表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/47

最終話:きみとキミの境界線~晴翔、二〇一九年夏~②

 巣鴨駅で三田線から山手線に乗り換えた僕は、無事に七時半過ぎに東京駅に到着した。山手線の最後尾車両を降りると、僕はホームの階段を降りる。

 新幹線の時間は七時四十八分だ。発車時間まであと十数分しかない。僕は巣鴨駅での乗り換えの際にパンと飲み物を買っておいた自分の英断を内心で褒め称えた。どう考えたって、今、新幹線の発車時刻までにコンビニに寄る余裕はない。

 僕はすたすたと早足で中央通路を抜け、東北や長野方面に行く新幹線の改札を素通りして東海道新幹線の乗り換え口へと向かう。八時前という時間帯からか、だんだんとワイシャツにスラックス姿のサラリーマンの姿が増えてきている。

 七時四十分。僕は東海道新幹線の乗り換え口へと辿り着いた。中三のとき、修学旅行の出発前にここに集合したのが懐かしい。あのときはどこかでばったりレナに会えたらとありもしないほのかな期待を抱いていたが、今日は違う。今日の僕は必ずレナに会える。明確に会う約束をしている。

 僕は投入口に新幹線の乗車券と特急券を滑り込ませると、ICカードを自動改札機に翳した。僕が改札を通り抜けると同時に、赤字で入場記録が印字された二枚の切符が改札機から顔を出す。僕はそれらを回収すると、頭上の電光掲示板で乗るべき新幹線の出発ホームを確認した。

 七時四十八分発、博多行き。どうやら十八番線からの出発のようだ。

(ぎりぎりだけど、まだ席空いてるよね……?)

 僕は少しでも交通費を節約するために、新幹線の切符を往復ともに自由席で購入していた。発車まで十分を切っている今、まだ席が残っているか少々不安だった。お盆休みも明けた上に平日だし、大丈夫だと思いたい。こんなことならいつまでも洗面所で髪なんていじってないで、一本早い電車で来るんだった。過ぎたことを悔やみながらも僕は一段飛ばしでエスカレーターを上っていく。

 既に博多行きの新幹線が入線しているホームを僕は先頭へと向かって進む。自由席があるのは先頭三両だけだ。

 車体に記された数字が四から三へと変わると、僕は新幹線の中へ乗り込んだ。今はもう七時四十五分、発車の三分前だ。

 僕の懸念に反して、自由席はがらりとして空いていた。僕は隣に人がいない列を見繕うと、窓際の席に腰掛けた。

 それからすぐに発車ベルが鳴り響き、ゆっくりと窓の外の景色が動き出した。僕は新幹線が東京駅のホームを抜けていくのをなんとはなしに眺めながら、座席を少し後ろへと倒した。

 都会の朝の風景の中を新幹線は進み、発車から程なくして品川に停車した。品川を発車し、十分ほどすると今度は新横浜へと停車する。

 新横浜を出ると、僕は前の座席の後ろについたテーブルを開き、その上に巣鴨での乗り換えのタイミングで買ってきた菓子パンとペットボトルのアイスコーヒーを広げた。そして、暇つぶしのためにクロップドパンツのポケットからスマホを取り出すと、二件のLI-NG通知が届いていた。

 一件はレナから、もう一件はヒンメル盗掘団というタイトルの蒼也たちとのグループチャットだった。ちなみにヒンメル盗掘団というのは、キャラネームがヒンメルである蒼也をリーダーとするBNFの僕たちのレイドの名前だったりする。

 レナからのメッセージは「おはよう。予定通り来れそう?」というもので、グループチャットには蒼也から「よう、首尾はどうよ?」というどこか面白がるような内容が届いていた。僕はレナには「おはよう。さっき予定通り、新幹線に乗ったよ。何もなければちゃんと約束通り十時につけると思う」と、蒼也たちには「おかげさまで無事に。さっき予定通り新幹線乗って、今新横浜過ぎたとこ」とチャットを送り返した。

 僕は窓際にスマホを置くと、座席テーブルの上の塩メロンパンの袋を開けた。都会らしい街並みが遠ざかっていくのを横目に僕はパンを頬張った。

 ぶーんと窓辺でスマホが唸った。僕は食べかけのパンの袋をテーブルに置く。アイスコーヒーのペットボトルの蓋を開け、口の中のものを嚥下すると、僕はスマホを手に取った。蒼也たちとのグループチャットに何件かメッセージが届いていた。

「晴翔、オレたちには感謝しろよ? いろいろ協力してやったんだから、お土産くらい買ってこいよな」

「おれ、八ツ橋がいい。マンゴー味のやつ」

「じゃあ、俺抹茶味の何か」

「っていうか、マンゴーはさすがに邪道すぎるだろ……」

「じゃあチョコミント味とか」

「オレ、中学の修学旅行のときにいろいろ変わり種買ったけどどれも微妙だったぞ? 大人しくニッキか抹茶あたり食っとけ」

 何やら好き勝手なことを言って盛り上がっているチャット画面に僕は小さくため息をついた。

「わかったわかった、なんか適当に日持ちするもの買って新学期に持ってくよ」

「それはそうと、せっかく会うんだから、そのレナって子の写真とか送れよなー」

「美人なんだろ? いい加減写真くらい見せろよ」

「あ、どうせならツーショット撮って送ってよ」

 なんでだよ、と呆れまじりに僕はチャットを返す。蒼也たちにいろいろと協力してもらったことには感謝しているが、なんとなくレナの写真を彼らに見せるのは気が引ける。ネットに転がっているアイドルや女優の写真のように、レナのことを娯楽的に彼らに消費されたくなかった。

「あ、オレそろそろ家出ないと」

 そう言うと蒼也はそれきり沈黙した。僕が所属する文芸部は夏休み中の活動はないが、蒼也たちサッカー部は夏休み中もほぼ毎日練習がある。今年は夏の大会を思いの外に勝ち進んでしまったとかで、三年生でありながらも、蒼也たちはまだ引退できずにいる。

「おー、蒼也またあとでなー」

「なあ、おれと大智、電車の中でレイドバトルやりながら行くから、晴翔も混ざれよ。どうせ京都着くまで暇なんだろ?」

「わかったわかった、今ご飯食べてるから、それ終わったらインするよ」

「ん、じゃあ先に旭飛と始めてっから絶対来いよ? 俺たちだけじゃ戦力的に不安」

 了解と僕がスタンプを送ると、旭飛と大智はBNFへと移ったのか、LI-NGのチャット画面は静かになった。

 僕はもそもそと塩メロンパンを食べ終えると、チョココロネの袋を開ける。濃厚でほろ苦いチョコレートクリームを頬の内側で転がしていると、再びLI-NGの通知がスマホの画面に表示された。今度はレナからだった。

「いよいよかって思うとなんかどきどきするね。お互いの顔も名前も声ももう何年も前から知ってるのに、なんか変な感じ」

 レナの言葉に僕も、と同意の言葉をチャット画面に打ち込んだ。

「なんか僕もそわそわして落ち着かない。なんでだろ、緊張してるのかな」

「今更緊張するような仲でもないはずなのにね」

「ほんとそれ」

 その後も僕は朝食を摂りながら、そっちは今日も暑い? などという他愛もない会話を交わした。

 あたし朝ごはん食べてくるね、というレナの言葉を最後に僕とレナの会話は止まった。僕はコロネの尻尾を口の中に放り込み、アイスコーヒーでそれを喉の奥に流し込む。空になった菓子パンの袋を縛ってビニール袋の中へとまとめた。

「なー、まだ飯食ってんの? 晴翔早く手伝いに来てよー」

 ヒンメル盗掘団のグループチャットに不服そうな旭飛からのメッセージが届いた。今いく、と僕は返すとBNFのアプリを起動させる。

 車両前方の電光掲示板には熱海を通過した旨が表示されている。僕とレナが京都で顔を合わせるまで、残り二時間を切っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ