厄災戦争 目覚める太古は終焉の為に1
正連邦国側に位置する大海のど真ん中。
そこで空を漂う“終焉を知る者”ニーズヘッグは“大噴火”レナードと“疫病”クロネスと対峙していた。
ニーズヘッグの相手は人間。
空を飛ぶことの出来ないはずの種族であるが、レナードとクロネスはさも当然のように空を飛んでいる。
彼女達はその身に刻まれた魔法陣で空を飛んでいるのだ。
マルネスが背中に魔法陣を刻み、老化を抑えていた時のように、彼女達も背中に浮遊の魔術を刻み込んでいる。
その理由としては、彼女達の能力があまりにも強力すぎて空に居ないと自分まで巻き込まれてしまうからだ。
しかし、そんなことを知らないニーズヘッグは興味深そうに2人を見ながら世界各地で膨れ上がる魔力を感じ取る。
反対側の海では4つの魔力が膨大に膨れ上がり、どう考えても大陸に影響を及ぼす勢い。
大陸の中心部では、さらに強大な魔力が渦巻いている。
さらに、大陸の下の方でも膨大な魔力の膨れ上がりを感じ、ニーズヘッグはこの戦いで数多くの人が亡くなることを確信した。
なるべく被害を出さないよう、開けた場所で戦うように心がけていたが、厄災級魔物達は規格外も規格外の存在だ。
彼らが本気を出した時、下手をせずとも大陸の形が変わってしまう。
ニーズヘッグは、何割の人々が生き残るのか不安に思いながらも目の前に現れた2人の人間に集中することにした。
数多くの人間を見てきた中でも、この二人は上位に入るほど強い。
油断すると、殺されるのはこちらかもしれないと思いつつ、ニーズヘッグは口を開いた。
「人が空を飛ぶとは、私達の団長さん達以外に初めて見ましたよ。えーと........」
「レナードだ。背中に魔術を刻んでいるからな」
「クロネスやでー。よろしゅう」
「ご丁寧にどうも。それで?貴方々はなぜ女神に反旗を翻すのですか?」
興味本位で聞いた言葉。
仁程イカれた実力の持ち主ならばともかく、本来女神とは絶対的な力を持っている。
人の身で敵う存在でもなければ、そもそも視界に入れることすらも不可能に近い存在だ。
アドムが居るからと言って、勝てる相手ではない。
「何故かって?んなもん単純さ。神と殺しあってみたい。それだけさ」
「ウチは、違うで?ウチはこの力を持たせた女神に一撃ぶん殴りたいだけや。この力のせいでどれだけ苦労してきた事やら」
「なるほど。女神に抗う理由は人それぞれですか。だが、それは叶わない。そもそも貴方達は、私に勝てないのですからね」
「あ?言うじゃねぇか。魔物風情が。厄災級魔物だろうが、ぶち殺せば変わらんだろう?」
「調子こくのも自由や。だけど、不愉快なことに変わりは無いなぁ。苦しんで死にたいか?」
“勝てない”とハッキリ言われたことに顔を顰め殺気を露わにするレナードとクロネス。
その殺気は確かに鋭く強いものだったが、ニーズヘッグからすれば児戯に等しい。
とはいえ、人の身ではそこそこやるなと関心はした。
「事実を述べたまでですよ。今なら見逃しますよ?大人しく暮らしてくれれば、私は手を出しません」
「舐めてんのかぁ?お前を殺して女神も殺す。それで話はお終いだ」
「せやなぁ。ウチらの事を舐めすぎやで?計画を計画通りにやれば、皆笑顔で終わると言うのになぁ?」
「その“皆”に人々が入ってないでしょそれ。自分勝手な人達だ」
「「お前に言われたかない」」
レナード達はそういうと、これ以上話すことは無いと言わんばかりにニーズヘッグに攻撃を仕掛ける。
“破局噴火”。
超大規模の噴火を巻き起こし、周囲に圧倒的な被害をもたらす異能。
仁の“天秤崩壊”や花音の“魂の鎖”と同じく、“終末”に属する異能であり、その破壊力と二次被害は“終末”の中でも群を抜いて特化している。
流石に全力でこの異能を使うと、世界が滅びてしまうので多少の加減はしているが、それでも馬鹿げた火力の噴火が海の中で起こり海中から飛び出た溶岩がニーズヘッグを襲った。
ドゴォォォォォォォォォン!!
と、世界を揺らす程にまで大きな衝撃と音が響き渡る。
あまりに強大すぎる衝撃は、レナード達にも襲うが彼女達は紙に書かれた結界魔術を用いて自身を守った。
「相変わらずクソうるさいやねー。耳がイカれてまうよ」
「スゲェだろ?本気でやればもっと馬鹿げた火力になるんだが........それをするとこの世界に住むのが難しくなるかもしれないらしいからな。最大火力を使う時は、本当にどうしようもなくなった時ってアドムに言われたし」
「って言うか、死んでしまったのではなくて?幾ら厄災級魔物と言えど、今の一撃を耐えられる程強くはないやろ」
噴煙を撒き散らし、徐々に煙が世界を覆い始める。
マルネスはいい仕事をした。
分かっている相手以外は、完全にランダムに転移させているのだが、それが今回はいい方向に働いたのだから。
正しく幸運。
そして、その幸運は世界を救う。
ニーズヘッグを倒したと確信した二人は、噴火の跡地に背を向けて大陸を目指す。
今いる位置は何処なのか分からないが、微妙に感じる強大な魔力を辿れば大陸に帰れるだろう。
「ウチの出番はあらへんかったなぁ」
「ぼやくなよクロネス。アタシの一撃で終わったのは必然なんだからよ」
「誰が........終わったって?全く。終末の異能は相変わらず馬鹿げてますね。防御が間に合ってなかったら痛手を負ってましたよ」
「「........?!」」
噴煙と噴火物が海に落ちていく中、ニーズヘッグは平然としながら二人の前に現れる。
幾ら相手が終末の使い手と言えど、ニーズヘッグは神々が戦った終焉の跡地を知る者。
この程度の攻撃で死ぬことはない。
「これほどにまで危険な能力を持っているのを見過ごす訳にはいきません。排除しますよ」
「........言ってろ魔物風情が」
「そう簡単に殺らせはせんよ」
「だといいですね。精々、足掻いてみてください」
ニーズヘッグはそう言うと、本格的に戦闘態勢に入るのだった。




