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悪役令嬢は優雅に微笑む  作者: 篠原 皐月
第2章 予想外の展開

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(18)勉強が息抜き

 長期休暇を終えてクレランス学園の寮に戻ったマグダレーナを待ち受けていたのは、一部で激化した刺々しい空気と敵愾心だった。従来のユージン王子派とゼクター王子派に加え、大公家などの第三勢力も水面下で生じてしまっており、何かにつけて他陣営を口汚く罵るまではいかなくとも、陰険で非難めいた噂話が蔓延していた。


(全く……、寄ると触ると他人の噂話。しかも相手をあげつらう内容ばかりで、人間性を疑うわ)

 たまたまレベッカやローニャに他の人間との約束があり、その日、食堂に一人で向かったマグダレーナは、周囲の視線などものともせず昼食を受け取ってテーブルに着いた。長期休暇前のあれこれで、一番五月蠅い人間達が寄ってこないのを幸い、彼女は悠々と食べ進める。しかしわざと周囲に聞こえるように声高に話しているとしか思えない誹謗中傷の類いが耳に届き、マグダレーナは表情はそのままに、内心で密かに苛立っていた。


(周りの方達もうんざりしきっている様子なのに、当の本人達は察することもできないみたいだし。忠告してあげる人材も皆無と見えるわ。ここまで鈍感で無神経だと、いっそ呆れるのを通り越して羨ましく思えてしまうわね)

 マグダレーナがそんな考えを巡らせていると、控え目に声がかけられた。


「マグダレーナ様、失礼します。こちら、よろしいでしょうか?」

 斜め後方に視線を向けた彼女は、そこに佇むクラスメートを認めて笑顔で応じる。


「はい、ローゼリア様。こちらは空いておりますので、どうぞご遠慮なく」

「それでは失礼します」

 軽く頭を下げて隣に座った彼女に、マグダレーナは訝しげに尋ねた。


「ローゼリア様。勧めておいてどうかとも思いますが、私の隣に座ってもよろしかったのですか? メルリース様を筆頭に、ご友人達があなたを非難することになりませんか?」

「その時は、『お側にいるメルリース様の恥にならないように、学年トップのマグダレーナ様に勉強を教えていただけないか相談していた』と言いますから」

 僅かに眉根を寄せて言い切ったローゼリアを見て、マグダレーナは深く同情した。


「なるほど……。そんなに居心地が悪いのですか?」

「休暇明けから我慢していましたが、日に日に悪化してきて。良くもまあ、あそこまで他人を誹謗中傷する台詞が吐けるのかと、呆れ果てました。あの方達と同類だと、思われたくありません」

「お気持ちは分かりますが、あまり自棄にならない方が良いです。勿論、勉強は放課後にでもお教えしますので。勉強をしているふりで、雑談なども良いですわね」

 硬い表情のローゼリアに、マグダレーナは茶目っ気たっぷりに笑って見せた。それを目にしたローゼリアの表情が、自然に緩む。


「ありがとうございます。確かに歴史の成績が良くなかったので、マグダレーナ様のお時間がある時に、雑談付きで教えて頂けたら嬉しいです」

「勿論ですわ。予定を摺り合わせましょう」

「ですが……、マグダレーナ様の方は構わないのですか?」

 ここで若干心配そうに問われたマグダレーナは、薄く笑いながら答えた。


「あなたのようなメルリース様近くの人間、もっとはっきり言うとゼクター王子派の人間と交流がある事についてですか?」

「はい、そうです」

「自分の味方でない者は全て敵で、少しでも関わり合うのを許さないだなんて、どんな独裁者ですか。だいたい学園内で、そんな事を命じる権利など誰にも存在しませんもの。気にするのも馬鹿馬鹿しいですわ」

「そうですね。おかしな事なのですよね……」

 ここでマグダレーナは、きっぱり断言した。それを聞いたローゼリアは、苦笑してから溜め息を吐く。そこでマグダレーナは、優しい口調で付け加えた。


「ですが、そう割り切れない方もおられるのは理解しております。ですからローゼリア様は、周囲と角が立たない程度に私と関わっていただけたら嬉しいです。それから、周囲に同じような方がいたら、勉強を教えて貰うのを口実に私と接触するようにお話ししてください。誰にだって息抜きは必要ですわ」

「分かりました。ありがとうございます」

「それにしても……、勉強するのが息抜きだなんて、本末転倒ですわね」

「確かにそうですね」

 そこで二人は顔を見合わせて笑ってしまい、それから食べ終わるまで雑談をしながら楽しくひと時を過ごした。そして会釈して立ち去るローゼリアを見送ってから、マグダレーナは何事もなかったかのように歩き出す。


(真っ当な感性をお持ちの方は、なかなか辛いでしょうね。全く気にされないで、大声で吹聴している方の方が多いけど。本当に困ったものだわ)

 本人達の評判が落ちるのは構わないが、周囲に迷惑が広がるのをなんとかできないだろうかと、マグダレーナは新たな難題に頭を悩ませる事になった。




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