表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/47

第一話:電子の海、出会いは縁を結ぶ~晴翔、二〇一五年春~②

 トワという名前で茶髪の弓使いキャラを作り、チュートリアルを終えた僕は、はじまりの町・グランシャリオを歩いていた。弓使いを選んだのは、派生ジョブの狩人や銃使いが魅力的だったからだ。

 燐蛍石(りんけいせき)と呼ばれる鉱石から作られているとかで、立ち並ぶ建築物の数々は星灯りを受けて淡い光を放っている。頭上では星座の数々が月と共にゆっくりと天を回っている。

 SSの世界に昼はない。太陽の女神・ルーチェが幽世の神・カラミティによって力を奪われてしまったからだ。SSのメインストーリーは星の導きによって選ばれた勇者たちがルーチェの力と世界に光を取り戻すために戦っていくというものらしい。

 街の中を歩いていると、月桂亭(げつけいてい)という名のカフェバーがあった。きらきらとした光で控えめに色づくパラソルの下、テラス席では男女三人のキャラが何やら話し込んでいる。パラディンらしき緑髪の男キャラにカーソルを当てると、《BellFlower》セケルと表示された。僕が目をつけていたギルドのギルマスだった。

 僕は自分のキャラをその場で立ち止まらせると、「はじめまして。BellFlowerのギルマスの方ですか?」とセケルへと個人チャットを送った。

 すると、ほどなくして、「そうですが、何かご用ですか?」とセケルからチャットが返ってきた。公式サイトの掲示板でギルメン募集のスレッドを見て興味を持ったことと、BellFlowerへの加入を希望していることをセケルに説明すると、「それじゃあ、ちょっと体験ってことで一緒に初心者向けのクエ回ってみない?」とパーティ申請が送られてきた。

 僕は即座に申請を受諾した。画面の隅にチャット欄とパーティメンバーの一覧が表示される。メンバーの一覧にはセケルと自分以外に、レナとナハトという名が表示されており、これはおそらく一緒にいるピンク髪の女魔法使いと赤毛のランサーの名前だろう。

「うち、ボイチャメインなんだけど、通話大丈夫?」

 セケルからのチャットに、OKと僕は打ち返すと、キャビネットの引き出しからヘッドセットを引っ張り出した。三・五ミリのミニプラグをデスクトップの本体に刺し、頭にヘッドセットを装着すると、チャット欄の横にあるマイクのアイコンをクリックする。平均年齢を考えれば、セケル以外の二人も同年代のようだけれど、一体どんな人たちだろう。

「は、はじめまして……、トワっていいます」

 そう言った声が思わず上擦った。口の中がからからだ。僕は少しぬるくなったコーヒーを一口口に含む。苦味と共に口の中に潤いが戻っていく。

「ねえ、セケルー、この人が今言ってた入団希望の人ー?」

 はじめに僕の聴覚に飛び込んできたのは、少し高い少女の声だった。こらこら、と少女を嗜めるように苦笑しているのがセケルだろうか。なになに新人ー、と興味深そうにしている少年の声がする。こちらはナハトだろうか。

「改めまして、BellFlowerへようこそ。俺がギルマスのセケル。二人が騒がしくてごめんね」

「あたしはレナ、よろしくね!」

「ナハトです、SSは初めて?」

「初めても初めて、さっきチュートリアル終わったばっかりで」

「じゃあさ、リゲル鉱山に行こうよ! NPCの武器屋のおじさんからクエスト受けられるんだけど、報酬の防具が強化すれば結構長く使えるし」

「いいね、俺もそろそろ星光石(せいこうせき)補充したかったし」

「星光石って?」

 耳慣れない単語に僕が聞き返すと、セケルが補足してくれる。

「装備の強化に使うアイテムだよ。このゲームの装備は強化すれば、そこそこ高レベル向けのクエになっても長く使えるようになってるんだ。俺たちみたいなリアルマネーあんまり持ってない学生にはありがたいシステムだよ。まあ、強化にも限界はあるから、高ランク装備には敵わないんだけど」

 それよりクエスト受注しにいこうか、とセケルは立ち上がると、僕を先導して淡い光が揺れる道を歩き出す。緑髪のパラディンが歩いた後を燐光が立ち上っては霧散し、空気に溶けて消えていく。

「行こっ」

 レナはピンク色のツインテールを翻しながら、僕にそう話しかけてきた。「う、うん」リアルで女の子と話すことなどそうない僕はどぎまぎとしながら返事をする。

 僕はBellFlowerの面々に伴われて、クエストが受けられるという武器屋へと向かって歩き出した。進む先では星明かりに照らされて浮かび上がった街並みが黒い影を落としていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ