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厄災戦争 不純、義理なし

 

 獣王国と合衆国の間にある小さな国。


 その小さな国のとある森の中で、“真祖”スンダル・ボロンと“真祖”ストリゴイは“不純の使徒”バイコーンと対峙していた。


 真っ黒な毛並みと鋭く生えた二本の角。


 不純を名乗るにはあまりにも神秘的で美しいその姿は、見るものを魅了する。


 が、バイコーン以上に神秘的な存在を見てきた吸血鬼夫婦は、この程度では何も感じない。


 バイコーンは美しいが、バイコーンよりも美しい存在を多く知っているのだ。


 「ふむ。我らの所に2人来るはずだったのだがな。手違いか、それともなにかのトラブルがあったのか........」

 「私達には決められた数の敵が送り込まれてくるはずなのだけれど、どうやら違うみたいね。あまりは全部団長さんの所に行くとは聞いていたけど。あ、もしかして、数が少なかったとか?」

 「フハハ。その可能性もあるだろうな。何せ、我らは相手の正確な数を知らん。我らよりも数が少ないなんてことも有り得ると言えば、有り得る」

 「まぁ、どちらにしろ、私達はこの目の前に居る敵を倒せばいいのよね。“不純の使徒”バイコーン。団長さんが持っていた本に乗っていたわ」

 「確か、非処女の乙女以外その背中に乗せないと言う魔物だな。スンダル、乗ってみたらどうだ?」

 「遠慮しておくわ。私、乗馬には興味無いもの」


 本来ならば、ストリゴイとスンダルの前には二体の敵がいるはず。


 しかし、マルネスの魔道具があまりにも大量の敵を一気に転移させた為に生じた不具合により、二人の前にはバイコーンだけが居る。


 もちろん、吸血鬼夫婦が真実を知る由もない。


 だが、予定よりも多い敵が来るよりはマシだと心の中で思う。


 圧倒的な実力差があるならともかく、本来厄災級魔物が相手にできるのは同じ厄災級魔物一体までなのだから。


 リンドブルムやファフニール、ウロボロスのような竜種でも無い限りは、一人一体まで。


 その点で言えば、バイコーンは既に詰みである。


 バイコーンは厄災級魔物ではあるが、竜種の厄災級魔物程強くない。


 バイコーンの許容範囲は、同じ厄災級魔物(竜種以外)一体までだ。


 「ブルルル........」

 「フハハハハ!!今こちらに寝返るならば、見逃してやるぞ?あのアドムとやらに果たす義理もないだろうに」

 「そうね。寝返るのであれば、見逃してあげるわよ。もちろん、この戦いが終わるまでは監禁させてもらうけどね」

 「ブルル........」


 悩むバイコーン。


 バイコーンがこの戦いに参加した理由。


 それは、飼い主を見つけるという事だ。


 邪魔な人々を殺し周りつつ、不純でありながら穢れのない少女を見つける。


 それを手伝ってくれると約束したのがアドムであり、今だその約束は果たされていない。


 「フハハハハ。女神に抗うつもりの奴がこんなことで悩むとはな」

 「こんなので女神を殺すなんて大口叩くのだから面白いわね。ウチの団長さんなんてやると決めたら、たとえ正論を吐かれようとも突き進むのに」

 「フハハハハ!!あれはアレで厄介だがな!!」

 「ブル?!」


 何気なく話すストリゴイとスンダル。


 しかし、バイコーンにとってはとてつもなく重要な事を話していた。


 “女神に抗う”


 つまり、女神イージスと敵対する。


 バイコーンは、そんな事一言も聞いていない。


 幾ら自分の目的があるとは言え、女神イージスと敵対するなんて事はあってはならないのだ。


 バイコーンは知っている。女神イージスがこの世界に存在する全生命体を相手にしたとしても勝てる事を。


 バイコーンは知っている。かつて見た女神イージスの格の違いを。


 バイコーンは知らない。“人類の祖”アドムが女神イージスと敵対しようとしている事を。


 「ブ、ブルル!!ブル!!ブルルルルルル!!」


 バイコーンは慌ててストリゴイ達に近づくと、言葉が話せないながらも頑張って自分の意思を伝えようとする。


 “女神イージスと敵対しようとしているのは本当なのか”と。


 長年、フェンリルやマーナガルム達の話し相手をしていたストリゴイとスンダル。


 言葉は分からないが、何を伝えたいのか何となく分かった2人は顔を見合わせると深く頷いた。


 「女神イージスを殺す。それが貴様らの目的だろう?何をそんなに焦っているのだ?」

 「“人類の祖”アドムは女神イージスを殺す気よ?その第一歩として、この世界にいる人類を皆殺しにしようとしているのよ」

 「ブルル?!」


 もちろん、初耳である。


 だが、それなら辻褄が合う。


 バイコーンはアドムに“人々を殺し回る”という事しか聞かされていない。


 その理由を知りたがったが、アドムは適当に誤魔化すだけだった。


 それもそのはず。女神イージスに仇なすと知れば、その時点で手を引く者も多くいるから。


 なにか目的があるのは知っていた。


 だが、それが女神イージスを殺す事だとは知りもしなかった。


 「ブルル........」


 バイコーンは不純な乙女を探すよりも自分の命が惜しい。


 そう判断し、彼女は決断を下した。


 「ブルルルルルル........」

 「どうやら知らなかったようね。女神イージスと敵対することを」

 「フハハハハ。都合のいい言葉だけを並べ、仲間にしたという訳か。どうやらアドムとやらは王としての才能もないらしい。まだ我らが団長の方が王の資質があるな。残念ながら、本人はやる気がないようだが」

 「ふふふ、こんな所でも格の違いを見せるとは流石ね。さて、この子どうしましょう?」

 「フハハハハ。こやつの戦意は既に無い。放っておいても問題なかろう」


 不純、義理なし。


 裏切りと言えば裏切りだが、そもそも正確な目的を伝えず作戦を決行したアドムが悪い。


 バイコーンは女神イージスの怒りを買いたくない一心で、スンダルの前に腰を下ろした。


 “今からお前たちの味方”だと。


 「フハハハハ!!仲間が増えたぞ?」

 「私、乗馬は苦手なのだけれど........」

 「良いでは無いか。戦力がふえる分には、我らは困らん。ゆくぞ、可愛い弟子達が心配だ」


 こうして、吸血鬼夫婦とバイコーンの戦いは、一切の交戦無く終わるのだった。

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