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(35)報復

「ユージン殿下、ゼクター殿下。特定の生徒に忖度したり収賄によって成績を改ざんするような者は、この学園に一人も存在しないとご理解いただけましたかな?」

 重々しくファムビルが問いを発し、それに二人は忌々しげな表情になりながら小さく頷いて見せた。


「……ああ」

「分かっている」

「それでは自らの過ちと不見識をお認めになり、謂れなき誹謗中傷を受けたキャレイド公爵令嬢に謝罪するべきですな」

「……っ!」

「仕方がないな」

 促されて、二人はいかにも嫌そうにマグダレーナに向き直った。しかしそこでマグダレーナは、鋭く制止する。


「お待ちください、学園長。口先だけの謝罪など無用です。そんな塵に等しいものなど、受け入れるつもりはございません」

 その容赦のない切り捨てぶりに、ユージンとゼクターはたちまち怒気を露わにした。


「なんだと!? 無礼にもほどがあるぞ!」

「何様のつもりだ!!」

(本当に冗談じゃないわ。心がこもっていない申し訳程度の謝罪なんかで、事を有耶無耶にされてたまるものですか。入学以降、散々絡まれて辟易していたのよ。この際、今後関わり合いになろうとも思わないくらい徹底的に肝を冷やさせてあげるわよ!)

 やる気満々のマグダレーナは、王子二人と真っ向から睨み合った。その険悪な様子を眺めながら、ファムビルが冷静に尋ねてくる。


「ふむ……、それではマグダレーナ様は、どのような解決方法をご希望かな?」

「今回の定期試験で提出した、私の答案の全てを公開してください。そうすれば改ざんされたかどうか、一目瞭然でしょう」

「え?」

「本気かよ?」

 マグダレーナが要求すると、周囲に驚きのざわめきが満ちた。ファムビルもそれは同様らしく、何度か瞬きしてから確認を入れてくる。


「本当にそれでよろしいのですか?」

「はい。私に恥じるところは、全くございません。どなたとは申し上げませんが、『キャレイド公爵家自身に問題があるのでは』などと放言された方がおられました。今回の事を曖昧に処理してしまったら、我が家の名誉に傷をつけたと両親から叱責されかねません。何卒、厳正な処置をお願いいたします」

「そこまで仰るなら、致し方ありませんな」

 チラリと横目でフレイアを眺めながらマグダレーナが口にすると、彼女は幾分顔色を悪くしていた。そこでファムビルが頷いたが、マグダレーナはここで話を終わらせる気は毛頭なかった。


「加えて、ユージン殿下、ゼクター殿下、フレイア様、メルリース様の全ての答案も公開するよう要求いたします」

 毅然としてマグダレーナが新たな要求を繰り出すと、今度は悲鳴混じりの声が上がった。


「何だと!?」

「どうしてそうなる!?」

「冗談じゃないわ!!」

「私達は関係ないでしょう!?」

 その非難の声に、マグダレーナは語気強く言い返す。


「『関係ない』ですって? どの口が仰るのかしら。私のみならず、我が家まで貶める発言を公衆の面前で平然となさったくせに」

「それはっ!?」

「まさか、そんなことは一言も口にしていないと、言い逃れするおつもりですか!? そんな不見識なことで、国の代表たる王族たりえると本当に思っておられるのですか!! 恥を知りなさい!!」

「……っ!」

 彼女の気迫に、四人は反論を封じられて固まった。それを眺めてから、マグダレーナはファムビルに向き直り、淡々と話を進める。


「学園長。こちらの方々は、常日頃から軽挙妄動が過ぎると思われます。この際、自らの行為に対しての反省を促すのと今回の罰則の意味合いを含めて、私同様全答案の公開をお願いいたします。私は、それ以外は何も望みません」

「あなたの考えは分かりました。しかし……、これは困りましたな……」

(さすがに学園長も、容易にこんな事を許可するわけにはいかないわよね。四人とも真っ青になっているし、ここら辺で勘弁してあげましょうか)

 冷め切った表情を装いつつ、マグダレーナは内心でほくそ笑んでいた。そして頃合いを見計らって口を開く。


「学園長」

「おい、エルネスト! 貴様、傍観していないでなんとか言え!」

「そうだ! 王族が衆人環視の中で、恥をかかされているんだぞ!」

「……え? 私ですか?」

(あら、いつから見物していたのかしら? 相変わらず存在感のないこと。ちょうど良いわ。円満解決のために、利用させてもらいましょう)

 人垣の中にいた異母弟を認めたユージンとゼクターは、憤怒の形相で事態打開のために彼を呼びつけた。それを受けてエルネストが、困惑顔で進み出てくる。彼にようやく気がついたマグダレーナは、ここで素早く頭の中で算段を立てた。そしてわざとらしく声をかける。


「あぁら、エルネスト殿下。そこにいらしたのですか。兄上方とのお話に夢中で、全く気がつきませんでしたわ」

「そうだろうね。随分話が盛り上がっていたみたいだし」

(この場面で皮肉!? 空気を読まないにもほどがあるでしょう!! それとも読む気もないわけ!?)

 微笑まれながら言葉を返されたマグダレーナは、顔が引き攣りそうになるのをなんとか堪えた。


「それで殿下は、私が謂れのない誹謗中傷を受けていたのを、傍観していたわけですのね?」

「傍観していたわけではないのだけどね。だって君が優秀なのと、贈賄や脅迫なんて考えつかないくらい真面目な人柄なのを知っているから。兄上達が何を言っても誤解にすぎなくて、真実はすぐに明らかになると思ったし」

 平然とそんなことを主張され、マグダレーナは自分の声が徐々に低くなっていくのを自覚する。


「それで放置、というわけですか……」

「そうなるかな? 私にできることはなさそうだし。そう思わないかい?」

「ええ……、確かに殿下の仰る通りですわね……」

(本っ当に、本格的に腹が立ってきたわね!?)

 もう遠慮する必要などないと、マグダレーナは声を限りに叫んだ。


「エルネスト殿下は兄上方とは違った意味で、王族の資質に欠けるお方ですのね! 明らかな過ちを放置して、他人の矜恃が傷つけられてもなんとも思われないとは! 学園長! 王族としての連帯責任として、エルネスト殿下の全答案の公開も要求いたします!!」

 予想外の展開に、周囲の生徒達は勿論、ファムビルを初めとする教授達も蒼白になって固まった。


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― 新着の感想 ―
これは過激だな。マグダレーナはこういう女性だったのか。 本伝と比べてみるのも面白い。 その時点まで話が進むのを待っています。
マグダレーナ様無双……マグダレーナ様の苛烈さ、好き……
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