(33)ろくでもない計画
「なるほど……、話は良く分かった。だが当然、話はここで終わりではないだろう?」
うっすらと笑いながら、レイノルは話の先を促してきた。それにマグダレーナは、気合いを入れ直して深く頷いてみせる。
「勿論です。現実問題として、エルネスト殿下が立太子を経て即位するまで、解消しなければいけない問題が山積しております」
「分かっている。まず第一に、邪魔な上の二人をどう排除するかだな」
サラリと言われた内容に、マグダレーナは盛大に顔を引き攣らせた。
「……陛下。一応お尋ねしますが、手っ取り早く始末しようなどと考えてはおられませんよね?」
しかしレイノルは、心底不思議そうに問い返してくる。
「うん? 駄目か? だがどう考えてもそれが一番手っ取り早い上に、後腐れもないのだが」
「仮にも自分のご子息ですよ!? それに立て続けに二人が不審死した場合、どう考えてもエルネスト殿下に疑いが向けられてしまいます! 殿下の即位に際して、余計な憶測を広げるような真似はお慎みください!!」
「なんだ、つまらん。それにお前は、意外に常識人だったのだな」
「陛下と比べたら、世の中の殆どの人間が健全な常識人だと思われます!」
(もう本当に、この人を相手にしたくないわ! 国王でなかったら、今すぐ席を立って帰るのに!!)
淡々と言及してくるレイノルに、マグダレーナは綺麗に整えてある髪を掻きむしりたくなる衝動に駆られた。そんな彼女の内心を読んだらしく、テオドールが同情する顔つきで声をかけてくる。
「落ち着け、マグダレーナ。その辺りは、我々が前々から準備を進めている」
「大叔父様?」
「今年ユージン殿下が学園を卒業したので、これから王宮内で形ばかりの役職と部下を与えて、大して重要ではない政務をやらせる予定だ。来年はゼクター殿下にも、同様の措置を取る予定になっている」
それを聞いたリロイが、真剣な面持ちで確認を入れてくる。
「それは、表向きには王太子就任へ向けての布石というか、準備期間、選抜期間という感じに見せるのですよね?」
「ああ。そうなると後見の貴族達が、こぞって息のかかった有能な人間を側近として送り込んでくるだろうな。そこで王子達が目立つ成果を上げられなかったり、側近をぞんざいに扱ったりしたらどうなると思う?」
その問いかけに、リロイが意地の悪い笑みを浮かべながら応じる。
「ああ……、なるほど。恐らく、世話役や指導役として官吏が付けられると思いますし、その他に側近として付けられる者に、大叔父様達に繋がっているものを潜り込ませて、裏工作するわけですね。大事な公式行事で失敗したり、大事な書類を紛失したり記載を間違ったり、その失敗を部下になすりつけてその者の後見の貴族の面目を潰させたり。あの二人の権威を失墜させ、支持している貴族達を離反させるように水面下で導く……。確かに色々と、やりようはあるでしょうね」
すぐさま目論見を推測してみせたリロイに、テオドールは満足そうな笑みを浮かべた。そして彼に諸々の裏工作を命じる。
「まだ家督を継ぐには早いし、どうせお前は暇を持て余しているだろう。この際、こちらの方を全面的に任せようと思う。結婚祝いだ。ありがたく受け取れ」
「ありがたく頂戴いたします。腕が鳴りますね」
「そんなろくでもない結婚祝いなど、準備しないでください」
「本人が喜んでいるのだから良いだろう」
途端に人の悪い笑みを浮かべた兄を見て、マグダレーナは思わず突っ込みを入れた。しかしテオドールは悪びれずに言い返す。それに溜め息を吐いてから、マグダレーナは気を取り直して話を続けた。
「それから早急に、エルネスト殿下を推す有力貴族の選定をする必要があります。それも秘密裏に」
その指摘に、レイノルとテオドールは淡々と応じる。
「取りあえず、キャレイド公爵家はあれを推すのだろう? そうだな、テオドール」
「はい。ランタスにも言質は取っております。マグダレーナ、お前には他にも考えている家があるのでは?」
「できれば、ローガルド公爵家とシェーグレン公爵家を引き込もうかと考えております」
マグダレーナが二つの家名に言及した途端、レイノルが笑みを深めた。
「面白い。ユージンとゼクターの両方からむしり取るか。しかもどちらも、あれらの母方のジベトス伯爵家とバルナック伯爵家と姻戚関係にあったはずだが」
ここでリロイが、冷静に話に加わる。
「マグダレーナに言われて色々調べてみましたが、逆に言えば、間接的な姻戚関係があるので仕方なく、といった面があるかと。突き崩す余地は十分にありそうです」
「それがお前の見立てか。なるほど。それでは、そちらはお前達に任せてしまって良いのだな?」
「はい、お任せください」
「全力を尽くします」
レイノルの台詞に、兄妹は揃って頭を下げた。そして再び頭を上げたマグダレーナは、避けて通れない話題を切り出す。
「それから……、一番面倒、かつ対処に困るのが王妃陛下の扱いです」
「それはそうだろうな」
レイノルは全く表情を変えなかったものの、テオドールとリロイは瞬時に渋面になりながらマグダレーナに視線を向けた。




