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悪役令嬢は優雅に微笑む  作者: 篠原 皐月
第2章 予想外の展開

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(7)気晴らし?

「……そんな風に、長期休暇に入って早々面倒な人達に絡まれて、気が滅入っていたのよ。声をかけてくれて嬉しいわ」

「タイミング良く、マグダレーナ様の気晴らしができそうで良かったです」

 長期休暇中は故郷の実家ではなく王都の伯父宅に帰省していたレベッカは、下町散策をマグダレーナに提案し、その下準備を抜かりなく進めていた。

 そして当日。キャレイド公爵邸出入りの商会店舗の一角で、マグダレーナは彼女が準備していた簡素な衣類に着替えつつ愚痴を零していた。着替えを手伝いながらレベッカは相槌を打ち、それが終わるとしみじみとした口調で感想を述べる。


「マグダレーナ様、完璧です。どこからどう見ても、見た目は下町の女性ですね」

 賞賛の言葉ながら、どうにも素直に頷けなかったマグダレーナは、僅かに首を傾げながら問いを発した。


「レベッカ……、今の台詞は微妙に引っかかりを覚えるのだけど。『見た目は』ってどういう事かしら?」

 それに対し、レベッカが真顔で断言する。


「髪型とか服装とかは完璧に平民ですけど、肌が綺麗で手や指先も荒れていないくて、漂う雰囲気が優雅なんですよ。言葉遣いもそうですし、直に接したら上級貴族のお嬢様までは思われなくても、相当良いところのお嬢さんとは思われるでしょうね」

「そういうものかしら?」

「そういうものです。でもマグダレーナ様の横に、どこからどう見ても庶民の私がいれば、どうとでも誤魔化せますからご心配なく」

 自信満々に胸を叩きながら保証したレベッカを見て、マグダレーナは思わず笑ってしまった。


「そんな風に言われたら、笑えば良いのか困れば良いのか分からないわ」

「それでは準備ができましたし、下町散策に繰り出しましょう! 途中で美味しい屋台もご案内しますね」

「楽しみだわ」

 そしてレベッカは先導して歩き出し、廊下を進んで店舗スペースに足を踏み入れた。すると使用人達に指示を出しつつ、帳簿を精査している商会会頭と目が合う。


「それじゃあ、伯父さん。行ってきます」

「ああ、お嬢様を頼んだぞ。お嬢様、お気をつけて」

「ええ。楽しんできます」

 笑顔で見送られた二人は、店舗を出て大通りを並んで歩き出した。すると少し歩いてから、レベッカがさりげなく周囲を見回しつつ、若干不安そうに囁く。


「一応、事前に簡単な行動予定表を公爵邸にお届けしておきましたが……、護衛、付いて来ていますか?」

 さすがにマグダレーナを危険な目に合わせるわけにはいかず、予め公爵家には行き先などは知らせておいた方が良いだろうと、レベッカは事前に公爵邸に連絡しておいた。しかし目に付く範囲に騎士の一人も存在していないため、レベッカは不安になってしまったのだった。しかしマグダレーナは、彼女の懸念を苦笑しながら打ち消す。


「大丈夫よ。私達からある程度の距離を取って、変装もして目立たないようにしているけど、常に四人から六人は配置されているから」

「全然分からない……、さすがですね」

 生まれてから一度も単身で街中を歩いたことなどなかったマグダレーナは、本心から感心しているらしいレベッカの様子に、少しだけ苦い思いをした。しかしそれは面には出さず、さりげなく話の矛先を変える。

 

「常にお兄様の無軌道ぶりに翻弄されて、隠密行動に慣れている人達ですからね。あなたから届けられた行動予定表を見て、『こんな気配りをしていただけるなんて』と、警護責任者が落涙していたわ」

「マグダレーナ様、話を盛っていませんか?」

「あなたに対しての感謝の言葉も、複数通り口にしていたけど。全て覚えているからここで教えましょうか?」

「もう止めましょう。それであれば、万が一危険な事があっても、大抵の事には対処できますね」

「ええ。その辺りは安心して頂戴」

 マグダレーナの話を聞いてレベッカは安心したように頷き、それから楽しげに会話しながら足を進めた。



「ここは庶民の女性達が使う化粧品や装飾品、日用品などを取り扱う小間物屋です。マグダレーナ様が普段使いするような物は置いていませんけど、結構素敵な物が揃っていますから、見ているだけでも楽しいですよ?」

 ある店の扉を開けながら、レベッカは楽しげに後ろを歩くマグダレーナに説明した。それにマグダレーナも笑顔で答える。


「ええ、話には聞いていたけど、実際見るのは初めてよ。そもそも自分でお金を払って買い物とかする機会も滅多にないし、楽しみにしていたわ」

「マグダレーナ様に楽しんでもらえるよう伯父から軍資金を貰ってきましたし、欲しい物があったら遠慮無く仰ってくださいね?」

「ちゃんとお金は持ってきたから大丈夫だけど」

「いえいえ、この手の雑貨にいきなり金貨を出したら駄目ですって。絶対店の人に怪しまれ、げっ!?」

「レベッカ、急にどう……」

 店内に入った二人は数歩も歩かないうちに、目の前に見覚えがありすぎる人間がいるのを認めて固まった。そんな彼女達に向かって、気安げに声がかけられる。


「やあ、マグダレーナ、レベッカ。こんな所で奇遇だね。今、こちらの方達にも挨拶をしていたところだよ」

「こんにちは、マグダレーナ。レベッカさん、お話はリロイ様から伺っています」

「君達も買い物かい? 今日は天気が良くて良かったね」

「……殿下、どなたですか?」

 兄と未来の兄嫁と、面倒くさい王子とそれにくっついている身元不明の若者が、お世辞にも広いとは言えない店内で一堂に会しているを認めたマグダレーナは、がっくりと肩を落とした。


(どうしてこんな事になっているの……。神様、何か私に恨みでもおありなのですか!? 束の間の心の平穏すら、与えていただけないなんて!)

 心の中でそんな泣き言を漏らしたマグダレーナだったが、そんな彼女を放置して事態はどんどん動いていった。





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