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悪役令嬢は優雅に微笑む  作者: 篠原 皐月
第2章 予想外の展開

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(24)出たとこ勝負

 放課後の時間帯。マグダレーナは一人で校舎内を歩き、普段器楽の授業を受けたり練習をする一角に足を向けた。

 個人で演奏したり練習するための個室が並んでいる場所を抜け、纏まった人数で指導を受ける音楽室に辿り着く。なかなかの技量だと分かるメロディーが流れてくる中、マグダレーナはこっそりと少しだけドアを開けて室内の様子を窺った。すると演奏者を半円状に囲んでその音色に聞き入っているゼクターと、メルリースを初めとする取り巻き達が座っているのを目にする。


(こちらは、傍目にはのんびり優雅に親交を深めているように見えるわね。それはまあ、王子殿下に是非とも演奏を聴かせて欲しいなどと請われて、きっぱり断れる方などおられないでしょうけど)

 ここに連れ込まれたらしい四、五人の生徒も確認し、マグダレーナは憐憫の眼差しで彼らを見やった。そうしているうちに演奏が終わり、拍手と賞賛の声が上がる。


「さすがはアイリーン様ですわ。素敵な演奏でしたこと」

「本当に、聞くだけで心が穏やかになるよ」

「……過分なお褒めの言葉をいただき、恐縮です」

「まあ、そんな堅苦しいことを仰らないで、もっと気楽になさってよろしいのよ?」

「そうだな。遠慮することはないから。それでは次は、デューク殿の演奏を聴かせて貰いたいな」

「畏まりました」

 満面の笑みのゼクター達とは対照的に、演奏する生徒達の表情は微妙に硬かった。そして再び演奏が始まると、それに耳を傾けながらマグダレーナは考え込む。


(さてと……、さすがにこの場に堂々と乗り込むのは、わざとらしすぎるわね。どうしたものかしら)

 さすがに正面切って事を構えたくはなかった彼女は、そのまま室内の様子を窺いながら迷っていた。そうこうしているうちに再び演奏が終わり、メルリース達のわざとらしい賞賛の声が響く。


「素晴らしい演奏ですわ! 才能に恵まれた方が羨ましいです」

「私も、器楽の演奏に関しては凡人以下だからね。才能がある者は、率直に素晴らしいと思っているよ」

「ありがとうございます」

「私は他人の才能は、素直に認めることにしているんだ。だから自分の周囲に、各方面に秀でた人間がいてくれたら心強いし、自分の人生も豊かになるのではないかと思っているんだよ」

「本当にそうですわね。皆さんもそう思われませんか?」

「はぁ……」

「……そうかもしれませんわね」

 にこやかに、しかし言外に圧を加えてくる二人に、演奏担当の生徒達は言葉を濁しながら応じる。


(明らかに無理強いするとか恫喝するのではなく、やんわりと絡め取る感じかしら? これはこれでタチが悪いし、面倒くさいのだけど。取りあえず、乱入してみるしかないわね)

 ここでマグダレーナは、彼女には珍しくかなり行き当たりばったりの行動に出た。


「あら? こちらは使っていらしたのですか? 失礼しました。使用中の札を見逃してしまったみたいですわ」

 ノックもせず勢いよくドアを押し開いて現れたマグダレーナに、メルリースは明らかに不快そうな顔つきになった。


「まぁ……、マグダレーナ様。皆様の演奏を楽しんでいるところに乱入するなんて、無粋なことをなさいますのね」

「申し訳ありません。大変失礼しました。失礼ついでに、皆様の演奏を私にも聴かせていただけませんか? 教養科の選択授業で器楽を選択してその技量を存じている方もおられますが、人伝にその技量を聞き及んでいる上級生の方もおられますので」

「本当に厚かましいですわね!?」

 平然と微笑みながらの要求に、メルリースが怒りを露わにしながら非難の声を上げる。するとここで、一人の女生徒が声を上げた。


「あああのっ! 私達の演奏より、マグダレーナ様の演奏の方が素晴らしいですから! 是非とも、皆さんの前で披露していただけませんか!?」

「はぁ?」

「へえ? それは知らなかったな。マグダレーナ嬢はそんなに演奏が上手なのかい?」

 それを聞いてメルリースは顔を歪めただけだったが、ゼクターは興味をそそられたように問い返す。すると彼女は真剣極まりない表情で、力強く頷いてみせた。


「はい、それはもう! 私など足下にも及びませんから!」

「モニカ様、それはさすがに言い過ぎでは」

「いいえ! 間違いありません! 是非ともお願いします!」

 器楽の授業で面識があったモニカに、マグダレーナは控え目に意見した。しかしモニカから(申し訳ありません、お願いします! ここで私達を見捨てないでください!)と言わんばかりの、縋るような目線で訴えられる。


「それならマグダレーナ嬢、どうかな? ここで一曲弾いて貰えないかい?」

 モニカからの無言の訴えに加え、ゼクターから改めてそう要請されてしまった上は演奏するしかないだろうと、マグダレーナは腹を括った。それでポケットからハンカチを取り出しつつ、周囲に申し出る。


「お耳汚しになるかもしれませんが、殿下のご要望とあらば演奏いたします。どなたかバイオリンを貸していただけませんか?」

「これでよろしかったらどうぞ」

「ありがとうございます。お借りします」

 近くの男子生徒がすかさず差し出してきたバイオリンを受け取り、ハンカチをバイオリンと身体の間に挟んで構える。次いで弓を受け取って音の確認と調整を済ませたマグダレーナは、軽く一礼してから演奏を始めた。




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