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悪役令嬢は優雅に微笑む  作者: 篠原 皐月
第2章 予想外の展開

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(5)誘導

「おや? 何やら揃って理解不能と言いたげな顔つきだが、我が家の方針が特殊というわけでもないと思うのだけどなぁ」

 呆然としている者達に向かってリロイが声をかけると、二人は僅かに顔を顰めながら言い返してくる。


「理解不能なのは、そちらのお話の方でしょう」

「そうです。女性に家督を譲るだけではなく、その後継者を余所から養子で迎えるだなんて」

「別に、完全に赤の他人というわけではなく、我が家の血筋から選ぶと申し上げたつもりでしたが。お耳に入らなかったのでしょうか」

「それに、そういう考えは、何も我が家に限ったことではないだろう? 国王陛下もそうお考えではないのかな?」

 兄妹が当然のごとく口にした内容に、バナンとルーランは思わず声を荒らげた。


「なっ、何を馬鹿な事を!」

「不敬にも程がありますよ!?」

 そんな動揺著しい二人を半ば無視しながら、リロイとマグダレーナが大真面目に語り出す。


「そんなに的外れな考えではないと思うのだがなぁ……。マグダレーナはどう思う?」

「一理ありますわね。まず第一に、れっきとしたご子息が三人もおられるのに、未だに後継者を選定せず、立太子式も執り行われておりません。それは何故か、その理由をお考えになった事はございませんの?」

「そっ、それはっ!」

「陛下がどの方にするのか、迷っておられるだけだ!」

「お若いうちに即位して以来、類い希なる治世を築き上げてきた、即断即決で知られる陛下がですか? ご子息の中から、後継者を選ぶつもりがないとも考えられませんか?」

「何だと!?」

「無礼だぞ! マグダレーナ嬢!!」

「マグダレーナは、単なる可能性を挙げてみただけなのだが。まだ若くとも、これはと見込んだ人物が息子の中にいれば、陛下は迷わず立太子させると思うのだけどね。そうは思わないかい?」

「…………」

 不思議そうに小首を傾げながらのリロイの主張に、周囲は咄嗟に反論できずに押し黙った。それには構わず、兄妹の冷静な会話が続く。


「確かに、全くの赤の他人を後継者に迎えるのは混乱の元だが、陛下に血が近しい方々はそれなりにいらっしゃるだろう。陛下のご兄弟で一代限りの大公位を授かった方の中には、何人もご子息がいらっしゃる」

「慣例であればその方達は平民扱いになって、ご自分の能力で身を立てなければなりません。ですがその方達が養子縁組で貴族籍になるのは、これまで数多くの前例がありますもの」

「公式行事では殆ど顔を合わせないので詳しく人となりは存じないが、人伝ではなかなか優秀な方もいらっしゃると伺っているし」

「そうですわね。ええと……、あの方とか、あの方とか、あの方とか……」

「おや、マグダレーナは誰のことを思い浮かべているのかな?」

「恐らく、お兄様と同じ人物かと思いますわよ?」

「…………」

 周囲の重苦しい沈黙など綺麗に無視しつつ、リロイとマグダレーナは「あはは」

「うふふ」と楽しげに笑い合ってから話を続けた。


「第一、陛下はお若い時分に即位して、まだまだお若いのですもの。迂闊に『いい加減に後継者を決めろ』などとごり押ししたら、不快に思われるのに決まっておりますわ。まるで『早く退位しろ』と、面と向かって強要しているのと同じではありませんか」

「なっ!?」

「まさかそんなことは!!」

 さらりとマグダレーナが口にした内容に、バナンとルーランが顔色を変えた。しかし彼らが反論しようとするのを、リロイがさりげなく遮る。


「そうだね。そんなことにも気がつかないで、何かにつけ王太子を決めるように話を持ち出したら、それだけで陛下の不興を買っていそうだ」

「そうなると、そんな風に勧められた人間を却って疎んじたくなったりするのが、人情というものではありませんか?」

「普通だったら、そうなってもおかしくはないだろうね。だが陛下は普通のお方ではないから、どう考えておられるのかは分からないよ。常日頃、感情を面に出されない方らしいからね」

「そうなのですね。それでは実際に不快に思われていても、余人には推し量ることなど不可能ですわね」

「それが王者というものではないかな」

「確かにそうですわね」

 兄妹のやり取りを聞いた者達は、もしかしたらこれまでかなり陛下の不興を買っており、更にそれが原因で王子達が立太子されていないのではないかと疑心暗鬼に陥った。そして顔色を変えて黙り込んでしまったバナンとルーランに対し、リロイが訝しげに声をかける。


「二人とも、急に黙り込んでどうかしたのかい?」

「申し訳ありません。何やら、話題が大幅に逸れてしまった気がします。何についてお話ししていたでしょうか?」

 マグダレーナも申し訳なさそうな表情を装い、神妙に問いかけた。それで我に返った二人は、挨拶もそこそこにその場から離れていく。


「あ、いや……、こちらの話は終わりましたので、失礼します」

「私も失礼します」

 足早に遠ざかる二人の背中を眺めながら、リロイとマグダレーナは笑いを堪える風情で囁き合う。


「これくらいで顔色を変えて退散するとは、腹芸が全くできていないな。スピオルト侯爵家とデュアック伯爵家の未来は、あまり明るくなさそうだ」

「陛下が養子縁組する可能性を、微塵も考えていなかったとみえますね。まあ、無理もありませんが」

「我が家を引き合いに出してみたら、もしかしたらと不安になったらしいが、考えが浅いな」

「取りあえず、エルネスト殿下の我が家への婿入り話は、立ち消えになりそうでしょうか」

「事あるごとにどちらかの王子を王太子にと要求してきたはずだから、陰で陛下の不興を買っていたのかもと一気に血の気が引いたらしいからな。そんなことに気を留める余裕はなさそうだ。親共々、今後は迂闊な言動ができなくなるのではないか?」

「それならこの際、大叔父様経由で、陛下に小芝居をしていただくように要請してみませんか? お前達が事あるごとに勧めてくるのが鬱陶しいと、暗に匂わせていただくとか」

 ちょっとした悪戯心から、マグダレーナが唆してみる。するとリロイは僅かに驚いたような表情になってから、その日一番の楽しそうな笑みを浮かべた。


「マグダレーナ……、そんな面白そうな事、私が拒むわけないだろう。小者達が右往左往するのを想像するだけで、笑いが止まらなくなりそうだ」

「そう言ってくださると思っていましたわ」

 そこでマグダレーナは、ほんの一瞬だけ鬱屈を忘れて本心から笑った。しかしその心の平穏は、長くは続かなかった。



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