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悪役令嬢は優雅に微笑む  作者: 篠原 皐月
第3章 悪役令嬢の真実

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(9)迫真の演技

「ごきげんよう、マグダレーナ様。少しお話してもよろしいかしら?」

 女性達の先頭に立ち笑顔で声をかけてきた年配の女性に、マグダレーナは礼儀正しく挨拶を返した。


「はい、オルガ様。ご無沙汰しております。今宵は兄の婚約披露の場にご出席いただきまして、ありがとうございます」

「ええ、本当に。我が家とキャレイド公爵家とは縁続きですから、もう少し交流があってもよろしいと思いますのに。最近はすっかり足が遠のいておりましたわ」

「そうですわね」

(縁続きって……、四代前の当主の妹が嫁いだ縁で縁続きと言われるなら、貴族の半分は縁続きと主張できるのではないかしら? それに主役の一人であるネシーナ様を完全無視だなんて、失礼にも程があるわ。ネシーナ様が次期キャレイド公爵夫人であるのを理解できないような残念すぎる頭なら、乗せておくだけ無駄だわね)

 キャレイド公爵家とは遠縁にすぎないこの女性が、これまでも厚かましい言動を繰り返してきた上、傍らにいるネシーナを一瞥もしなかったことに対して、マグダレーナは心の中で冷徹に斬り捨てた。しかしそんな評価をされているなど夢にも思っていないらしいオルガは、含み笑いのまま話を続ける。


「本当にねぇ……、娘とリロイ殿の縁談もあったくらいなのに、いつの間にか立ち消えになって……。そうしたら今回のお話でしょう? 本当に急な話で驚きましたわ」

「そうですわね。私も直前まで知らされておりませんでしたので、皆様以上に驚きましたわ」

(あなたの娘とお兄様の縁談があったですって? ネシーナ様に聞かせるように、わざと言っているのでしょうけど。そちらが一方的にごり押ししてきただけの、妄想を語るのは止めて欲しいわね。はっきり言って、あなたのような人間と姻戚関係になるなど真っ平だから、ネシーナ様のことがなくてもお父様とお母様はそんな話は無視していたわよ)

 チラッと横目でネシーナを眺めたオルガは、当てこすりのように告げる。内心でそのもの言いに苛ついたものの、マグダレーナはそれは微塵も面に出さずに調子を合わせた。するとオルガを初めとした婦人達が、揃って大仰に驚いてみせる。


「まぁあぁぁぁ、そうだったのですね!!」

「本当にリロイ殿は、以前から何を考えているか分からな、いえ、些か突飛な考えや行動に及ぶことがありましたもの」

「きっとご家族にも、事前に順序立ててお話などされなかったのだろうと、推察しておりましたわ」

「本当に、キャレイド公爵家の皆様の気苦労が知れるというものですわね」

 口々にそんなことを言ってから、女性達は「おほほほほ」と楽しげに高笑いした。しかしすぐに全員が笑いを収め、皮肉っぽく問いを発する。


「それで、本来であればキャレイド公爵家との縁組みなどが成立するはずもない男爵家のご令嬢がリロイ殿と婚約される運びになったのは、どういう事情がありましたの?」

(本人を目の前にしてそんなことを堂々と口にする辺り、本当に底意地が悪いわね)

 何かやんごとない事情か、隠さなければいけない不祥事などでもあったのかと暗に含んだその台詞にも、マグダレーナは微塵も動揺せず、淡々と言葉を返した。


「どうもこうも……、兄の相手など誰でも良いと両親が判断した故のことですわ。それ以外に何かありまして?」

 真顔で素っ気なく返された事で、オルガ達は逆に怪訝な顔になった。


「え?」

「あの……」

「マグダレーナ様?」

「寧ろ、外戚が大して影響のない方が、私としては好都合ですもの。それくらい誰でもお分かりになるかと思っておりましたが」

「はぁ……」

 何やら話が妙な方向に流れ始めたのを察したオリガ達は、困惑の色を深めながら互いの顔を見やった。


「それにしっかり実家で教育を受けて、その家の流儀が染みついているご令嬢などと兄が結婚した日には、我が家の流儀に口を挟んできそうで目障りですもの。そんな方を受け入れるつもりはありません」

「それは……」

 マグダレーナの強い口調に、周囲の女性達は顔色を悪くしながら、黙って彼女の話に耳を傾ける。するとマグダレーナの話は、益々容赦がなくなっていった。 


「貴族としての体面を保てるだけの最低限の教養があって、自己主張が少なくて我が家の方針に全面的に従ってくれる相手であれば、兄の婚約者が誰であろうと私は口を挟むつもりはありません」

「そうですのね……」

 そこでマグダレーナは不遜な笑みを浮かべながら、ネシーナを振り返った。そして上から目線で堂々と言い放つ。


「まあ……、色々と及ばないところや配慮できないところなどは、これから母や私が付いてその都度指導すれば良いだけのことです。そのつもりで、当面はあらゆる公的な場には母か私が同行することになっておりますし。ネシーナさん、そうですよね?」

 その問いかけに、ネシーナは深々と頭を下げながら神妙に言葉を返した。


「はい。マグダレーナ様、今後ご面倒おかけすることになると思いますが、よろしくお願いします」

「ええ。本当に面倒ですけど、家名に傷がつくよりマシですから。ああ、言っておきますが一度はお教えしますが、それでしっかり覚えて二度目は自分で対処してください。できないとは仰いませんよね?」

「ご期待に添えるよう、努力いたします」

「別に期待などはしておりませんが、無様な姿を晒さないようにだけ留意してください」

「畏まりました」

 それは未来の義姉妹の心温まる会話というより、まるで主人と使用人の業務上のやり取りのような会話であった。それを目の当たりにしたオルガ達は目を丸くして固まってから、恐る恐るマグダレーナに声をかけた。






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― 新着の感想 ―
なにこれ〜! こんな返し方が! 勉強になりましたm(_ _)m
マグダレーナ様、内心辛辣〜〜〜!と思っていたらw内心どころではなく辛辣な悪役令嬢が此処にwww 即座に合わせてくるネシーナ様も流石ですね! 困惑狼狽して顔がひきつるご婦人ご令嬢方が目に浮かぶようです。
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