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悪役令嬢は優雅に微笑む  作者: 篠原 皐月
第2章 予想外の展開

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(22)方針決定


「マグダレーナ。随分疲れた顔をしているけど、何かあったの?」

「実は、つい先ほど、エルネスト殿下と遭遇しました。その折りに、予想外のやり取りをする羽目になりまして……」

 隠し部屋に入るなり、マグダレーナは待ち構えていたネシーナに心配そうに問われてしまった。それで溜め息を吐いてから、エルネストとのやり取りをネシーナとユニシアに語って聞かせる。一通り聞き終えたネシーナは、冷静に頷いてみせた。


「なるほどね……」

「でも……、殿下が権力欲とか物欲がないらしいのは、これまでのあれこれで推察していましたが、陛下がそうだというのは今ひとつ納得しかねるのですが。それに、陛下にとって王座よりも大事なものとか、想像がつかないですし……」

 一方のユニシアは、現国王の即位云々に関しての話が微妙に引っかかったらしく、怪訝な顔で考え込む。しかしネシーナは、リロイから大叔父達が国王を脅迫した実情も聞いていたのか、少々強引に話題を変えた。


「ユニシア。それはともかく、今日は王太子の座を獲得することに血道を上げている方々の話をしましょうか」

「そうですね……。あまり口にしたくもありませんが」

「教養科は言わずもがなですが、貴族科上級学年、下級学年ともに、以前より険悪な雰囲気になっておられるのでしょうね」

 本題に入ったことで、マグダレーナは安堵しながら確認を入れた。すると予想に違わず、ネシーナとユニシアが苦々しい顔つきで言葉を返してくる。


「元から和やかとは言いがたい空気でしたが、最近は本当に困ったものです。元々、私のような下級貴族家の生徒は、余程メリットがなければ見向きもされないで放置されていたのですが、最近では数は力とばかりに自分の派閥に入るようにしつこく要請されています。表面上は穏やかに対応していても、内心でうんざりしている者は多いですわ」

「こちらもです。今までは歯牙にもかけない扱いだったのに、すり寄って来られて鬱陶しいことこの上ないです。しかも『わざわざ声をかけてやっているのだから、ありがたく思え』的な本音がだだ漏れですし。いい加減にして欲しいですね」

「予想はしていましたが……。それで、どうなのでしょう? お二方の陣営は、順調に勢力拡大をされているのですか?」

 再度確認を入れると、二人は今度は微妙に困惑した表情になって感想を述べる。


「何というか……。躍起になって周囲に働きかけていますが、それは寧ろ逆効果になっているようです」

「面従腹背というやつですね。色々面倒なので取りあえず友好的に応じておいて、陰で悪態を吐いている人が多くなっている印象です」

「それで、以前お渡しした両派閥に属している方達のリストですが、それらを考慮して手を入れたのがこちらです」

「本人が嫌でも、当主である父親や祖父の意向で従っている生徒も多かったのですが、そのような生徒も最近殿下達から距離を置きたがっている様子が散見されますからね。そこの家の意向が、うっすらと透けて見えるというものです」

 以前貰ったのと同じ物に線が引かれたり、但し書きが書き込まれた物を改めて受け取ったマグダレーナは、それに目を落として考え込みながら告げる。


「なるほど……。さすがに各派の中心的な家は揺らぎませんが、縁戚関係や利害関係で繋がっている所などは、今後どうなるか分かりませんね」

 そのまま少しだけ考え込んでから、マグダレーナは再び顔を上げた。


「ネシーナさん、ユニシアさん、引き続き周囲の観察と情報収集をお願いします」

「それは良いのだけど……、それ以外に何かする事はない?」

「もう少ししたら、お願いするかと思います。やはり当事者の考えを、じっくりと聞かせていただきたいので」

 今後の方針をマグダレーナが口にすると、ユニシアは驚いたように言葉を返した。


「まさかユージン殿下とゼクター殿下と直接に、ですか? でもマグダレーナさんは入学して早々にどちらとも揉めた上、長期休暇前にはあの成績開示騒ぎで、どちらからも絶縁というか蛇蝎のごとく嫌われていますよね?」

「おまけに長期休暇直後のあの騒ぎで、お二人から『余計な事を口にするな』と逆恨みされているのは確実だと思うのだけど……」

 ネシーナも、思わずといった感じで口を挟んでくる。そんな二人に向かって、マグダレーナは安心させるように微笑んだ。


「あの二人と取り巻き連中を相手に、友好的に会話をしようとは思ってはいません。揉めるのは覚悟の上です。お二人にあの方達の予定を教えていただければ、あとは私が何とかします」

 その決意に満ちた表情を見たネシーナは、諦めたように溜め息を吐いた。


「確かに単なる憶測ではなく、人となりもきちんと把握しておいた方が良いでしょうね」

「明らかに能力が無いのに、そんなものを把握するだけ無駄ではないでしょうか?」

 憮然として、するだけ無駄ではないのかと暗に口にしたユニシアを、ネシーナが若干困ったように宥める。


「ユニシアさん。騎士が、乗る馬より早く走らなければいけない理由はありませんわ。要は、早い馬を早く走らせる技量と判断力があれば良いだけのことですから」

「まあ、それは確かに、そうなのですけどね……。あいつらだったら早く走らせるどころか、乗り潰すだけだと思います」

「辛辣ね。でもその辺りは、マグダレーナが直に確認するべき事でしょう」

 そう話を纏めたネシーナは、マグダレーナに向き直った。


「それではあの方達の予定を、分かる範囲で伝えれば良いのね?」

「はい、お願いします。できるだけ、人目が少ない状態だとありがたいです」

「分かりました。ユニシアもお願いしますね」

「ええ。あまり気が進みませんが。でも直談判の時に揉めたりして大事になったら大変ですから、誰か近くに潜ませておくようにしてください」

「はい。そうします」

 二人から改めて協力を取り付けたマグダレーナは、今後の方針について早速考えを巡らせ始めたのだった。




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