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悪役令嬢は優雅に微笑む  作者: 篠原 皐月
第2章 予想外の展開

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(11)探り合い

「この国に生まれ育ち生活している者達が希望を持って生きていけるのは、それだけで十分幸せな事だよ。ほんの二十年前は平穏な生活など望めないほどに、この国は荒廃していたからね。私も直に見聞きしたわけではないけど」

「そうですわね。それはひとえに、陛下と陛下を支える方々の手腕と力量が群を抜いておられたからですわ。当時の我が国にとって、本当に幸運な事でした」

「確かにそうだね、マグダレーナ」

(いきなり何を言い出すのかと思ったら……。エルネスト殿下の前で変な事を口走らないよう、一応お兄様を牽制しておかないと)

 いきなりこんな場所で何を言う気かと、マグダレーナは慎重に会話を続けた。それと同時に、目線で(あまり変な事を口走らないでよ)と訴える。しかしリロイはそんな妹の視線を物ともせず、薄く笑いながらとんでもない事を言い出した。


「だが、今後はどうかな? 未来永劫、この平穏が続くとは限らない。その偉大な陛下が急死なさった場合、この国の行く末がどうなるのか興味はないかい?」

「なっ!?」

(ちょっと! 現時点で万が一にもあれにポックリ逝かれたら、治まるものも治まらなくなるじゃない! 本音を言えばポックリ逝ったら清々するかもしれないけど、縁起が悪すぎる物言いをしないで!!)

 動揺のあまり、マグダレーナは内心でかなり失礼な事を考えながら周囲の様子を伺った。幸いというか何というか、エルネストはキョトンとした表情でリロイの話に耳を傾けているだけだった。しかしマテルとレベッカが見事に固まっているのを見て、マグダレーナは頭痛を覚える。ただ一人ネシーナだけは平然と手元の布袋に手を入れて、何かを探す動作をしていた。そんな中、リロイの容赦がなさ過ぎる話が続く。


「ついこの前の舞踏会でも未だに誰も立太子されていないと、出席者の間で話題になっていたし」

「あっ、あの、お兄様!!」

「まあ確かに、あの陛下の後継者になったらなったで大変だろうけどね。だって事あるごとに、先代と比べられる事になるんだよ?」

「何を言って」

「それでも進んでなりたがろうとするなんて、底抜けの馬鹿かとんでもない自虐趣味があるのか、どちらかだと思うのだけど」

「戯れ言もいい加減に!!」

「その辺りをどう思われますか? エルネスト殿下」

「…………」

(ここで……、当事者の殿下にそんな話を振るとか……。もうマテル殿もレベッカも、頭の中が真っ白になったような顔つきで固まっているし……。ネシーナさん、その動じなさはさすがです。未来の義姉はあなたしかいません)

 何とか話の軌道修正を図ろうと、兄の話を遮ろうとして失敗してしまったマグダレーナは、リロイが満面の笑みでエルネストに話を振ったことで、完全に事態の収拾を諦めた。そして視界の隅に、布袋から編み棒と糸を取り出して一心不乱にレースを編み始めたネシーナを捉え、涙目で項垂れる。

 そんなマグダレーナとは対照的に、エルネストは微塵も動じずに言ってのけた。


「そうですね。確かに後先考えられない底抜けの馬鹿か、他者から虐げられて喜ぶ趣味の人間なら、喜んで父上の後継者に立候補するでしょうね」

(殿下、笑顔で口にする内容ではありませんから。本当に、色々な意味で読めない人ね)

 マグダレーナはうんざりして口を挟む気も失ったが、リロイは実に楽しげにそれに応じた。


「そうですか。そういう人間が、陛下の近くにおられれば良いですね」

「別に、近くにいなくても良いのではありませんか? 現に十分な能力を持つ方は、目の前に存在していますし。馬鹿か自虐趣味がなくても、それなら良いかと思います」

 軽く首を傾げながら、エルネストが意見を述べる。それを聞いたリロイは、僅かに皮肉っぽい笑みを浮かべながら問い返した。


「……何のことでしょう?」

「リロイ殿に国政を委ねれば、万事上手くいくと思うのですが。この際景気よく、玉座を奪ってしまいませんか? あなただったら十分可能だと思いますよ?」

「…………」

 微笑みながらエルネストが勧めてきた内容を聞いて、リロイは無言になった。しかしその表情はマグダレーナから見ると不穏そのものであり、内容が内容な事もあって激しく狼狽する。


(殿下!? あなた、自分の立場を理解しているんですか!? 何をサラッと王位簒奪を唆しているのよ!? マテル殿とレベッカが目を見開きすぎて眼球が転げ落ちそうだし、それよりなによりお兄様が相手に黙らされたのを初めて見たかも!? そしてネシーナさん! この修羅場の中、平然と編み続けていないで、何とかしてください!)

 マグダレーナがオロオロと周囲を見回す中、リロイが身内だけに分かる獰猛な笑みを浮かべつつ口を開く。


「ほうぅ? 一応、褒めていただいているのかな?」

「勿論、そのつもりですが」

 ここで焦りまくったマグダレーナが、必死の形相で男二人の会話に割り込んだ。


「エ、エルネスト殿下!! 先程の発言は、見当違いにも程がありますわよ!?」

 その叫びに、二人は怪訝な顔で彼女に向き直る。


「マグダレーナ?」

「マグダレーナ嬢? 私は何か間違った事を口にしただろうか?」

「ええ、そうですわ!! お兄様はとことん非常識ではありますが馬鹿ではありませんし、自虐趣味などかけらも無い、他人を陥れて虐げて喜ぶタイプのろくでもない人間ですのよ!? こんなのを国王に戴いたら、国民が一人残らず不幸になるだけですわ!! それは妹の私が保証します!!」

「…………」

(あ、なんだか……、話の流れを変えるのに必死で、支離滅裂なことを口走ってしまった気がする……)

 自分を凝視している彼らを眺めたマグダレーナは、自分がかなりずれた発言をしてしまったのを自覚した。しかし撤回も訂正もできずに口を噤んでいると、エルネストは盛大に噴き出し、楽しげに笑い出す。


「ぶふぁっ! そんなことを力一杯主張しなくてもっ……、わ、笑えるっ」

「殿下。身内からここまで悪し様に罵られている人間を、玉座に据えて良いと思われますか?」

「そうだね。やめておいた方が良さそうだ」

「賢明な判断です。それではそろそろミュラーバ教会へ向かいましょうか」

 そこであっさり話題を変えたリロイに、エルネストが素直に頷く。


「そうしましょう。マテル。悪いけど、このグラスを集めて、屋台に返してきて貰えないか?」

「分かりました。それでは皆さん、お預かりします」

「あ、私も手伝います」

 そこで全員が動き出し、つい先ほどまでの話題は表面上、忘れ去られていった。





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― 新着の感想 ―
このお兄様が黙らせられるの、なかなか珍しいんだろうな…… めちゃくちゃ慌てて力いっぱいお兄様下げ発言しちゃうマグダレーナ様かわいいですね…… 我関せずと一人レース編みをはじめるネシーナ様も凄い。もと…
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