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第一話:電子の海、出会いは縁を結ぶ~晴翔、二〇一五年春~⑤

 僕の中学二年生初日は、始業式とHR(ホームルーム)だけで終了した。HRでは、簡単な自己紹介とクラスの係や委員会決めが行なわれた。

 僕とは違って積極性のある蒼也は、新しく着任した若くて美人な女性の数学教師とお近づきになるべく、数学係の座を自らの手でもぎ取っていた。一方、蒼也とは対照的な性格の僕は気がつけば、美化委員なるものを押し付けられていた。

 HRが終わり、今日も部活に行くという蒼也と別れて、僕は帰路についた。僕にも部活がないわけではない。しかし、ルービックキューブ部なる謎の部活に人数合わせで名前を貸しているだけの幽霊部員で、実質帰宅部のようなものだ。

「ただいまー」

 家に着いて鍵を開けると、誰もいないのを承知で、習慣からそう口にしながら、僕は靴を脱ぐ。今日も両親は終日仕事だし、兄の大翔(ひろと)も高校が始まったので家にいない。

(昼飯、何かあるかな)

 スポーツブランドのロゴが入ったリュックを背負ったまま僕はキッチンのシンクで申し訳程度に手を洗うと、冷凍庫を開けて中を物色し始める。

「お」

 冷食のたらこパスタを見つけると、僕は袋を剥ぎ、電子レンジへと突っ込んだ。冷たいままだと嫌なので、袋に書いてある温め時間よりも一分長めに時間を設定し、電子レンジのスタートボタンを押す。

 ジーと音を立て、冷凍パスタの容器を乗せた皿が電子レンジの中で回り始める。パスタを温めている間に、僕はこっそり学校に持って行っていたスマホを制服のズボンのポケットから取り出して(スマホの持ち込みは校則違反だ)、Postedのタイムラインに目を通した。

 ゲームの公式アカウントやリアルの友達の投稿の間に、レナの投稿が一件混ざっていた。「昨日遅くまでSSやってたから寝坊したー! 新学期から遅刻確定とかマジでヤバいんだけどーー!」内容が何とも等身大のレナらしくて僕の口元が緩む。彼女のピンク髪のキャラクターが制服姿で僕の脳裏を全力ダッシュで駆け抜けて行った。

 僕は電子レンジの中でパスタがぐるぐる回っているのを尻目に、なぜか美化委員を押し付けられてしまったことに対する愚痴をPostedに投稿した。

 ぴ、ぴ、ぴ、ぴ、ぴ。電子レンジがパスタの加熱が終わったことを知らせた。僕がズボンのポケットにスマホをしまおうとすると、ブーンとスマホが振動した。画面に視線を落とすと、Postedのリプライ通知が表示されていた。リプライはレナからで、先ほどの僕の投稿に対して、「ドンマイ(笑)」と書かれている。

 彼女らしい適当さに苦笑しながら僕はスマホをしまうと、電子レンジを開け、「あっつ」湯気の立つパスタを取り出した。食器棚の引き出しからフォークを出すと、僕はそれらを持って自室へと向かった。

 自分の部屋に入ると僕はパスタを勉強机に置き、リュックをベッドの上に投げ出した。デスクトップPCの電源を入れると、僕は乱雑に制服を脱ぎ捨てる。グレーのスウェットパーカーに黒のジャージパンツという楽な格好に着替えると、僕は机の前に座り、OSにサインインしてSSを起動させる。

 SSにログインすると、既にレナがオンラインになっていた。いつも自分たちBellFlowerが溜まり場にしている月桂亭のテラス席へ向かうと、既にそこにはピンクのツインテールの魔法使いの姿があった。彼女は手を振るモーションをこっちに向けて投げかけると、僕へとボイスチャットを繋いできた。僕はヘッドセットを頭に装着すると、通話に応答する。

「トワー、Posted見たでー。災難やったねえ」

「レナこそね。僕、昨夜あんなにそろそろ上がらないって聞いたのに、言わんこっちゃない」

「だって、キャンペーンクエの限定素材あと一個だけやったんやもん、しょうがないやろー! しっかし、朝からおかげでこってり絞られたわあ。新学期から弛んでる、って。よりにもよって今年の担任、生活指導の先生でさー、本当ついてへんわー」

「……いや、今朝のは完全にレナの自業自得だけどね?」

 僕がツッコむと、ヘッドセットの向こう側からえー、とレナが憤慨する声がした。僕はそれを聞きながら、パスタを咀嚼する。

「あれ、トワ、何か食べてる? お昼?」

「うん、たらこパスタ。冷凍の。レナはもうお昼食べた?」

「あたし? あたしはさっきコンビニで買ってきたシリアルバー食べた。糖質八〇パーセントオフとか書いてあるやつ。チョコ味やった」

「レナ……ちゃんと食べなよ……」

「やだよ、面倒くさい。ゲームする時間減るし。それにシリアルバーと一緒に野菜ジュースも飲んだし何も問題ないやろ?」

「……」

 栄養バランス的には問題ないのかもしれないが、どう考えても問題しか見つからない。僕はスプーンにパスタを巻きつける手を止めると溜息をついた。昼食を冷凍食品で済ませてる僕が言えた義理ではないが、レナの興味のないものに対する適当さはどうにかならないものだろうか。

 僕が昼食を平らげたころ、セケルとナハトが立て続けにログインしてきた。二人ともボイスチャットを繋ぐと、僕は話しかける。

「こんにちは、二人も今日短縮ー?」

「俺のところは今日、始業式とHRだけ。明日は丸一日、新年度の実力テストだけどね」

「オレのところも似たような感じ。何で学期の初めっていちいちテストなんかやるんだろうね」

「なんか、どこの地方の学校もやることは似たり寄ったりなんやねー。あたしのとこも明日テストあるよー。やんなっちゃうわあ」

「僕も僕も」

 セケルとナハトの言葉に、レナと僕が同意する。しかし、ゲームなんてしてないで勉強しようよという言葉は僕たち四人の誰の口からも発されることはなかった。

「それよりさー、レナがご執心だったキャンペーンクエも終わったし、今日はアルタイル峡谷行かねー? オレ、あそこで新しい槍作るための素材集めたいんだけど」

「あー、ナハトの槍、イベントボスに折られたもんなあ。俺はいいけど、レナとトワはどうする?」

 セケルに聞かれ、「「行く!」」僕とレナの声が重なる。意図せずにハモってしまったことがおかしくて、僕とレナは吹き出した。通話越しにセケルとナハトがにやにやしている気配が伝わってくる。

「それじゃあ、みんなで行きますか、っと」

 セケルからパーティ申請が送られてくる。僕は即座に申請を受諾し、パーティに加入する。

 画面の左側に表示されたパーティメンバーのリストが四人になると、僕たちは定位置である月桂亭のテラス席から腰を上げた。

 僕たちは目的地であるアルタイル峡谷を目指し、グランシャリオの外へと向かってぞろぞろと歩き出した。僕の耳元ではまだ、今日学校でどんなことがあっただのという日常の会話が緊張なく続いている。その心地よい会話に僕は時折、相槌を打ちながら耳を傾け続けた。

 天を回る星々は僕たちの行先を導くように明るい光を放っている。星明かりで淡く発光する街並みの上を僕たち四人の影が黒く揺れていた。

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