厄災戦争 地獄の門は開かれて
合衆国の東側にあるとある中国にある秘境の渓谷。
そこはかつて竜達の住処と恐れられていた場所であるが、現在は厄災と一人の人間が対峙していた。
“地獄の番犬”ケルベロスと“天命”シャイン。
数多の宝石が眠る秘境の渓谷で彼らは衝突する。
「グルゥ.........」
「フハハハハ!!知っているぞ厄災級魔物“地獄の番犬”ケルベロス。かつて小国が貴様の怒りを買い、全てを消し炭にしたらしいな?地獄の炎は永遠に消えること無く、海に沈んだ今も尚燃え続けていると」
「グルル」
「そう睨むな。事実だろう?」
「グルッ?」
ケルベロスは過去に小国を丸々1つ燃やし尽くしている。
地獄から呼び寄せられた炎は決して消えること無く、国が海に沈んだと言うのに今も尚メラメラと海の中で燃えている........と言われていた。
これは事実ではあるが、ケルベロスはその国が海に沈む前に追放楽園に来てしまっている。
なので、本人に事実確認をしたとしても“知らないんだけど”としか返ってこない。
可愛らしく首を傾げたケルベロスの反応を見て、シャインも首を傾げる。
当事者なのに何も知らないのかと。
「........知らんのか?」
「グルゥ」
「貴様が滅ぼした国は、ある日大津波にさらわれてこの地上世界から消え去ったと聞いているのだが........」
「グル?」
「........なるほど。厄災級魔物ともなると、滅ぼした国の行く末はどうでもいいと言うことか。まぁいい。この私が貴様に殺された人々の分まで恨みを込めて殺してやろう」
「グルッ........」
シャインはそう言うと、己の中に眠る魔力を解放する。
ケルベロスも相手が戦闘態勢だと悟り身を構えるが、全く恐れはなかった。
確かに魔力量は凄まじい。
だが、それはあくまでも“人”基準の話であり、ケルベロスからすればそこそこ程度でしかない。
さらに言えば、ケルベロスはシャインよりも圧倒的な魔力量と強さを持っている人間を知っている。
厄災級魔物相手に遊び半分で勝てるような人間を人間呼ばわりしていいのか少し怪しいが、自分達の団長や副団長はケラケラ笑いながらシャイン以上の力を出すのだ。
10年近くもそれを経験してきたケルベロスにとって、この程度の雑魚は恐るるに足らず。
人間の中では強いだろうが、人間の枠組みに収まっている時点でケルベロスの勝ちは揺るがない。
「天命の審判」
「グルッ!!(地獄門)」
天からの命を授かった審判と、地獄の門から這い出す炎がぶつかる。
ゴォ!!と音を立て、渓谷は一瞬にして地獄の炎に包まれた。
「クッ........これが地獄の炎!!私が想像していたよりも熱がある!!」
「グルゥ?」
あまりにも熱すぎる業火。
シャインは思わず顔を歪め、その熱を耐えようと必死に歯を食いしばった。
“天命の審判”
シャインの持つ異能は、魔力量に応じて領域を展開し、その領域内に入った者にありとあらゆる神罰を下すと言うもの。
領域型の異能であり、並大抵の相手ならばこの領域に飲み込まれてしまう。
が、ケルベロスの異能“地獄門”はその上を行く。
領域型の異能と領域型の異能がぶつかり合った際は、お互いの領域を奪い合う攻防が発生する。
圧倒的な魔力量で押し切るか、領域内の力を使って相手の領域をねじ伏せるか。はたまた領域を抜け出して相手を殺すか。
自身の領域を主張すると言うのは、それだけ実力差が出やすいものである。
そして、ケルベロスとシャインの実力差は圧倒的だった。
「ウグッ!!強すぎる!!」
「グルゥ........」
先程まで余裕そうだった表情はどこへやら。
額に汗をかき、地獄の炎を何とか押し留めるシャイン。
領域の押し合いは何とか拮抗させてはいるものの、ケルベロスの表情を見れば分かる。
ケルベロスはまだ本気の“ほ”の字も出していないと。
「厄災級魔物........ここまで強いのか........!!」
「グルゥ」
ケルベロスは“一人でなにやってんだこのおっさん”と思いつつ、さっさと終わらせようと地獄の門からさらなる炎を引き出す。
その炎はあまりにも強大で、火力があまりにも高すぎた。
ドゥ!!
と、渓谷全てが火の海と化す。
巻き上がった炎は信じられないほどの熱を発し、渓谷の近くに生えていた森を焼き始める。
「........ッ!!」
もちろん、そんな中をただの人が生きられるわけが無い。
シャインは僅か数秒で骨まで灰にされると、力尽きて死んでしまった。
あまりにも呆気ない勝負。
元々、アドム達の集まりは寄せ集め。特に実力差が酷く、上は原初から下はただの人間である。
それに対し、仁達の傭兵団は最低でも厄災級魔物と張り合えるだけの強さ。さらに人外すぎる化け物に遊ばれてきたとなれば、経験が違いすぎるのだ。
手に汗握る勝負が繰り広げられるのではないかと期待していたケルベロスは、肩透かしを食らって軽く落ち込みながらもこれでトリスの援護に行けると思い気を取り直す。
「グルッ」
ケルベロスは火の中を歩くと、トリスの無事を祈りながら姿を消すのだった。
渓谷に地獄の炎を残して。
その日、私は偶々渓谷の近くに来ていた。ここは秘境と呼ばれており、近くには小さな宿がある。しかし、それを見ることは叶わなかった。何故ならば、その渓谷は炎に包まてれいたのだから。私は運が良かった。宿屋の店主から聞いた話では、私が来る数時間前には渓谷が燃えたらしい。あと数時間早く来ていたら、宝石探しをしていた私も巻き込まれただろう。だが、一体これはなんなのだろうか?“次はこの炎を観光にでもするか”と言っていた女将さんと、私はこの炎がなんなのか。その話をしながら、一夜を過ごすのだった。“秘境探索記:炎に包まれた渓谷”より




