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第三話:秋思と旋律~晴翔、二〇一五年秋~②

「来月末の合唱祭まで朝夕練習あるとか鬱だー」

 最初の練習を終えた帰り道に、僕がPostedにそう投稿すると、すぐにレナからのリプライが飛んできた。

「今日インするの遅いなーって思ってたらそういうことだったのかー! 学校行事ならしょうがないよね、がんばれー」

「がんばりたくないよー! 合唱祭当日は土曜なのに学校あるし! そもそも僕、歌苦手なんだってばー!」

 彼女のリプライに更にリプライを返すと、僕はスマホを制服のズボンのポケットにしまい、家へと入った。

「晴翔、おかえりー。もうごはんだから、すぐ手洗ってらっしゃい」

 ごま油の匂いと一緒に、先に帰宅していた母親の声がダイニングキッチンから飛んできた。はーいと僕は返事をすると、自分の部屋にリュックを投げ込んで洗面所へと向かう。

 軽く手を洗うと、僕はダイニングへと向かう。ダイニングテーブルでは汁だくの八宝菜と春雨スープ、冷食のシュウマイがエプロン姿の母親と共に待ち受けていた。

 母親の向かい側の席に腰を下ろし、いただきますと両手を合わせると、僕は箸を手に取る。大皿の八宝菜を小皿に移していると、母親が僕に話しかけてきた。

「今日遅かったのね」

「何か、来月末の合唱祭の練習だってさ。朝と夕方やるらしいから、明日も帰りこの時間だし、朝も一時間早くなる」

 そう、と頷くと母親は春雨スープを啜りながら、やけくそ混じりに手を動かし続けていた僕を咎める。

「あ、ちゃんとウズラはお父さんと大翔の分も残しときなさいよ」

「えー。そういや兄ちゃんは?」

 僕は自分の小皿の上のウズラの卵を箸で摘んでいくつか大皿に戻していく。その過程で八宝菜といいつつも具が八種類もないことに気づいてしまって何だかげんなりとする。白菜、豚肉、にんじん、椎茸、うずらとキクラゲ――ちゃんと数えてみると、八宝菜を名乗るには具が二種類足りない。

「今日もバイト。この後ゲームやるのはいいけど、お父さんと大翔が帰ってくる前にお風呂済ませちゃいなさいよ」

「はーい」

「あとそろそろ衣替えでしょ。今週末、制服出しなさいよ。お父さんや大翔のとまとめて出すとクリーニング安くなるのよ」

「うんー」

 冷食のシュウマイを頬張ると、僕は半分母親の話を聞き流しながら、おざなりな返事をする。茶碗に半分残った白米を掻き込むと、春雨スープで口の中のものを流し込む。

「ぐえっ、げほっ」

 喉の奥に春雨が絡みついて僕はえずいた。湯呑みに入っていた麦茶でどうにか春雨を飲み下すと、ごちそうさまと席を立った。まったく落ち着きのない、と母親が八宝菜のキクラゲを齧りながらぼやいていたが、僕は無視をして自分の部屋へと戻る。

 部屋に戻って制服のズボンのポケットからスマホを取り出すと、僕はPostedを開く。「あと三十分くらいしたら今日はSSインする 風呂入ってくる」と空リプを飛ばした。机の上にスマホを置くと、エアコンとデスクトップPCのスイッチを入れる。そして、今朝の僕がベッドの上に脱ぎ散らかしたTシャツとハーフパンツを拾い上げ、箪笥から替えの下着を出して風呂場に向かおうとすると、机の上でブーンとスマホが唸った。部屋を出ようとした足を止め、机の上のスマホを覗き込むと、「りょーかい(笑) ほかてらー」というレナからのリプライ通知が来ていた。

「早」

 僕の口から忍び笑いが漏れる。ギルメンが誰もいないからと言って、彼女はPostedのTL(タイムライン)警備に勤しんでいたに違いない。

 僕は着替えを抱えて部屋を出る。もわっとした湿度の高い風呂場の空気と入浴剤のラベンダーの香りがかすかに廊下に漏れ出して漂っていた。



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