表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は優雅に微笑む  作者: 篠原皐月
第4章 分水嶺

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

120/126

(13)紳士淑女の基準

 エルネストが立ち去った後、二人は作業を続けたが、ほぼ作業を終えたところでドルツが独り言のように言い出した。


「いやはや、全くあんた達ときたら……」

 かなり呆れ気味の口調に、マグダレーナは思わず手を止めて問い返す。


「私達に、何か呆れる要素でもございましたか?」

「酔狂すぎると呆れているのもあるが、感心しているんだぜ?」

「それはありがたいですが、どのようなことについてですか?」

「エルネストの奴、出ていく時にちゃんと少しドアを開けて行っただろ? お嬢さんを男と二人きりで、閉め切った室内に残しておけないと判断したわけだ。大した紳士じゃねぇか」

 チラッと僅かに開いているドアを眺めながら、ドルツがしみじみとした口調で告げた。対するマグダレーナも一瞬ドアに視線を向けてから、笑いを堪える表情で告げる。


「それは殿下が、ドルツさんを紳士と認めておられる証拠にもなりますわね。そうでなければ、この場を立ち去るはずはありませんもの」

 彼女がそう断言すると、ドルツは照れくさそうに笑みを深めた。


「全く、かなわねぇなぁ……。こんな無学な平民を、真顔で紳士呼ばわりしてくれるとは」

「人間の価値とは出自や肩書きによらないものであり、それに惑わされずきちんと見極めるように、常に留意しております」

「大したもんだな」

「両親から、そのように教えを受けて参りましたので。特に賞賛いただくことではないと思います」

「ところが、そうでない貴族の嬢ちゃん坊ちゃんが多すぎて、あんた達が際立っているんだよ」

 そこでドルツは、苦笑いの表情になった。それにマグダレーナも微笑で応じる。


「確かに私から見ても、その素質に欠ける方はそれなりにいらっしゃいますね。残念なことに」

 そこで一呼吸置いてから、マグダレーナはさりげなく問いを発した。


「ドルツさんから見て、ユージン殿下とゼクター殿下はどうでしたか?」

 そう問いかけた途端、ドルツの顔が不愉快そうに歪む。


「あぁ? あいつらか? あれを紳士とか言う奴がいたら、そいつの頭がおかしいか、そいつの紳士の定義がおかしいな。卒業して清々したぜ」

 二人が在学中、自身か周囲が相当煮湯を飲まされたのだろうなと察したマグダレーナは、同情しながらもスッキリした気分になった。


「本当に正直でいらっしゃいますのね。清々しいですわ」

 するとドルツが、顔つきを改めて尋ねてくる。


「俺からも聞いて良いか?」

「はい、なんでしょうか?」

「次の王様は誰になるんだ?」

「…………」

 その問いかけに、マグダレーナは微笑んだまま無言を保った。しかしドルツは腹を立てたりせず、納得したように頷く。


「聞いても良いが、きちんと答えてくれるとは言わなかったな。無理には聞かんよ」

 あっさり引き下がった彼に、マグダレーナは微笑んで告げた。


「ドルツさんのそういうところを、エルネスト殿下も好ましいと思ったのでしょうね。一つだけ言えるとしたら、エルネスト殿下が今のままでいられるのなら、玉座は然るべき時に然るべき方が着かれます」

「そうか……。今のは聞かなかったことにするさ。エルネストにも言わないでおく。本人はなる気なんかサラサラなさそうだしな。あんたや周りは、本当に大変そうだな」

 このやり取りで、相手がかなり思慮深く洞察力があると理解したマグダレーナは、もう一歩踏み込んでみた。


「殿下の事を良くお分かりですね。ついでにあなたにお尋ねしたいのですが、殿下が兄王子達と違って真っ当にお育ちになったのは、教育係の功績が大きいと思うのです。殿下から、その辺りを何か聞いてはおりませんか?」

 そこでドルツは少し考えてから、慎重に口を開く。


「母親代わりの養育係、その人の影響が大きいようだな。その人の話をポロポロと聞いているから。だが、それくらいならあんただって知っているんじゃないか?」

「そうですね。病で五年ほど前に役目から退かれて、静養中と聞いております」

「その人が言っていたそうだ。『常に誠実であるように』とな」

「その方は、殿下を王妃の唯一の息子として、次期国王を目指すようには育てていなかったわけですね」

 予想していた内容であり、マグダレーナは淡々と口にした。ドルツも真顔で話を続ける。


「そうらしいな。最初の頃、『王妃の実子だし、王位を目指すように言われている王子様が、下々の俺達と気安く話して良いのかい?』と聞いたら、『王妃からは言われた事はあるが、普段そんな事を言われていないから無視していたな』と切り捨てていた。あれは王妃様を母親だなんて思っちゃいないな」

「そうでしょうね……」

「だがその人が、あくまでも殿下を次代の国王として育てていたら、エルネストはああいう風には育たなかったんじゃないかと思うね」

「それに関しては、私も同意見です」

 そこで顔を見合わせた二人は、どちらからともなく笑い出した。


「仮定の話をしても仕方がないな」

「そうですわね。殿下はあのままで良いと思いますわ」

「あんたが、あのままで良いと言うようなお嬢様で良かったと思ってるよ」

「それは褒め言葉ですの?」

「十分褒め言葉のつもりだぜ? 本当の意味での淑女だよ」

「光栄です」

 そこで深々と一礼したマグダレーナに、ドルツは明るく告げた。


「今日はそろそろ切り上げて貰って構わないが、これからもちょくちょく押しかけてくるつもりだな?」

「話が早くて助かります。今後ともよろしくお願いします」

「分かった。色々と頑張れ」

「ええ、それでは失礼します」

 そこで笑顔でドルツと別れたマグダレーナは、真の意味での理解者と協力者を得たことで、足取り軽くその場を離れていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いやぁドルツさんがここまで活躍(?)するとは思ってなかったので嬉しいですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ