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(41)驚愕の事実

「マグダレーナ、何を言っているのか分からんが?」

「恐らくですが……、前々から大叔父様達はエルネスト殿下について、王位継承者たる素質があるか探られていたのでは? しかし父親である陛下と同様に王位への執着心は乏しいどころか皆無としか思えず、能力は平々凡々としか思えない。だがあの陛下のご子息であれば、他人を謀るなど容易いのでは、と……」

 マグダレーナは探るような視線を向けて、大叔父の反応を観察した。しかしテオドールは全く表情を変えないまま、小さく頷いただけだった。


「推測としては悪くないな」

「ここで一つ、大叔父様にお尋ねしたいことがございます」

「改まって何事だ?」

 ここでマグダレーナは少し前から感じていた違和感について、慎重に問いを繰り出す。


「以前私に王子殿下達の見極めを要請された時、大叔父様は『陛下が即位を固辞していたが泣き落としと期間限定で即位を了承して貰った』と仰っておられました」

「そうだな。それがどうかしたのか?」

「しかし、王子殿下達及び婚約者まで纏めて答案用紙を即刻公開させるなど、容赦がなさ過ぎます。特にフレイア様に関しては、下手をすればナジェル国との軋轢を生じさせかねない可能性すらありました。そんな苛烈な方が、たかが泣き落としと期間限定の制約だけでおとなしく即位するとは考えにくいのです。当時大叔父様達は、一体何をされたのですか?」

 鋭くマグダレーナが質問を投げかけると、テオドールはその追及の視線を真っ向から受け止めつつ、感慨深く呟く。


「ふむ……、お前だったらその辺りは察しても、流しておくかと思ったのだがな」

「やはり、何か相当面倒な、陛下の要求を飲んだのですね?」

「もう二十年以上前の話だ。お前が気にする事ではあるまい」

 素っ気なく返されたマグダレーナは、少々気分を害しながら言葉を継いだ。


「大いに気になります。現にエルネスト殿下は、傍目には全く王位に対して興味も執着も持っていないように見受けられます。もし殿下を後継者として推すことになった場合、まず本人にそれを了承していただく方策も併せて考えておかなければいけないでしょう」

「なるほど。そこまでは考えていなかったな」

「確かに、あの殿下は扱いにくそうではあるね」

 マグダレーナの指摘に、ランタスとリロイも思わずと言った感じで考え込む。その三人の視線を受けたテオドールは、落ち着き払って問い返した。


「それで、参考までに当時の詳細を聞いておきたいと?」

「そういう事です。今更、多少の事では驚かない自信はありますし、誰に詰問されても口外しないのをお約束します。私の口約束だけでは不足でしょうか?」

「いや、お前がそこまで知りたいのなら構わない。それなら話しておくか。私には息子が二人いるが、下の息子の事はマグダレーナも知っておるだろう?」

「はい。ダニエル様ですよね?」

 唐突に話題を変えられたと感じたマグダレーナだったが、不振に思いつつもすぐに該当する人物の名前を口に出した。


「出自も当然知っておるだろうな?」

「はぁ、大叔父様がお年を召してから外の女性に産ませた庶子で、出産直後に母親が亡くなって、大叔父様の屋敷で引き取って育てたと……」

 テオドールの上の息子とは親子ほど年が離れ、自身とは十歳も違わない父の従弟を、マグダレーナは脳裏に思い浮かべた。

 引き取られてから親戚筋でも噂になっていた彼は、幼少期のマグダレーナの目から見ても才気溢れる少年であり、複雑な生い立ちであっても心根の優しい思慮深い青年に成長した。彼女は密かに(大叔父様はどうしてダニエル様を分家の跡継ぎにしなかったのかしら)と疑問に思っており、それを思い返して微妙な表情になってしまう。するとここで、何やらしみじみとした口調でランタスが口を挟んできた。


「あの時の騒動は、本当に凄かったですな……。ダニエルの話を聞いたモニカ叔母上が錯乱して叔父上に斬りかかって、使用人達が総出で取り押さえて。分家から駆け込んできた使用人から『本家の旦那様と奥様から、うちの奥様を宥めていただけないでしょうか』との必死の形相での懇願を受けて、父上と母上が慌てて仲裁に向かったのが、昨日のことのように思い出されます」

 父親の台詞を聞いたリロイとマグダレーナは、瞬時に驚愕の叫びを上げた。


「何ですか父上、その話は!? 初耳ですが!? それに、あの温厚な大叔母上が大叔父上に斬りかかったですって!?」

「私もです!! それに大叔母様は、もの凄くダニエル様を可愛がっておられたではないですか!? 褒められると、本当に嬉しそうにしておられましたし!」

 それにランタスが言葉を返す前に、テオドールがサラリと更なる驚愕の台詞を口にする。


「そのダニエルだがな。実は陛下の庶子だ。私とモニカで一芝居打って、私の庶子として引き取って育てた」

「…………はい?」

「簡単に言うと、庶子の存在が他の王族、特に当時の国王や王妃に露見したら母親もろとも消されかねない。取りあえず黙っているし子供はきちんと養育するから、さっさと王座に就いて目障りな者を排除するようにと要請した」

 淡々とした口調での状況説明に、マグダレーナは勿論、ランタスとリロイも理解が追いつかずに固まった。しかしいち早く気を取り直したマグダレーナが、テオドールに向かって憤慨しながら怒声を放つ。


「信じられません!! 大叔父様!! そんな人でなしな事を、本当になさいましたの!? それは要請ではなく、世間一般的には脅迫と言いますのよ!?」

「そうかもしれんな。しかし事態打開のためにしたことだ。全く恥だとは思っていないし、後悔もしていない」

「…………」

 微塵も揺らがない様子のテオドールに、マグダレーナは呆気に取られると同時にすこぶる感心してしまった。




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― 新着の感想 ―
だんだん、過激な事実が明らかになっていく。 どんなとんでもない結末が待っている?
エセリアへと続いていく、なんていうか『血』の濃さを確かに感じさせるエピソードですね…。
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