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魔法科医の訪問診療記  作者: キセノン
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初めての共同作業②

 《ご連絡します。ただいま列車が推定4メートルほどの身体から炎を発するオーク型の魔物と遭遇いたしました。お客様の中に魔闘師の方がいらっしゃいましたら、車両先頭までお越しください。」


 そのアナウンスを聞き、周囲の席でも驚嘆の声をあがる。


「なに…、炎を出すオークということはイグニス・オークか!橋見さん、行けるか!」


「はい!イグニス・オークなら恐らく大丈夫です。私は先頭に向かうので、音無さんはここで待っていてください!」


 イグニス・オークはかなり討伐難易度が高く、全身が炎に包まれていることから近距離での戦闘が封じられるため一対一で戦うには非常に厄介な相手として有名だが、彼女自身大丈夫と豪語するのだから心配はいらないだろう。ならば僕がするべきは一つだ。


「いや、僕も先頭に向かって治療や戦闘の補助に回るよ。行こう!」


 ◆◇◆◇◆◇

 先頭車両に向かうと、そこに集まったのは僕と橋見さんと恐らく風貌からするに弓使いであろう中年の男の三人が集まっていた。想像よりも集まった数は少なかったが、まだ二人だけでなかった点だけはましだろう。

 だが―相手は四体そこにいた。さっきの放送で聞いたイグニス・オーク一体に、それに比べて少し体が小柄な通常のオークが三体だ。四体は全員が揃いも揃ってその大きな身体と同じ大きさ程の鉈を持っていた。


「おい、俺がこいつらを引き連れて森に入って列車から引き離す。お前はここに残った奴を相手しろ!お前は俺と一緒についてこい!」


 恐らくかなり手練れなのだろう。早々と僕と橋見さんに指示を伝え男は森に入っていった。


「じゃ、じゃあ音無さん!私も行きますね!」


 そう僕に伝え彼女は男に続いてオークを引き連れながら森に入っていった。


「え、ちょっ、ちょっと!」


 もしかして彼女はなぜ僕のところに派遣されたのか忘れていないか…?僕達MDVが魔物と戦わなくても良いように派遣されたことを。それに出会って数十秒なのだから仕方ないにしろあの男も男だ。

 僕は()()()()()戦闘がからっきしだし、ファンタズマ―として戦うには何分経験不足が過ぎるが、時間を稼いでくれれば四体なら倒せる。もしや魔闘師には実力を推し量る能力は必要ないのか…?

―僕はこう、ぞんざいだから他人との交流が不得手なのか。



 結局、こっちには通常のオーク一体のみが残った。あっちに三体が―それもイグニス・オークを含めた―向かったのは少し心配だが、こっちもできることをやろう。


 かなりの速度でオークが向かってくる、対峙する時間など寸分もなく。

 まだ目が慣れていないのか、オークの姿をとらえるだけで精一杯ではあるが大ぶりの攻撃をしっかりと避けていく。どうにか避けることは出来ているが、ファンタズマ―の魔法を使うには僕の実力では少し魔方陣を展開するのに立ち止まらなければいけない。

 森の奥でもオークの雄叫びが聞こえる。橋見さんたちがもう倒し切ったのだろうか。


「って、うわぁっ!」


 避けきったと思っていた猛攻を終えたオークはすぐさまに体勢を整え、その大きな体躯を活かして、鉈を振り上げ、すさまじい速さでそれを振り下ろしてきた!


「っく…!」


 間一髪のところでアナスターが使える防御魔法を使い、僕の手が切り落とされるのを防ぐことができた。

 必死の一撃を防御魔法によって弾かれたオークが体勢を崩し、少し後方に飛ばされた隙に、僕はファンタズマ―の魔方陣を展開し死霊魔法を唱えた!


 《死神の使徒タナトス・アポストロス


 ◆◇◆◇◆◇

 音無さん、大丈夫かな…。音無さんのもとに残ったのは普通のオーク一体だから多分どうにかなるだろうけど…。本当は四体とも連れてくるのが理想ではあったんだけど思いのほかあの弓使いの人の足が速くて何も言えなかった…。と、ともかくこっちを速く倒して戻らないと!


 「おい、ここらで片を付けるぞ!これ以上離れると森の奥へ入りすぎる。お嬢ちゃん、使う武器は何だ?俺の悪い癖なんだが何も聞かずに人員を配置しちまった。」


 「私はクレイモア、両手持ちの大剣です!あなたは弓ですよね!」


 「ああ、なら嬢ちゃんが前衛を頼む。俺は後ろから補助する!イグニス・オークに集中して戦ってくれ!他は俺が注意を引く!」


 「分かりました!お願いします!」


 イグニス・オークと対峙する。―大きい。放送では推定4メートルと言っていたが、まさに4メートルほど、私の2.5倍はある。

 僥倖なことに、どうやらあの弓使いの人は熟練者なようで今こう私とイグニス・オークが対峙して互いに攻め込むタイミングを見計らっている間も他のオークの注意を弓を用いて引き付けてくれている。なら…私がやるべきは速く倒すこと!!


「はあっ!!」


 相手の身体が大きいことを活かして後ろに回り込むことで相手を翻弄する。相手が振り向き終わる前に、最短距離を結ぶ一直線の距離で相手の背中まで飛び、クレイモア差し込む!!

 かつて習ったように相手の正中線を狙い、できるだけ奥深く!


 「くっっ…!」


 思っていたよりもイグニス・オークの筋肉は固く、うまく差し込み切れない。硬いからこそ他に比べ余計に手に酷く肉を貫く感覚が伝わる。

 最大の懸念点であったイグニス・オークの纏う炎は幸いクレイモアが長いおかげもあり、ぎりぎり私の身体には達しない。


 後ろから魔方陣の展開音が聞こえる。


 「だいじょうぶかお嬢ちゃん!こっちは手負いだったようで魔法で一発だった!援護にまわる!」


 「ありがとうございます…!一旦剣を抜いて退きます!かなり硬くて一撃で貫くことは無理でした。」


 「そうか…。嬢ちゃん背中から刺したんだよな?広背筋はかなり大きな筋肉だ。次は前から狙ってみてくれ!」


 思いのほか正論なアドバイスが飛んでくる。確かにさっきの自覚していた悪癖以外は熟練にふさわしいのだろう。

 そのアドバイス通り、私は剣を抜き、イグニス・オークの正面に向かう。


 剣を抜いた痛みによってか、イグニス・オークは不快感を伴う粘性の、どこまでも届くかのような大きな雄叫びを上げた!

 その雄叫びによって、身体中が痺れる。


「お嬢ちゃん!後ろに下がるんだ…!お、俺の後ろに、早く!!」


 その必死の訴えを聞き痺れる足に必死に力を入れ、私とイグニス・オークの間に弓使いの人が来るように後退する。


 「まずいな…、滅茶苦茶怒ってやがる…。俺がどうにか隙を作るから真正面から貫けるか、あいつ?」


 「すいません、今足を無理に動かした反動でちょっと挫いてしまったようです。」


 「やべえなそりゃ…この回復薬を飲め。その隙ぐらいは作れる!」


 イグニス・オークはまるで木々を紙屑の如くしている。

 いつ攻めてくるのかタイミングを見計らっていると、イグニス・オークの足元に魔方陣が展開される。

 次の瞬間にはあの強敵は先の雄叫びをゆうに超える大きさの声の上げながら、光の粒へと変わり消えていった。





戦闘シーンって難しいけど書いてて楽しい。

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