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厄災戦争 静寂の死

 

 亜人共和国のとある湿地帯。


 あまりの環境の悪さに亜人ですら住み着かないこの地で、“神狼”フェンリルと“脳筋”マリアーヌが対峙する。


 「うふふふ。なんて可愛いオオカミさんなのかしら?あぁ、可愛がってあげたいわぁ........」

 「ガルゥ........」


 筋骨隆々で、見ているだけで暑苦しいマリアーヌ。


 そんな相手が腰をくねらせ、乙女のような目でフェンリルを見る。


 花音と仁以外に人とあまり接することがなかったフェンリルと言えど、本能的にその相手が“気持ち悪い”と思ってしまうほどには、マリアーヌの姿は衝撃的だった。


 尚、彼女はアゼル共和国の首都で店を開くマリーとは違い、本当に女性である。


 異常なまでに発達した筋肉と、2mを超えるであろうその体格。


 どこからどう見ても女には見えないが、彼女はれっきとした女性であった。


 ........100人中100人が“女”だとは思わないだろうが。


 「ガルゥ」


 自分と同じ厄災級魔物が来ると思っていたフェンリルは、この男だか女だか分からない相手に困惑しつつも安堵する。


 何故ならば、彼女は仁達よりも格段に弱い。


 なぜこの場に立てているのか、それが分からないほどに弱いからだ。


 例え真なる力を解放したとしても、フェンリルの敵では無い。


 こうして顔を合わせた時点で、それを理解してしまったフェンリルはさっさと終わらせてほかの仲間たちを助けに行こうと考える。


 最も不安なのはシルフォード達。


 傭兵団の中では1番弱いシルフォード達が負けてしまうと、仁や花音が悲しむ。


 フェンリルにとってあの二人の人間は特別であり、例え世界が滅びようとも守り通すと決めた存在だ。


 そんな2人が悲しむ姿を、フェンリルは見たくない。


 「あら?可愛いオオカミさんだと思っていたのだけれど、よく見ると“神狼”フェンリルじゃないの。ふふふ、困ったわねぇ。強い魔物に会えると聞いて参加したのだけれど、ここまで強いのは求めてなかったわん........いや、これよりも強い魔物にもあってたわねん」


 ここでようやくマリアーヌは、自分の相手が何者なのかを理解する。


 相手は伝説の存在。


 その可能性を真っ先に切り捨てるのが常識的な考え方と言えるので、気づくのが遅れても仕方がないと言えば仕方がなかった。


 そして、出会って即逃げていれば助かったかもしれないが、今彼女が助かる道は無い。


 「ガァ!!」


 仁と花音の行く末を邪魔するものは敵。


 最初こそ、その気持ち悪さに引き気味だったフェンリルも多少の時間を置いた事で冷静になる。


 そして、最初から切り札を切った。


 フェンリルの能力は“暴風神(ルドラ)”。


 この世界に2つしかない神の名を持つ異能。


 もう1つは現在使い手がいないので、この世界で唯一フェンリルは“神”の名を持つ能力を使う存在である。


 その能力は“ありとあらゆる風を操る”というもの。


 似た能力を“原初の暴竜”が持っているが、あれはあくまで管理するためのものであり、こちらは破壊に特化しているのだ。


 刹那、フェンリルを中心として半径2km圏内全ての空気が消えてなくなる。


 完全なる真空状態。


 かつてフェンリルが一国を滅ぼした時に多用した、正しく神の一撃。


 「ーーーーーーーー」


 マリアーヌが口をパクパクと動かすが、何も聞こえない。


 真空の中では全てが静寂に包まれる。


 音の振動伝える空気が無いのだから、その振動が耳に届くことは無い。


 そして、真空となった時、人はどうなるのか?


 それは、マリアーヌが身をもって証明してくれる。


 真空状態となった空間に居たマリアーヌは窒息し、呼吸もできず視界が歪む。


 世界が違うと言えど、人が呼吸を必要としているのは同じ事。


 その呼吸を取り上げられたのだから、マリアーヌは当然苦しむ。


 真空状態のためその悲鳴も何も聞こえないが、もがき苦しむことぐらいは許された。


 「ーーーーー!!」


 そして、空気圧が無くなったことによる水分の沸騰。


 マリアーヌの体は膨張し、筋骨隆々な体が更に盛り上がる。


 普通の人間ならば、この時点で死んでいるだろう。


 しかし、生半可に体を鍛え、無謀にも厄災に抗おうとしたマリアーヌは魔力で自身の体を覆ってしまった。


 よって、ほんの数秒ではあるが苦しみが続く。


 沸騰した体内水分や血液はマリアーヌの体を蝕み、無理やり膨張を抑えようとも限界がある。


 更には真空による酸素不足。


 常人よりも2秒程長く耐えたマリアーヌは、この時点で冥府の道を歩み始めた。


 そして、抵抗出来なくなった体は、さらに膨らみ弾け飛ぶ。


 フェンリルがかつて暴れた時も、このようなやり方で人々に厄災を振りまいたのだ。


 「ガルゥ」


 もちろんら能力を展開したフェンリルは無傷。


 自分だけは守れる様に風を操れるのだから。


 本来なら絶対不可避の一撃。しかし、フェンリルは仁や花音なら容易に避けるんだろうなと思いつつ静寂した世界から元の世界に戻す。


 半径2km程にまで広がった静寂の世界。


 そんな世界をいきなり解除したら?


 空気がなかった場所に一気に空気が流れ込み、竜巻以上の暴風を生み出すに決まっている。


 ゴォォォオォォォォオォオオオ!!


 と、吹き荒れる暴風。


 暴風は木々をなぎ倒し、湿地帯の水を巻き上げ、草木を根こそぎ持っていく。


 これは真空状態だった場所だけではない。


 フェンリルのいた場所から10km程離れた亜人の集落でも、この現象は起こっていた。


 「急に風が!!」

 「家が吹き飛ばされるぞ!!地下に逃げろ!!」

 「うわぁぁぁぁぁん!!おかあさぁぁぁん!!」

 「なぜ急に風が........ヤバっ!!」


 突如として吹き荒れた風、そして、その暴風は意図せず亜人の命を奪う。


 集落の半分。約400人。


 急な暴風に対応できず、亡くなった亜人の数だ。


 フェンリルは悪気がなかったとはいえ、数万年前と同じく厄災をばら蒔いたのだった。


 そして、当の本人は........


 「ガルゥ♪」


 相手を瞬殺できてとても機嫌が良さそうであった。

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