(19)苛立ちと羨望
マグダレーナを中心として、不定期に行っている放課後の自主勉強会に、ローゼリアのような王子達の派閥に属している女生徒達が混ざるようになって、一ヶ月ほどが経過した。さすがに最初の頃は互いに気まずさを感じてぎこちなかったものの、その頃になるとだいぶ打ち解けて、勉強の合間に和やかに会話するくらいになっていた。
「皆様にお手数をおかけして申し訳ありませんが、やはり自分だけで復習するより、教えて貰った方が理解しやすいですわ。ありがとうございます」
「私もそう思います。それに授業内容の纏め方とか効率的な覚え方とか、官吏志望の方達だけあって教え方が上手ですもの。凄く助かっています」
そんな風に手放しで褒められたレベッカ達は、少々照れくさくなりながら言葉を返した。
「そんな大したことはありませんから。皆さんもアドバイスを素直に受け入れてくれますし」
「そうですよ。教えて欲しいと頼まれたら、断る理由なんてありませんし」
「幾ら分からなくても、平民相手に教えて欲しいなんてプライドが許さないなんて思っている人達とは違いますから」
タニアがそう口にすると、机を囲んでいた全員が顔を見合わせ、揃って溜め息を漏らした。
「あの方達は無理でしょうね……」
「それ以前に、少しは真面目に勉強しようなどと、殊勝な考えは持ち得ないのでは?」
「未だに陰口を叩き合っていますもの。相手を貶めるより、自分達の評価を高めようとは思わないのかしら?」
「自分達に積極的に売り込む材料が欠けているのは、理解しているのですよね」
ここで彼女達と同じように勉強をするために、自習室にやって来た男子生徒の一団が目に入った。その中の一人に目を留めたローゼリアが、愚痴っぽく呟く。
「こちらがうんざりしているのに、当事者の一人のエルネスト殿下は相変わらずですわね。ご自分には全く関係がないと思っておられるのでしょうか」
八つ当たり気味のその台詞に、周囲が同情しながら頷く。
「本当に、長期休暇前と全く変わりませんね」
「貴族の方もおられますが、平民と普通に交流していますし」
「というか、以前よりも親しげにしている方が増えていませんか?」
理解に苦しむといった感じの面々に、マグダレーナは同意しつつも話題を逸らすことにした。
「あの方はあれで構わないのでしょう。第三者が色々考えるだけ無駄ですわ。そろそろお開きにして、気分直しにカフェで少し休んでいきませんか?」
「そうですね。取りあえず、皆さんの疑問点は解消できた筈ですし」
「区切りは良いですね。そうしましょう」
そこで全員が荷物を纏めて立ち上がり、揃ってカフェに向かって歩き出した。マグダレーナは歩き出しながら、一瞬だけ横目でエルネストの様子を確認する。
(どんな噂が流れても、あの方には関係ないみたいね。学園生活を謳歌しておられるようで、なによりだわ)
平民や下級貴族の男子生徒達に囲まれて、楽しげに会話しているエルネストに僅かな苛立ちを覚えつつ、マグダレーナはその場を後にしたのだった。




