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悪役令嬢は優雅に微笑む  作者: 篠原 皐月
第1章 とんでもない貧乏くじ

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(38)隠し部屋でのやり取り

 放課後になってからマグダレーナは教授棟に出向き、いつも通り人目をはばかりながらの隠し部屋に入った。すると微妙な顔をしたネシーナとユニシアに出迎えられる。


「マグダレーナ、大丈夫? 顔色が良くないわ」

「昨日の今日で、とんでもない事になりましたね」

 それで緊張の糸が切れてしまったマグダレーナは、力なく床に崩れ落ちた。そして項垂れて床に座り込んだまま、怨嗟混じりの愚痴を漏らす。


「そうですよね……、もう学園内で知らない人などおりませんよね。あんな場所に堂々と貼り出されたりしたら。しかも一週間だなんて……。本当に、何をやらかしてくれるのよ。あのろくでなし国王と考えなし王子どもが……」

 ブツブツとつぶやいているマグダレーナを見て、ネシーナとユニシアは無言で顔を見合わせた。しかし傍観もできないと思ったネシーナが、控え目に声をかけてみる。

 

「あの……、マグダレーナ? 一応人伝に話を聞いてはいるのだけど、当事者のあなたから詳しい状況を教えてもらえるかしら?」

 それで気を取り直したマグダレーナは、ゆっくり顔を上げて頷いた。


「ええ、構いません。そもそもの発端は、昨日の放課後に成績優秀者の発表を眺めていた場で、絡まれた事なのですが……」

 マグダレーナが一部始終を語り終えると、二人は揃って溜息を吐いた。 


「あなたが王子達や婚約者の方々に、この際圧力をかけておこうと考えたのは間違ってはいないし、通常だったらあなたの想像通りに事が進んだと思うのだけど……」

「エルネスト殿下が、答案公開に賛同してしまったのが運の尽きでしたね……」

「そうですよね!? あれで話の流れが変わってしまって! あれさえなければ自分が考えた筋書き通りに、話が纏まったはずなのに! それを思い出すだけで悔しいです!」

 憤然として訴えてくるマグダレーナに、ユニシアは怪訝な顔で問いを発した。


「え? あの……、マグダレーナ様、聞いても良いですか?」

「何でしょうか?」

「マグダレーナ様は、今回の出来事が予想以上に大事になってしまって頭を抱えてしまっているのではなくて、自分が思う通りに事が運ばなかった事に対して腹を立てているんですか?」

「確かに国王陛下が絡んで話が一気に拡大したのは不本意だったけど、そうなったしまったものは仕方がありません。でも私の思う通りにならない言動をする人間なんて、お兄様だけで十分です!」

「はぁ、そうですか……」

 マグダレーナの剣幕に、ユニシアは呆気に頷く。ここでネシーナが、冷静に会話に割って入った。


「昨日のうちにリロイ様には簡潔に知らせておいたのだけど、今日中に詳細をマグダレーナから報告してもらえるかしら。折しも長期休暇直前。即ち社交シーズン到来の時期ですもの。在学中の貴族の子女から家族に伝わって、噂が広がるのは確実だわ」

 その的確な指摘に、各貴族家の動向を探る絶好の機会にもなり得ると察したマグダレーナは、瞬時に真顔になって頷く。


「確かにそうですね。てっきり、学園側の対応にもう少し時間がかかると思っていて、昨日の時点では家に報告をしていませんでした。私から改めて、詳細を伝えることにします」

 そこでユニシアが、笑いを堪える口調で感想を述べた。


「例の答案用紙を私も見てきましたけど、マグダレーナ様と他の皆様は、場逆の意味で凄いですよね。普段あれだけ偉そうにしているのに、あれでは鼻で笑ってしまいますよ」

「ユニシア?」

「すみません。でも、同じような感想を持つ人間は多いと思いますよ?」

 ネシーナに軽く窘められ、ユニシアは苦笑いで応じる。そんなやりとりを聞いたマグダレーナは、冷静に言葉を継いだ。


「定期試験の成績だけで、人としての優劣が決まるわけではないと思います。ですがあの方達には、それを補って余るほどの人間的魅力や人望などが備わっているとは思えません。……これは単なる私見ですが」

「まだ結論を出す時期ではないでしょうし、ゆっくり観察していけば良いわ」

「そうですね。それにしても……、長期休暇で屋敷に戻ったら、絶対今回の不手際についてお兄様にからかわれるわ……」

 がっくりと肩を落としたマグダレーナを見て、ネシーナが意外そうに尋ねる


「リロイ様があなたをからかうの? 確かにあの人は、余人には分からないように他人の足を引っ張ったり、水面下で工作して他人を陥れたり、人知れず誘導して他人を思うように操ったりするのは大好きだと公言しているわ。でも日々の言動から察するに、妹さん達に対する愛情は人並み以上だと思っていたのだけど」

 真顔での人物評を聞いたマグダレーナは、がっくりと肩を落としながら呻くように問いかけた。


「……ネシーナさん。私が口にするのもどうかと思うのですが、そんな人間が婚約者で、本当に良いのですか?」

「最初から分かっていれば、覚悟も理解もできますので大丈夫です」

「ありがとうございます。あんな兄の引き受け手があっただなんて、本当に安堵のあまり、涙を堪えきれませんっ……」

 未来の姉から穏やかに微笑まれたマグダレーナは、思わず目頭を押さえた。それにユニシアの、しみじみとした感想が続く。


「実の妹に泣かれるだんて、やっぱり相当タチが悪い方なんですねぇ」

「リロイ様の愛情は、ちょっと屈折しているだけですから。マグダレーナをからかうのも、ちょっとひねくれた愛情表現でしょう。でもよほど酷かったりタチが悪かったら、私に言ってください。ちょっと殴っておとなしくさせますから」

 それを聞いたマグダレーナは、唖然としながら問い返した。


「『殴る』って……、ネシーナさん。そんなことをするつもりですか?」

「つもりではなくて、既に何回か実施済みよ。だけどこの前は『君に殴られるなら本望だ! それに段々心地良くなってきた気がするよ!』と感極まった叫びを上げていたから、そろそろ別の方法を考えようかと思っていたところなの。何か良い考えはあるかしら?」

「あのお兄様相手に、凄いですわね。本当にネシーナさんは大物で、兄の伴侶に相応しいと思います」

「ありがとう。嬉しいわ」

「それで先ほどの問いですが、殴って駄目なら縛るとか吊すとか監禁するとかどうでしょう?」

「結構手間がかかりそうね。私にできるかしら?」

 互いに真顔でろくでもない議論を始めてしまった二人を、ユニシアが冷静に宥めた。


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