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(31)ある意味、平和なひと時

 対外的にも親しい関係を築いていたマグダレーナとレベッカは、食堂で並んで昼食を食べながら、周囲に人がいないのを幸い、世間話の合間にエルネストについて話していた。


「あの方は、相変わらず我関せずの立場を貫いておられて、もうここまでくると『お見事ですわね』と嫌味を言いたくなってしまうわ。でも言ったとしても、『それはどうも』と笑顔で返されて終わりでしょうけど」

 クラス内で反目し合っているフレイアとメルリースの諍いとは徹底的に距離を置き、時折乱入してくる兄二人とも最低限の関わり合いしか持たずに遠巻きにしている彼に対し、何故か事ある毎に半強制的に巻き込まれては傲岸不遜ぶりを周囲に知らしめているマグダレーナとしては、愚痴の一つも零したい心境だった。そんな彼女に深く同情する眼差しを送りつつ、レベッカが相槌を打つ。


「本当ですよね……。相変わらず放課後は気の向くまま、学園内のあちこちに出向いていますし。さすがに王族を邪険に扱えないという相手の心理を利用しての、見た目に寄らない微妙な押しの強さときたら」

「でも絶妙な加減で、相手が本当に迷惑に思ったり仕事の邪魔にならないように引いているみたいなのよね……」

「そうなんですよ。私がさり気なく接触した人たちに話を聞いてみても、『これくらいなら仕方がないか』的な受け止め方をされている人が殆どで」

「人付き合いが下手なのか上手なのか。それとも貴族相手では、意識的に親しくならないようにしているのか」

「対人関係の見極め方が、絶妙らしいとは思いますね」

 ここで難しい顔になった二人は、揃って溜め息を吐いた。そんな憂鬱な気持ちを打ち消すように、マグダレーナが話題を変える。


「ところで、入学後初めての学期末試験がもうすぐだから、暫くはそちらに集中した方が良いと思うの。エルネスト殿下の動向を探るのは、お互いに試験明けまでは控えましょう」

 その提案に、レベッカが安堵の表情になりながら頷く。


「そう言っていただけると、私も助かります。最初の定期試験ですから、力試しの意味でも万全の態勢で臨みたいです。マグダレーナ様もですよね?」

「ええ、勿論そのつもりよ」

「以前から思っていたのですが……。キャレイド公爵家は、元々厳しい家風なのですか? 他の貴族令嬢と比較すると、マグダレーナ様の学力と知識が抜きんでていると思っていましたから」

 その疑問に、マグダレーナは苦笑気味に首を振った。


「確かに入学前から教師をつけて貰っていたけど、それほど成績に関して求められてはいないわ。兄も在学中は平凡な成績だったから。でも私は勉強するなら、できるだけ成果を出したいと思っているの。全力で取り組むのも当然だと考えているし。これはあくまで、私の性格の問題ね」

 それを聞いたレベッカは、真顔で言葉を返した。


「ご立派です。少しはあの人達に、見習って欲しいくらいですよ。何なんですかね? 定期試験なんかそっちのけで、その後の長期休暇の間に、あれをしようこれをしようとのお誘いを声高に喋りまくって」

 フレイアとメルリースを筆頭に、交友関係を拡大させるために長期休暇を有効活用するべくかまびすしい女生徒達を思い浮かべたレベッカが、苦々しい顔つきで苦言を呈する。マグダレーナはそんな彼女を、若干困ったような表情で宥めた。


「普通の貴族の子女、特に上級貴族であれば、それが普通なのでしょうけどね。来年、クラスが官吏科と貴族科に別れたら、そんな喧騒とも無関係になれるわよ」

 そこでレベッカが、思わず突っ込みを入れる。


「マグダレーナ様。今、自分で自分のことを普通ではないと断言したようですが……」

「今更の台詞よ、レベッカ」

「申し訳ありません」

 どちらも冷静に会話を交わし、ここで再び話題を変えた。


「ところで、話題の方だけど……」

 そうしてマグダレーナが思わせぶりに視線を向けた方向に、レベッカは顔を向けた。そこに男子生徒の一団を認める。


「あ、あそこに固まってますね。なんか日が経つにつれて、益々平民の生徒と懇意にしていませんか? 他のクラスの生徒も混ざっているみたいなのですが」

 エルネストの周囲に、自分が見知っている平民の生徒達がいるのを見たレベッカは、不思議そうに呟いた。それにマグダレーナが応じる。


「他の方からの情報だと、最近は官吏科の上級下級学年や、騎士科の上級下級学年の方達とも知り合いになっているらしいのよ」

「上級生とですか? どうやって知り合いに……、あ、もしかして……、自分と同じ寮内の生徒と知り合いになっているとかでしょうか?」

「私も、そうではないかと思うのだけど……、でも同じ寮だからと言って、そんなに気安く声をかけられると思う? 明らかに自分より年上と分かっている相手に」

「王族から平民に声をかけるわけですから、逆を考える場合と比べると理的抵抗は無いに等しいとは思いますが、そもそもわざわざ親しくなろうとするものでしょうか。殿下のメリットは無きに等しいと思うのですが」

「全く分からないわ。本当に意味不明よ」

 もはや匙を投げたと言わんばかりの口調に、レベッカは思わず苦笑を漏らす。


「マグダレーナ様にも、容易に理解できないことがおありなんですね」

「私は万能ではありませんからね」

 同様に微苦笑を浮かべたマグダレーナは、そこで優雅な所作で昼食を食べ終え、レベッカと共に食堂を後にした。



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