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悪役令嬢は優雅に微笑む  作者: 篠原 皐月
第1章 とんでもない貧乏くじ

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(36)策士、策に溺れる

(さすがに無関係なエルネスト殿下を巻き込んだら、当然ご本人は断固として拒否するもの。学園長も私の主張を無碍に退けるわけにはいかなかったでしょうが、エルネスト殿下の答案まで公開しろとの無茶にも程がある要求を、容認するわけにはいかないはずよ)

 予想外の指名に軽く目を見開いて微動だにしないエルネストと、さすがに顔を強張らせたファムビルを眺めながら、マグダレーナは考えを巡らせた。


(これで学園長は私の行き過ぎた行為を嗜めて、エルネスト殿下の他にも名前を挙げていた四人の答案公開要求を却下する理由にできるわ。それで学園側の立場を損なう事なく、穏便にこの場を収める流れになるでしょう)

 そう推察したマグダレーナは、満足して密かにほくそ笑む。


(私を本気で怒らせたら容赦しないと、あの方々に知らしめる良い機会になったし、今後は傍若無人な物言いを控えさせるようにしっかり釘を刺せたし。完璧だわ)

 そんなマグダレーナの自画自賛を、エルネストの台詞が木っ端微塵に叩き壊した。


「マグダレーナ嬢がそう望むのであれば、私は構いません」

「え?」

「は?」

「私の答案など、成績優秀者として掲示されるマグダレーナ嬢のそれとは比べ物にならない平々凡々な代物で恥ずかしいのですが、それであなたの気が済むならどうぞ」

(何を言っているのよ、この人!? 正気なの!?)

 自分で無理難題をふっかけておきながら、マグダレーナは内心でエルネストを叱りつけた。それは彼の兄達も同様だったらしく、顔を蒼白にしながら怒鳴りつけてくる。


「ちょっと待てエルネスト!」

「お前、正気か⁉︎」

「はい。誹謗中傷を傍観していた連帯責任と言われてしまったら、反論できません」

(どうしてそんな無茶な要求を、素直に受け入れるのよっ! 非常識にもほどがあるでしょう⁉︎)

 自分が非常識な要求を繰り出したのを棚に上げ、マグダレーナは内心で悲鳴を上げた。そこでファムビルが、控えめに会話に割り込んでくる。


「あの……、エルネスト殿下?」

「はい、学園長。どうかしましたか?」

「殿下のお考えはご立派だと思いますが、さすがにどうかと思われます。実際に公開した場合、陛下がどう思われるか」

「そっ、そうだぞ! 父上が黙っているはずがないだろう!」

「学園内の事柄に関しては学園長の采配に委ねられているが、さすがに度が過ぎるだろうが!」

 彼の発言に、ユージンとゼクターが勢い込んで賛同する。しかしエルネストの主張は微塵も揺るがなかった。


「それでは、この件の一部始終を父上に報告して、どのような対応にすればご相談すれば良いのではありませんか?」

「何だと⁉︎」

「こんな事を、父上のお耳に入れるというのか⁉︎」

「マグダレーナ嬢、それで構いませんね?」

「……はい。別に異論はありません」

(まさか、公開しろと言った立場上、拒否するわけには……、だけどそれにしたって⁉︎)

 一気に坂道を転げ落ちるかのように悪化していく事態に、マグダレーナは顔が引き攣るのを堪えるのが精一杯だった。しかし事態を悪化させた張本人のエルネストは、淡々と話を続ける。


「学園長、申し訳ありません。待ち合わせの約束がありますので、ここで失礼してよろしいでしょうか?」

 あっさりと断りを入れてきた彼に、ファムビルも冷静に言葉を返した。


「そうですな……。それでは皆も、掲示物の閲覧が済んだら解散するように。私も仕事があるので部屋に戻ろう。君達、引き留めて悪かったね」

「いえ、それでは私達も失礼します」

 殆どの生徒や同行してきた教授達は静かに移動を開始したが、往生際が悪いユージンとゼクター達は、狼狽しながら歩き出したファムビルに詰め寄ろうとする。


「お、おいっ! 学園長!」

「まさか、本当に父上にお知らせしないだろうな⁉︎」

「お二人とも、私の仕事の邪魔をしないでいただけますかな?」

「ちいっ!」

「本当にろくでもないな!」

 冷たく一瞥された二人はファムビルとエルネストに忌々しげな視線を送り、側付きの生徒や婚約者達を引き連れてその場を後にした。そしてあまりの事態にマグダレーナが項垂れていると、いつの間にかレベッカが近寄って声をかけてくる。


「マグダレーナ様、私達も出ましょう」

「あ、レベッカ。姿が見えなかったけど、どこかに行っていたの?」

 反射的に歩き出しながら尋ねると、彼女は申し訳なさそうに事情を説明してくる。


「それが……、あの方達に絡まれた時にマグダレーナ様のやる気満々の顔を見て、今回は徹底的におやりになるだろうと推察したものですから……」

「なかなかの観察眼ね……」

「それで……、後で言った言わないの水掛け論にならないように、証人として誰か教授を捕まえて同行をお願いしようと考えていたら、偶々ホールを出てすぐの廊下の先を学園長達が歩いておられまして」

「タイミングが良いと言うか悪いと言うか……」

「そこで迷わず駆け寄って、『生徒間の揉め事で激しい言い争いになって、収拾がつかない状態なので一緒に来ていただけませんか』と訴えました。ですが、まさかここまで話が大きくなってしまうとは予想だにしていなくて。本当に申し訳ありません」

 並んで歩きながら頭を下げたレベッカを、マグダレーナは宥めた。


「レベッカ、謝らないで。あなたの判断は正しかったし、ここまで大ごとになってしまったのは、全面的に私の責任よ。あなたが気に病むことではないわ」

「ですが……。まさか本当に、マグダレーナ様を含めた6人の答案が公開されたりはしませんよね?」

「どうかしらね……、このまま有耶無耶になれば良いのだけど……」

(残念だけど、そうはならないと思うわ……)

 遠い目をしたマグダレーナは、今後の展開を想像して気が重くなりながら寮へと向かった。






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― 新着の感想 ―
エルネスト殿下はどんな事を考えているのか? それが一番気になりますね。 マグダレーナはそれを突き止めねばなりません。
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