(15)とんでもない遭遇
エルネストが学園から姿を消していたのは三日間だけで、戻った時も傍目には変わりなかった。マグダレーナも余計なことは言わず、特に彼と接触もしないまま何日か経過する。
それから最初の休日。彼女が屋敷に戻って寛いでいると、自室にリロイがやって来た。
「マグダレーナ。お前に手紙で頼まれていた事を調べておいた」
挨拶もそこそこに、リロイは書類を差し出す。マグダレーナは礼を言いながらそれを受け取った。
「ありがとうございます」
「出かける時は、ちゃんと護衛を連れて行くように」
「勿論です」
そして用紙に目を落としている妹に、リロイが含み笑いで尋ねる。
「死んだ人間に、今更何の用だ?」
その問いかけに、マグダレーナは素っ気なく答えた。
「今更ではありません。お亡くなりになったからこそ、出向きたいと思いましたので」
「そうか」
それ以上リロイは茶化すことなく、おとなしく引き上げていった。
※※※
屋敷に戻った翌日。マグダレーナが外出の支度を済ませると、リロイはどこかに出かけたらしく姿が見えなかった。ネシーナも行き先を知らなかったらしく、怪訝に思いながら馬車に乗り込んで目的地へと向かう。
彼女は王都郊外の小さな墓地まで馬車を走らせ、特に問題なく到着した。
「お嬢様、こちらになります」
馬車から降りるのに手を貸してもらいながら、マグダレーナはテキパキと指示を出す。
「ええ、ありがとう。あなた達はここで待機していて。あなたは付いて来て」
「分かりました」
「お待ちしております」
同行してきた護衛の騎士を一人だけ連れて、マグダレーナは墓地の中に足を踏み出した。
予め調べて貰った場所の説明書と地図を見ながら、彼女は無言で足を進める。そしてそれほど迷わず目的地を見つけた。しかしそこには先客がおり、思わず足を止める。
(あら……。お亡くなりになったばかりなのに、葬儀に参列できなかったご親戚の方かしら? ご夫婦でいらしたみたいだけど、随分背が高い奥様ね。珍しい……)
前方で佇んでいる一組の男女の背中を眺めながらそこまで考えた瞬間、マグダレーナの全身に例えようのない悪寒が走った。その次の瞬間、マグダレーナは斜め後ろを歩いている騎士を振り返って言い聞かせる。
「ここは見通しが良くて危険性は無いと思うし、少し離れてここで待っていて頂戴」
「分かりました」
その場で騎士を待たせ、マグダレーナは足を進めた。前方にいる二人に近づくにつれて、彼女の中で嫌な予感が増幅していく。
(自分でも、考えすぎだと思うのだけど……。背の高い女性は世の中に幾らでも存在するし、偶々身長が同じくらいの人物を二人知っているだけで、その人達と同人物ではないかと推察するのは、判断材料としては乏しすぎると言わざるをえないのだけど)
背中を見せて並んでいる男女の斜め後ろに立ったマグダレーナは、彼女にしては珍しく次にどう出るかを躊躇った。すると彼女のろくでもない予想は、最悪な現実となってしまった。
「直に会話するのは久しぶりだな、マグダレーナ嬢。建国記念式典では、楽しませて貰った」
「やあ、こんなところで奇遇だな、マグダレーナ」
軽く振り返って淡々と声をかけてきた国王その人と女装の兄に向かって、マグダレーナはできる限り声量を抑えながら非難の声を上げる。
「陛下! こんな所で護衛も付けずに、何をなさっておいでなのですか! それにお兄様! ベールで顔を隠したとしても、女性としては高身長すぎて、違和感がありすぎです!」
「一応、お前の兄が護衛だ。『目立たなかったら付いて来て構わん』と言ったら、この出で立ちでな。ここまでされたら、連れて来ないわけにはいかないだろう」
呆れ気味のレイノルの台詞に、マグダレーナは顔を強張らせながら訴える。
「兄に護衛など務まる筈がありませんわ! 賊に襲われたら、陛下に守っていただく羽目になるのが目に見えています! 万が一そうなったら、兄など見捨てて陛下だけさっさとお逃げくださいませ!」
その容赦のない台詞に、レイノルは苦笑しながら同行者に視線を向けた。
「お前の妹はなかなか厳しいな」
「単に、正確に状況判断ができるだけです。私も、自分に陛下の護衛が務まるとは思えません」
「それで堂々と付いてくるとは、お前も相当だな」
喪服のベール越しに飄々とした口調で応じた兄を見て、マグダレーナは激しく脱力した。




