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第九話:違和の輪郭~晴翔、二〇一八年晩秋~③

 夜闇の中に白い雪が舞っていた。今朝の雨は昼過ぎに霙へ、夕方には雪へと変わった。例年よりも少し早い初雪だ。

 レナはもう初雪を見ただろうか。東京とは違い、山に囲まれた盆地にある京都は雪が降りやすい。きっと彼女の街にはとっくに冬が訪れているに違いない。

 僕はBNFに新実装されたダンジョンを一周するとスマホをなぞる指をとめた。期末テストの期間中に実装されたこのダンジョンを周回して素材を集めると、強力な装備が作れるらしい。あと、たまに強い武器のレアドロがあるらしいと聞いている。

 新しく実装されたこのバリュス廃坑は今の僕が一人で回るには少々骨が折れる。誰かいないかとフレンドリストを見ても、蒼也たちは誰一人としてオンラインになっていなかった。

 今夜は諦めるか、と僕はBNFのアプリを閉じ、代わりにLI-NGを起動させる。今は二十二時を回ったばかり、きっとレナはまだ起きているだろう。

 こんばんは、と僕はBNFのスタンプをレナへと送った。ほどなくして、既読がつき、レナから「こんばんは」とメッセージが返ってきた。どうかしたのですか、と続けて文字チャットが送られてきて、何っていうわけではないんだけどさ、と僕は返事を記した。

「レナってもう期末終わったんだっけ? どう、今回は赤点免れそう?」

「ちょうど今日までで。数Bの出来が怪しいですね」

「あー、ベクトルとかああいうやつね。あれ、よくわかんないよね」

 それはそうと今日学校終わるの早かったから友達とファミレス行ってさ、と僕はなんてことのない世間話を繰り出した。サッカー部の友達三人がとんでもない量のご飯を食べたこと。ドリンクバーでいろいろな飲み物や調味料を混ぜるような悪ふざけをしたこと。蒼也が隣のクラスの女子に告白されたこと。そして、なぜか僕自身の話に水を向けられたこと。そんな他愛もない話の数々にレナは随所随所で「うん」とか「そうなんですね」とどことなく硬さの残る相槌を打ってくれた。

「ところで、結局、トワはどういう人がタイプなのか聞いてないんですけど」

 少し肩肘の張った語調でレナが唐突に爆弾をぶち込んできた。興味を持たれないようにそれとなく話を逸らしたつもりだったが、どうやら彼女の興味はその話題から離れてくれなかったらしい。

「好きなことに一生懸命でまっすぐな、歌の上手い京美人」と僕はチャット欄に打ちかけ、バツ印のアイコンを長押ししてそれらの文字列を全消しした。その代わりに僕はただ「秘密」という二文字をレナへと送った。

 昼間、蒼也たちにも言った通り、別にレナのことを恋愛的な意味で好きなわけじゃない。異性として一パーセントたりとも気にならないと言ったら嘘になるけれど、妙に思わせぶりなことを今の彼女に言うべきじゃない。気持ち悪がられてこれ以上距離を広げられたくない。

「トワがあたしに秘密なんてなんか変です」

「そ、そんなことないよー……」

 僕はたじたじになりながらそうチャットを打ち返す。これ以上、レナの詮索に遭う前に、話題をすり替えてしまうべきだ。

「そういえば、今、こっち雪降ってるんだ。京都はもう雪降った?」

「何回か降りました。あたしの家は山に近いので」

 そうなんだ、と僕は相槌を打った。それにしても寒い。スマホを打つ指が悴んでいる。

 何か温かいものでも飲もうと、僕はスマホを手に部屋を出た。もうじき寝る時間だ。カフェインは取らずにホットミルクあたりにしておくといいかもしれない。

 僕はレナとなんてことのない話題を交わしながら、素足でペタペタと冷え切った廊下の床板の上を歩く。藍色の闇を彩るように降る雪は、空の狭い東京の景色をうっすらと白く染め上げようとしていた。



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