厄災戦争 夜、訪れて月喰らう
正教会国とヌルベン王国の間に位置するとある小国。
その小国の西にあるとある遺跡跡地にて、“月狼”マーナガルムと“純粋の使徒”ユニコーンが対峙していた。
「ゴルゥ? 」
「ブルルッ........」
「ゴルゥ、ゴルッ」
「ブルゥ........」
人の言葉を話せないマーナガルムとユニコーン。
しかし、言葉は通じるので話を続ける。
彼らが話していた内容は、簡単に言えば“今から殺すぞクソ野郎”である。
マーナガルムとユニコーンはかつて一度顔を合わせている過去がある。
その際に軽い喧嘩をし、お互いにお互いの事を嫌っていた。
つまり、バイコーンの様に話し合いで解決するのは無理な話であり、マーナガルムは既に攻撃の準備に入ってしまっている。
「ゴルゥゥゥゥゥ!!」
最初に動いたのはマーナガルムだ。
マーナガルムの異能“太陽無き暗黒”によって、この小国の半分の国土を夜へと変える。
最大出力で放たれた能力はユニコーンだけではなく、一般市民まで巻き込んでしまっていたが、仁と花音以外の人間に興味のないマーナガルムからすればどうでもいい話である。
燦々と照りつけていたはずの太陽は消えてなくなり、光という光全てが無くなる。
しかし、それでも全てを見ることが出来る。
光は無いのにものが見える。これがマーナガルムの能力の一端だ。
「ブルルゥゥゥゥゥ!!」
マーナガルムからの攻撃を感知したユニコーンは、その翼を大きく広げて天高く舞い上がる。
そして、光り輝くつのに魔力を集めてマーナガルムにビームの様な攻撃を放った。
“乙女の守護者”
本来は清き乙女を守るための能力ではあるが、自信を守ることも出来るし攻撃も行える。
その能力を十全に行使するためには、穢れのない少女が必要であるのだが、今回はその少女が見つかってなかった。
尚、この伝説を読んだ仁からは“処女厨のロリコン野郎”と言われている。
そしてそれはあながち間違いでは無い。
「ゴルゥ」
ユニコーンから放たれた一閃の攻撃。
しかし、相性的に有利なマーナガルムはその光すらも容易に飲み込むと闇の中に消えて静かに時が来るのも待つ。
マーナガルムの能力の本日は魂への干渉。
闇の中に相手を誘い、その魂を汚染することで相手を発狂させて死に追いやるのがマーナガルムの戦い方だ。
魂の汚染は相手によって差があり、中には何千年と時間をかけなければ魂を汚染できない相手も存在する。
しかし、今回の相手はそこまで強くなく、また魂に干渉してくる相手に対しての対策も持っていない。
つまり、この時点でマーナガルムの勝利は決定しているのだ。
後はじっくりと魂が汚染されるのを待つだけ。
仁の様に自分の世界をぶち壊してくる程の規格外や、花音のように魂を守れる様な相手で無い限りはマーナガルムは絶対的な強さを持つのである。
「ブルゥゥゥゥゥ!!」
闇の中に消えたマーナガルムに“出てこい”と叫びながら手当り次第にビームを放つユニコーン。
しかし、マーナガルムはそんな安い挑発にもならない挑発に乗るはずもなく姿を隠してじっと時が来るのも待った。
幾ら相手が対策が無く、自分の勝利が確定しているからと言えど相手は厄災級魔物。
魂を汚染仕切るには数時間の時間を要する。
その間にマーナガルムが殺されるか、この領域を壊す必要があるのだが、本気で隠れ潜むマーナガルムを見つけるのはほぼ不可能。
視界を覆われ、光無き世界で闇に紛れるマーナガルムを見つけるには気配を探るしかないのだから。
これが仁達と出会う前ならまだユニコーンにも勝ち目があっただろう。
だがしかし、懐いている仁に振り回されてよく遊んでいたマーナガルムは隠密の技術がとてつもなく上がっていた。
マーナガルムだけに言えたことでは無いが、仁や花音との出会いは、厄災級魔物たちにとって大きな成長に繋がることになったのだ。
そんな事も知らずに、マーナガルムは時間が来るまでじっとユニコーンを観察しながら待つ。
そして数時間後、突如としてユニコーンが頭を左右に振りながら地面へと落ちてきた。
「ブルゥァァァァァァァァア!!」
その目には光がなく、完全に頭が狂ってしまっている。
地面に墜落したユニコーンは、何度かビクビクと体を跳ねさせた後、静かに息絶えたのだった。
あまりにも呆気ない勝敗。
だが、仁達との出会いで大きく成長した彼らにとっては必然の勝利である。
「ゴルゥ」
念の為、首を喰らいきっちりとトドメを刺したマーナガルムは、機嫌よく吠えると能力を解除してシルフォードたちの援護へと向かう。
本当は仁の元に向かいたかったが、仁が本気を出す時は近くにいない方がいい。
「ゴルゥ」
マーナガルムは再び小さく吠えると、颯爽と走り始めるのであった。
小国の半分に生息していた全生命体を殺したことを忘れて。
その日。急に大きなドーム状の黒い何が出現した。冒険者が調査に乗り出したが、彼らが帰ってくることもなかった。数時間後に黒いドームは無くなったが、その中はあまりにも悲惨すぎる光景が広がっており、中で何が行われたのかを想像するのは難しい。ありとあらゆる生命が滅びており、魔物や人も等しく死んでいた。しかし、彼らにそれらしい傷が一つも残っていない。一体何があったのだろうか?私には分からない。だがこれだけは言える。この日、この国の半分は厄災によって飲まれたのだと。“とある小国が滅んだ日”より




