窓際のマダムとアールグレイ・ミルクティー
ある昼下がり、一人のマダムが「喫茶シャングリラ」にやってきた。
マダムの頭髪は灰色で、顔や腕などの皮膚はしわだらけであるが、身なりはきちんとしている。華美でも地味でもない上品なワンピースに低いヒールのパンプスを合わせている。
マダムは店主に微笑みかけ、窓際のテーブル席に着いた。
「アールグレイをくださいな。」
「かしこまりました。」
マダムはバッグから一冊の文庫本を取り出した。取り出した本をテーブルに置いたまま、窓の外の人通りを眺めて紅茶を待った。
しばらくすると、店主が英国風のティーポットとカップをトレーに乗せてやってきた。同じ柄のミルクピッチャーも付いていた。
マダムは店主ににっこり微笑んだ。このマダムがいつもアールグレイのミルクティーを注文するのを店主が覚えていたからである。
マダムは、カップにまずミルクを入れ、ミルクの上から丁寧に紅茶を注いだ。カップを口に近づけてアールグレイの香りを吸い込むと、そっと小さく息を吐いた。そこで一口紅茶を飲み、持ってきていた本を開いた。
マダムは物語の世界に引き込まれていった。ページをめくるごとに登場人物らとともに喜怒哀楽し、物語の結末までいっきに駆けていった。
やがて紅茶を飲み終えた頃、マダムは現実に戻ってきた。店内の静寂とともに、心の中は満足感で満たされていた。
マダムは足取り軽やかに席を立った。喫茶店の扉を開けると、マダムのワンピースの裾が風になびいた。喫茶店を後にするマダムの姿は、誰よりも若々しく見えた。