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(28)推察

 定例化した隠し部屋への訪問日。マグダレーナはネシーナとユニシアから、いつも通り笑顔で出迎えられた。


「随分活躍しているみたいね、マグダレーナ。怪我をしたエルネスト殿下を、教室で一喝したのですって?」

「ネシーナ様……。否定はしませんが、私が傍若無人な人間だとは思わないでいただきたいのですが……」

 思わず項垂れたマグダレーナだったが、ネシーナは笑みを深めながら言葉を継いだ。


「勿論、分かっているわよ? あなたのことだから、エルネスト殿下が捻挫の処置に手間取らないよう、世話をしてくれる人をつけるために一芝居打ったのでしょう?」

「はい。あの方には側付きの生徒などはおりませんし、積極的に関わろうとする方もおられないと思いましたので」

「咄嗟にそこまでできるのは、流石だわ」

「ありがとうございます」

 未来の義姉にきちんと理解して貰えていたらしいと分かったマグダレーナは、心から安堵した。するとここで、ユニシアが動揺した様子で謝罪してくる。


「そういう事だったんですね!? 私はてっきり、エルネスト殿下との関係を勘繰られないために、わざと人目のある所で罵倒してみせただけだと思っていました。すっかり誤解していて、申し訳ありません」

「他人にはそう見えるように振舞った結果ですから、ユニシア様が謝罪する必要はございません。寧ろ、そう思われたのなら成功ですわね」

 苦笑いでマグダレーナは彼女を宥めた。そこでネシーナが話題を変えてくる。


「その他の噂も、色々耳にしているけど。あなた、来年度は官吏科進級を目指す平民の方々と同様、もしくはその方々と肩を並べる程の実力を持っていると評判よ?」

「定期試験はまだ先だけど、既に提出しているレポートの内容とか、小テストの成績などはクラス内で分かっているでしょうしね。他の学年にも伝わっています」

「密命は密命として、学生の本分は勉学です。それを疎かにするつもりはありませんので」

 自らの優秀さを誇らず、真顔で述べたマグダレーナを見て、他の二人は一瞬顔を見合わせて溜め息を吐いた。


「有能で真面目なのは良い事ではあるけど……、あなたのことが少し心配よ」

「長期休みになったら、せっかくお近づきになりましたから気晴らしに一緒にお出かけしませんか? 怪しい所や危ない所には行きませんが、普段マグダレーナ様が足を踏み入れないようなところをご案内しますから」

「ありがとうございます。是非ご一緒させてください。楽しみにしています」

 ユニシアの申し出に、マグダレーナは嬉しくなりながら頭を下げた。そして口調を改めて問いを発する。


「お二人にお伺いしたかったのですが、ユージン殿下の所にローガルド公爵家のイムラン様が、ゼクター殿下の所にシェーグレン公爵家のディグレス様が出向いているのを、最近お見かけしましたか?」

「ええ。ごくたまにですけど。一応側付きとしてのご学友となってはいますが、学年が違いますからね。ユージン殿下と同じ貴族科上級学年在籍のスピオルト侯爵家のバナン様やコートリル伯爵家のローグ様と比べれば、目にする機会はさほどありません」

「それは貴族科下級学年でも同じですね。ゼクター殿下と同じクラスのニゾラール侯爵家のミグシス様やデュアック伯爵家のルーラン様に比べれば、目にする頻度はかなり少ないですが。それが何か?」

 不思議そうに尋ね返されたマグダレーナは、ここで核心に触れる。


「イムラン様とディグレス様ですが……、お二方から見たところ、本心からユージン殿下とゼクター殿下に忠誠を誓っているように思われますか?」

 そう尋ねられた途端、ネシーナとユニシアは難しい顔で考え込んだ。


「それは……」

「申し訳ありません。普段接する機会どころか目にする機会も少ないもので、判断しかねます」

 しかしその反応は予め予想できたことであり、マグダレーナは冷静に話を続けた。


「それでは質問を変えます。両殿下のお二方への信頼度や信認度は、十分なものと察する事ができるでしょうか?」

 その質問にも二人は難しい表情になったものの、慎重に思うところを述べる。


「その質問であれば、微妙としか言えませんね。以前ユージン殿下が『ヘラヘラして意外に使えない奴だ』と悪態を吐いていたのを聞いております。『公爵家の嫡男だから、側に寄せてやっているのだ。そうでなければお前達のように気の利く者でなければ、相手にもしない』とバナン様とローグ様に話していたのも聞いております。これはバナン様とローグ様に対して、お愛想を言っただけかもしれませんが」

「そう言えばゼクター殿下も『ディグレスは愚鈍ではないと思うが寡黙だし、こちらが望むことを先回りして準備などできない、気の利かない奴だ。公爵家の嫡男があれでは先が思いやられるな』と、ミグシス様とルーラン様を相手に放言して笑い話にしていたのを聞いております」

「そうですか…」

「その二人について、何か気になる事でもありましたか?」

 幾分心配そうに、ネシーナが尋ねてくる。それにマグダレーナは、自分の考えを口にした。


「そうですね、少々。普段クラス内でお二人を観察していると、確かにイムラン様は饒舌で多少浮ついた感じが、ディグレス様は寡黙で率先して動かない感じがありますが、なかなか思慮深い方だと思わされることがありまして。それで両殿下の前では、慎重に自分をそれほど使えない人間と認識させるよう、わざと振舞っているのではないかと」

 ネシーナとユニシアが彼女の台詞の意味を考え、慎重に推察してくる。


「それはつまり……、ローガルド公爵家とシェーグレン公爵家はそれぞれユージン王子派とゼクター王子派と周囲から見なされてはいるけれど、本音ではあまり関係を強くしたくないと考えているのでしょうか?」

「姻戚関係から仕方なく……、というのは考えらえますが、それは家の事情でしょうか? イムラン様とディグレス様、個人の考えかもしれませんよね?」

「その辺りは慎重に時間をかけて、観察していこうと思います」

「分かりました。今後も殿下達の周囲の人間関係を、きちんと把握してお知らせします」

「微妙に入れ替わっている方もいますからね。それで? 切り崩せそうならここからにしようと、目論んでいるわけですね?」

「さあ……、どうでしょうか?」

 含み笑いでのユニシアの指摘に、マグダレーナは人の悪い笑みで応じる。それから三人は剣呑な勢力争いなど綺麗さっぱり頭の片隅に追いやり、世間話に興じて楽しくひと時を過ごした。



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