第四話:雪とチョコレート~律花、二〇一六年晩冬~②
カフェでああでもないこうでもないとスマホでLI-NGギフトを三人で覗き込んで盛り上がった後、あたしたちは家路についた。
JR京都駅から琵琶湖線で滋賀県方面に一駅戻ると、あたしたちは山科駅で電車を降りた。駅前のカフェやファーストフード、ドラッグストアや本屋を背に京阪の踏切を越え、あたしたちはどうでもいいことを話しながら、渋谷街道を夜の営業を開始した飲食店に沿って歩いていた。
「ほな、また明日」
「うん、それじゃあね」
外環三条の交差点まで来ると、あたしたちは解散した。瑚夏と楓佳は市営地下鉄の東野方面だが、あたしの家は三条通を四ノ宮のほうへ進んだところにある。
あたしは荷物を持っていない方の手を軽く上げると、銀行の角を曲がり、二人とは逆方向に三条通を歩き始めた。
不動産屋に歯医者、整形外科に郵便局。それらの前を通り過ぎ、あたしは三条通を街から離れ、山の方へと進んでいった。そして、家から一番近いコンビニの前まで来ると、その扉をくぐった。緑と白と青のラインが入った看板のところだ。
いらっしゃいませー、という高校生か大学生に見える男の店員のやる気なさげな声を聞き流しながら、あたしは店の奥にあるATMの横にあるマルチメディアステーションの端末へと向かう。
トップ画面をタッチして、あたしは代金支払いを選ぶ。スマホを出すと、あたしは画面を見ながら、端末に企業番号と商品コードを入力していった。
最後に確認ボタンをタッチすると、端末からいくつものバーコードが印字されたレシートのようなものが排出された。あたしはそれを持って、お菓子が吊るされたハイゴンドラの間を抜け、レジへと向かう。
「すみません、これお願いします」
あたしがレジでレシートを出すと、茶髪のウルフカットの男性店員はやる気なさげにハンドスキャナーを手に取った。やる気のない男性店員はバーコードを読み取ると、ぼそぼそとした聞き取りづらい声で、
「……ン円になります」
「……はい?」
「千円になります」
あたしが聞き返すと、店員は心もちはっきりと言い直した。あたしはブラックの千鳥格子柄のサッチェルバッグから、かぶせ蓋に大きなリボンがあしらわれたアッシュピンクの財布を取り出すと、キャッシュトレイに千円札を一枚置く。
「千円ちょうどのお預かりになります」
もごもごとそう呟くと、店員はレジを操作し、ドロアへと千円札を収める。滑舌悪すぎか。そんなことを思いながら、あたしは財布をバッグへとしまう。
レジからするすると生えてきたレシートを取ると、「……レシートのお返しになります」彼はあたしへそれを渡してきた。あたしはレシートをコートのポケットへと突っ込むと、コンビニを後にした。
気がつけば、すっかり日は落ち、辺りは宵闇に包まれていた。ふうっと息を吐き出すと、白い呼気が夜の中に溶けて消えた。暦の上ではもう春のはずだが、まだまだ寒い。日没の早さが春はまだ遠いことを雄弁に物語っている。
(遅くなっちゃったな……早く帰ろ)
あたしはオフホワイトのマフラーに顔を埋めると、川を渡り、家のある路地へと入っていく。スキー合宿の買い物だけだったはずなのに、思いがけずバレンタインの話題で盛り上がってしまったせいで、予定より遅くなってしまった。まあ、盛り上がったと言っても、トワの件で瑚夏と楓佳が面白がってああだこうだとあたしがオモチャにされただけではあるのだけれど。
藍色の空の中、黒々とした県境の山々が静かに佇んでいる。三条通沿いでは京都東インターへ向かう車が渋滞し、闇の中で赤いライトが連なって明かりを放っていた。




