厄災戦争 瘴気が纏うは巨人の英雄1
亜人連合国と大エルフ国の間に位置するとある小国の国境沿い。
だだっ広い平野が広がるその地にて、“不死王”ノーライフキングと“天下無双”アドネルが対峙していた。
「フム。私ハ問題無サソウダ」
周囲に瘴気をばら撒き、草花を枯らす不死王は、目の前に現れた人間がさほど強くないことを察しつつできる限り早くこの戦いを終わらせようと考える。
不死王がかつて起こした厄災“不死者の行軍”。
あの時もこの世の終わりのような光景を作り出したが、今回はそれの比では無い事はよく分かっている。
世界の命運を分ける戦いであり、人類の存亡をかけた戦いなのだ。
そして、世界の各地で厄災級魔物が戦っている。
不死王の懸念としては、厄災級魔物が本気で暴れた際に起こる戦闘の余波で国が滅びるのではないかと言うこと。
しかし、これに関しては不死王ではどうすることも出来ない。
願わくば、少ない被害で戦いが終わって欲しい。そう願うしか無かった。
「女神イージスの代わりにアタシに天罰を下す?魔物風情が随分と舐めた口を聞くな」
「舐メテイルノハ、ドチラダ?貴様ノ方コソ、我々ヲ舐メ腐ッテイル」
「そりゃ舐めるだろ?魔物ごときに殺されるほどアタシは弱かねぇ。雑魚が相手なら尚更だ。それともなんだ?お前のようなゴミにアタシが殺せるとでも?」
「容易イナ。井ノ中ノ蛙ガ、吠エタ所デ芸ガ細カイト感心スルダケダ」
「言ってくれるじゃないか。いいねぇ。お前がボコされたあと、どんな顔で命乞いするのか、楽しみだよ........あぁ、骸骨だから表情が無いか。残念」
アドネルはそう言うと、コキコキと軽く首を鳴らしながらゆっくりと不死王に近づいていく。
そこに警戒や恐れはない。
彼女は自分の勝利を信じて疑わないのだ。
対する不死王は、相手が仁程強くないと安心しつつもしっかりと警戒する。
不死王の強みは圧倒的な軍。
不死王自身もそれなりに強いが、個で戦う厄災級魔物と比べるとどうしても劣る。
それを理解しているからこそ、先手は不死王が取った。
「出テ来イ。不死者ノ行軍」
何も無い平原。
その地面からワラワラと出てきたのは、アンデッドとなった不死者達。
ゾンビ、スケルトン等、定番のアンデッド系魔物を初めとし、デスナイト、デュラハン等最上級魔物まで召喚する。
更には、ゾンビドラゴン、スケルトンドラゴン等の竜種まで。
下手な小国よりも圧倒的な軍事力を持つ不死王。己の持つほぼ全ての戦力をこの場にかき集め、“天下無双”アドネルに向かって軍を進めた。
「ヒヒッ!!いいねいいねぇ!!雑魚どもが沢山だ!!これぐらいの雑魚どもがいるなら、多少派手に暴れても楽しめそうだな!!」
「殺レ」
「ヒハハハハ!!だが、この程度でアタシを殺そうだなんて、調子に乗りすぎじゃぁ無いか?!あ”ぁ”?!」
アドネルはそう言うと、不死者の郡に向かって真っ直ぐ走っていく。
戦略、戦術。そんなものは無い。
“天下無双”
彼女はその名のとおり、天の下で無双するのだ。
「“天上天下唯我独尊”!!アタシを止められるもんなら止めてみやがれ!!」
全身を金色に光らせ、アンデッドの軍を真正面から受け止める。
アドネルは拳を握り、大きく振りかぶると気合を入れて叫んだ。
「オラァァァァァァァ!!」
ドゴォォォォォォン!!
と、大地が揺れ、世界が揺れる程にまで巨大な衝撃がアンデッド軍を襲い、僅か一撃でゾンビやスケルトン等の雑兵があっという間に壊滅してしまった。
「ホウ。口ダケデハ無イヨウダナ。ダガ、我ガ軍ハコノ程度でハナイ。起キ上ガレ」
人間にしては中々やるなと、不死王は思いつつ吹き飛ばされ粉々になった雑兵達に向かって能力を使用する。
“絶対的な不死の王”
不死王の異能は、アンデッド系魔物を作り出し、それを使役出来ると言うもの。
素材さえあれば無限に軍を作れるからこそ、不死王は“不死の王”と呼ばれるのだ。
粉々に散らばったゾンビの肉片が集まり、再び人の形となって動き出す。
粉々に散らばった骨達が集まり、再び人の形となって動き出す。
「........ちっ、復活しやがった」
「死ヌマデ付キアッテヤロウ」
「優しいこった。その死ぬ相手がお前になると言うことを除けばな!!」
アドネルはそう言うと、不死王に向かって一直線に向かう。
目の前で邪魔をする魔物たちを一撃で蹴散らす姿は正しく“天下無双”。
彼女が拳を震えばアンデッド達は吹き飛び、壊され、動けなくなっていく。
それは最上級魔物も例外では無く、場合によっては一国のすらも滅ぼすデュラハンやゾンビドラゴンすらも一撃で吹き飛ばされていた。
「アッハッハッハッハッ!!爽快!!」
「........」
「どうしたぁ?!アタシの強さに言葉を失ったか?!」
まさかここまで強いとは。
不死王は素直に反省する。
自分達の団長程強い訳では無い。
だが、この女は人類の中でも十本の指に入るレベルで強かった。
相手を侮ったつもりは無かったが、心のどこかで侮っていたのかもしれない。
「謝罪シヨウ。貴様ハ強イ」
「なんだァ?もう命乞いかぁ?」
「バカヲ言ウナ。貴様如キニ乞ウ命ハ無イ。ダガ、ソノ強サニ敬意ヲ表シ、私ノ本気ヲ見セルトシヨウ」
「あ?」
不死王はそう言うと、本来切るつもりは無かった切り札を切る。
この切り札はあまりにも強力。
強力すぎるが故に、数多くの人々を巻き込む可能性があった。
だが、相手はこの切り札を切らざるを得ない相手。
もし、罪なき人々に被害が及んだ時は、心の中で謝罪しよう、
不死王はそう思うと、最強の切り札を切る。
「目覚メヨ。巨人の英雄」
この日、世界はかつて滅びた強大なる種族を再び目撃した。




