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(21)憂さ晴らし

 放課後になり、マグダレーナは手早く荷物を纏めて教室を出ようとした。最近、何かとフレイアやメルリース達に絡まれる頻度が高く、うんざりしていたからである。しかしその日も立ち去ろうと歩き始めた彼女の背中に、揶揄する声がかけられた。


「マグダレーナ様は、相も変わらずお一人でいらっしゃるのね」

 今日はこちらかと思いつつ、マグダレーナはフレイアに向き直りつつ笑顔で言葉を返した。


「そうですね、フレイア様。私の周囲に人影が見えるなどと仰られたら、正気を疑われるところですわ」

 そう答えた途端、フレイアの取り巻き達から非難の声が上がる。


「何ですって!?」

「マグダレーナ様! 失礼にもほどがありますわよ!?」

「私の発言のどこが礼を逸しているのでしょう? 私自身が一人だと、肯定しただけなのですが」

 しれっと言い返したマグダレーナだったが、ここで新たな声が割り込んだ。


「そうですわね。傍若無人な方の一挙一動に振り回されるなど、自分の懐の狭さを露呈しているようなものですわ」

「…………」

 メルリースとその周囲の含み笑いに、たちまちフレイア達が険しい顔を向ける。するとメルリースは半ばフレイア達を放置し、マグダレーナに視線を向けた。


「それにしても、理解に苦しみますわね。マグダレーナ様が、そこまで孤高を保っておられる理由が分かりません」

「あら……、お分かりになりませんか?」

「ええ、全く。後々を考えて、自分や家にとって有益な繋がりを作るのは、大事な事だとは思いませんか?」

 色々と含ませながらの物言いに、マグダレーナは笑い出したいのを堪えた。しかし傍目には真面目な表情を取り繕い、もっともらしく告げる。


「ああ、なるほど。将来を見据えて、より有利な条件や利益を誘導するために必要、というわけですのね?」

「そういう事です」

「それなら、別に繋がりを作る必要はございません」

 マグダレーナがきっぱりと断言すると、メルリースが僅かに不快そうに眉根を寄せながら尋ねる。


「まあ……。どうしてそんな風に思っていらっしゃるのか、お伺いしてもよろしいかしら?」

「勿論です。我が家は現状に満足しておりますので、敢えて将来の利益など考えなくともよろしいのです。万事、謙虚で控え目な家風なものですから」

「謙虚?」

「控え目って……」

 臆面もなくマグダレーナが口にした台詞を聞いた周囲は、呆気に取られながら囁き合った。するといち早く気を取り直したフレイアが、半ば嘲笑するように述べる。


「随分と面白い事をおっしゃいますのね。さすがは無能な兄君を押し退けて、次期当主と目されているだけはありますわ。ですがそんな性格では、婿入りしてくださる殿方などいらっしゃるのかしら」

 そこで普段はフレイアと険悪なメルリースも、誹謗中傷に参戦してきた。


「幾ら優秀でも、お相手がいなければ困りますわねぇ。キャレイド公爵家が断絶しないように、養子でもお迎えになったら?」

「あら、そう言えば、絶好のお血筋の方がいらっしゃるわね。王族との養子縁組先として、上級貴族の公爵家なんて理想的ではありません?」

「本当にそうですわね。エルネスト殿下は王族としては少々華に欠けますし控え目でいらっしゃいますので、何かと周囲の耳目を集めるマグダレーナ様のご夫君としてちょうどよろしいのでは?」

(王位継承など関係ない目障りな王子など、とっとと公爵家に押し込んでしまえということかしら。それに私の夫のなり手がないとか、本当に余計なお世話だわ)

 こういう時ばかり厭味ったらしく口調を合わせてくる二人に、マグダレーナは心底呆れながら素っ気なく口にする。


「私にも選ぶ権利がございます。エルネスト殿下などお断りですわね」

「………………」

 淡々とした彼女の台詞に、今度こそ教室内が静まり返る。そしていまだ教室内にいるエルネストに、物言わぬ視線が集まった。


「あなたという人は……」

「どこまで傍若無人なの?」

(人の結婚相手について茶化して貶してきたくせに、その相手を私が言下に切り捨てたら文句を言うってどういう事よ。本当にいい加減にして欲しいわ)

 フレイアとメルリースは、さすがにエルネスト本人がいる前で明確な拒絶をするとは思っていなかったらしく、半ば呆然としながら呟く。それなら本人がいる場でそんな話を出すなとマグダレーナは思ったが、ここでエルネストの声が静寂を破った。


「マグダレーナ嬢、なかなか厳しい意見だね。ちなみにどういう所が認められないのかな?」

 どこか面白がっているような声音で、エルネストが尋ねてきた。そんな彼に視線を合わせながら、マグダレーナが応じる。


「はっきり申し上げてもよろしいでしょうか?」

「君がやんわりと含ませて物を言うなんて、想像できないよ」

「それでは遠慮なく言わせていただきますが、殿下は覇気がなさすぎます。それに存在感もありませんし、自己主張も乏し過ぎます。加えて、自分の異母兄達にクラスメイトの女性が絡まれていても、素知らぬふりでその場を立ち去るような方は、とても紳士とは呼べません」

 真顔で断言したマグダレーナに、エルネストが笑顔で頷いてみせる。


「辛辣だけど真実だからね。否定はしないし、君が断りを入れるのは当然だ」

「ご理解いただき、ありがとうございます」

 そこで一礼した彼女は、固まっているフレイアとメルリースに向き直った。


「フレイア様、メルリース様。きっぱりお断りしたのはご本人に了解していただきましたので、第三者が言及する余地はないかと思われます」

「…………」

 完全に呆れ顔になって無言を貫いている二人に会釈したマグダレーナは、悠然とその前を通り過ぎて外へ向かう。


(思っていたことを口にできて、気分爽快だわ。これで対外的にも、どの王子にも与しないと思わせることもできたでしょうしね)

 そんな考えを巡らせながら、マグダレーナは気分よく歩いて行った。






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