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イカれたやつ

 

 ジーニアス達が切り崩し工作をしているあいだ、俺は暇な日を過ごしていた。


 どうもエーレン組長にかなり気にいられたようで、客人として過ごしている間は彼と話すことがほとんどであった。


 本家にいる獣人たちからは鋭い視線を送られる事が多々あったが、その隣にエーレンが居ると分かると慌てて頭を下げる。


 こんな見た目で性癖も酷い組長だが、下の者からは随分と恐れられているのが分かった。


 そんな日々を過ごすこと三日後、エーレンは俺を呼び出す。


 「やぁやぁ。ここでの生活も慣れたかい?」

 「お蔭さまでな」

 「それは良かった。知ってるかい?最近君がここに出入りするから、面白い噂が立ってるんだ」

 「俺がアンタの愛人だのなんだの言われてる話だな。外堀でも埋めてるつもりか?」

 「まさか。僕は確かに君の事が好きだが、好きな人に嫌われるマネはしない主義なんだ。君が僕のアプローチを避けて、奥さんを愛してるのはよくわかってるからね。外堀を埋めて君と結ばれようとは思わない」


 三日ほどこの部屋に出入りするようになった為、おれがエーレンの愛人なのでは?なんて笑えないジョークを噂するやつが増えている。


 花音が聞いたら命が無さそうだ。俺も、エーレンも噂したやつも。


 ........この件が終わったら暫く獣人会に近づくのは辞めよう。花音にあらぬ誤解を受けてしまいそうだ。


 「てっきり、俺を手に入れるためにありとあらゆる手を使うのかと思ったぜ。裏組織のボスなんだから、欲しいものは全て手に入れる主義なんじゃないかとな」

 「あはは。そうして欲しかったかい?」

 「馬鹿言え。そんなことをした日には、獣人会が滅びるさ」

 「だろうね」

 「........なぁ、なんでお前は獣人会に入ったんだ?正直、見た目も性格もコッチの世界で生きるには適してないと思うんだが」


 俺はこの三日間で常に思っていた疑問をぶつける。


 エーレンの仕事を見ていたのだが、どうも向いてないように見える。


 その可愛らしい見た目で相手からは舐められる。事実、ここに訪れた客人はエーレンを舐めているような態度が見て取れた。


 もちろん、コイツのやり口はえげつないし、容赦も無い。


 だが、その姿は少し演技じみている。


 エーレンは俺を数秒見つめると、ニヤリと笑って質問に答えた。


 「暇つぶし。この獣人会のトップに立ったら少しは暇が無くなるかなと思ってね」

 「.......それだけ?」

 「そう。それだけさ。色々な職を転々としてきたけど、僕の暇を1番潰せるのがこの仕事だった。それだけの話だよ。ぼくは暇を潰したいんだ」


 コイツ、イかれてやがる。


 ただ暇を潰す為だけにヤクザ家業に手を出し、そのトップにまで上り詰めるとか頭どうかしてるんじゃないのか?


 この事を組員が聞いたら頭を抱えそうだ。


 「ふふふっ、君のそんな顔、初めてみるね。呆れてモノが言えない顔だ」

 「呆れてるよ。暇つぶしの為だけにこの世界に足を踏み入れ、暇つぶしのためだけに組長になるような奴がいるなんてな」

 「実に愉快だろう?でも、君も同類だ。自分が楽しければそれでよし。周りを巻き込んで自分の楽しさを優先させる身勝手さは僕に似てる。君の周りの人達は、それに振り回されながらもそれを楽しむ。僕が君を気に入ってるのは、そう言う似たもの同士な所もあるんだよ」

 「道理で俺はアンタが苦手なわけだ。同族嫌悪って知ってるか?」

 「あはは!!どうやらそこは僕と違うみたいだね!!」


 愉快そうに笑うエーレン。


 そんな彼の元に、1人の獣人がやって来る。


 「エーレン組長。ジーニアス組長、その他組長達も集まっています」

 「おー、お疲れ様。それじゃ、行くとしようか。君も来るだろう?獣人会の内部抗争が見られる絶好のチャンスだ。きっと楽しいよ」

 「部外者なんだが?」

 「今、君は僕の護衛だ。ほら、行くよ!!」


 ピョンと椅子から飛び降り、楽しそうに尻尾を揺らしながら歩くエーレン。


 俺とエーレンは似たもの同士か。


 自分が楽しければそれでよし。相手も巻き込んで全てを楽しむ。


 俺は自覚がないが、花音達の話を聞いてる感じ、案外的を得ているのだろう。


 俺とコイツが同類ねぇ........うん。嫌だな。


 俺は今後もう少し自重して生きようと思いつつ、スキップをするエーレンに連れられて幹部たちの集まる部屋に向かうのだった。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 獣人会の幹部は全部で10人。それぞれが得意な分野を担当しつつ、上納金を収めるのが役目である。


 ジーニアスで言えば人身売買。最近は規制が強まり大きく動けないが、それでもやり方はいくらでもある。


 ちなみに、ジーニアスはこの分野が得意と言う訳では無い。ジーニアスはやろうと思えばなんでも出来るオールラウンダーなのだ。


 その隣で他幹部相手に目を光らせるアンセルは、護衛や誘拐などが主な仕事である。


 仕事柄ジーニアスと一緒になる機会が多いのも、彼らの仲がいい理由だろう。


 「おーおー、爺さん共が怒ってやがる。見ろよあの面。“お前を殺す”って書いてあるぞ」

 「昔は凄腕の運び屋だったんだがな........老いとは怖いもんだ。金を権力の味を知ってしまって戻ることが出来ない。俺達が切り崩しを始める前に、さっさと逃げるか最初からこちら側に着くべきだったな」

 「怖いねぇ。金と権力の魔物に取り憑かれて、自分の居場所が見えなくなるとは。俺達も気をつけないとな」

 「明日は我が身だ。質素で謙虚な生き方を心掛けないと、次に骨をしゃぶられるのは俺たちになる」

 「ハッ、あのジジィ共の枯れた骨なんざしゃぶりたくも無いがね」


 この幹部会は既に勝敗が決まっている。


 獣人会十四代目組長エーレンがジーニアス側に着いた時点で勝敗は決しているのだ。


 しかし、老兵達はそれに気づかない。


 ジーニアス達が勝手に始めたと思いこみ、これは組長を取り込むチャンスだと勘違いしている。


 部下の中には既に勝敗が決したことに気づいて寝返った者や助言した者もいたが、結局老いた老人達の耳に入ることは無かった。


 都合のいい情報だけを取り、都合の悪い話は聞かない。


 典型的な老害である。


 「黒滅の奴も来るよな........間違いなく」

 「組長が気に入ってるかな。絶対面倒事になるぞ」


 ジーニアスとアンセルは、目の前の老害達の相手よりも仁が何をするのか不安で仕方がなかった。


 願わくば、穏便に全てが終わりますように。


 2人はそう願うしか無いのだった。

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