しながら硬い表情のマグダレーナを横目で見た。そして控え目に言葉を返す。


「いえ、あの……、それほど同情とかは……。確かにキャレイド公爵家との縁欲しさに私達にすり寄ってくる人間は、夜会が終わる頃までには殆どいなくなりましたが……」

「ええと……、あの、本当に申し訳ありません。マグダレーナ様について、対外的にはあまり良いお話をしておりませんので……」

 自分に対してあまり好印象を持っていないように話をするのは打ち合わせ通りであったが、その事にかなり心理的抵抗があって恐縮しているのを理解していたマグダレーナは、できるだけ穏やかな笑みを心がけながら二人に語りかける。


「モーリス様、アンナ様、今夜はお疲れ様でした。私が扱いにくい我の強い妹を演じることで、ネシーナ様が悪く言われるのを少しでも防げるのなら良いではありませんか。我が家はそれなりに付き合いが広いので、今後も何かとご苦労をおかけすることになるかもしれませんが、よろしくお付き合いください」

「とんでもありません。妹の為にご自身の評判を落としかねない事までしていただきまして、却って恐縮しております」

「私達では大してお力になれないとは思いますが、何かありましたら遠慮なくお声をかけてください」

 涙目になりながら深く頭を下げた兄夫婦を見て、ネシーナが困ったように二人を宥める。


「お兄様、お義姉様。それくらいで。そろそろおやすみになってはどうですか?」

「そうですわね。客間の準備は整えてありますので、何かありましたらメイドに仰ってください」

 ジュリエラも女主人として、客人である二人に声をかけると同時に、壁際に控えているメイドに目配せを送る。そこで、その日は宿泊させて貰う予定であったモーリスとアンナは、静かに腰を上げた。


「ありがとうございます。それでは失礼して、先に休ませていただきます」

「本日は色々とご配慮いただき、ありがとうございました」

「ゆっくりおやすみください」

 そこで二人はメイドに先導されて出て行き、応接室にはネシーナとキャレイド家の四人が残った。




 


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