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世界最強からの贈り物1

 

 イスの世界に入ってきた観客達は困惑していた。


 それもそのはず、つい先程まで居た教会から突如として死と霧の世界に飛ばされれば何事かと思うだろう。


 しかし、仁が予め“安心しろ”と言っていたこともあって困惑こそすれど、取り乱すことは無かった。


 「ははっ、相変わらずやる事が滅茶苦茶だな........」

 「どこなんでしょう?ここは」

 「恐らく、ジンの傭兵団の誰かの能力なんだろうな。冷たく寒いって事は、多分イスちゃんの能力だ」

 「あの子が?イスちゃんも、世界最強の傭兵に所属する子供ってことだね」

 「だな」


 今回の主役であるモヒカンとマリア司教は、神秘的な氷の世界に魅了されながらも冷静にこの場を楽しむ。


 ジンと言う人間が、このような場で誰かに危害を加えるとは到底思えないので、安心しきっていた。


 他の参列者とは規模が違いすぎて、呆れてはいたが。


 「さぁ、モヒ........じゃなくてジーザン。そしてマリア司教。氷の世界の住人が、貴方達を歓迎しているようですよ!!」

 「........今モヒカンって言おうとしただろアイツ」

 「ジンさんらしいね。所で、氷の世界の住人って誰なんだろう?」

 「特徴的な髪と白い服。貴方達ですね」


 後ろから突如として聞こえる声に振り向くと、そこには氷で出来た綺麗な少女が1人。


 氷の冷たさを感じさせる目とは裏腹に、その全身から溢れる優しいオーラは傭兵として生きてきたモヒカンの警戒心を解く。


 「初めまして。私はモーズグズ。この世界に生きるイス様の手足です。この度は、ご結婚おめでとうございます」

 「あ、どうもありがとうございます。初めまして」

 「初めまして。マリアです」


 モヒカンとマリア司教は、このモーズグズがイスの手によって作り出された人形だと勘違いしていた。


 全身氷で出来た生き物など聞いたこともない。


 イスが能力によって作り出し、言葉を話させるように仕込んだと思う方が自然であるのは仕方がなかった。


 実際は、常にあるこの世界を漂う管理者の1人だと言うのに。


 「では、自己紹介も終えたので早速ご案内しましょう」

 「........?」

 「特等席ですよ。全てがよく見えると思いますので」


 勝手に話を進めるモーズグズに首を傾げるモヒカンとマリア司教だが、少し急げと言われているモーズグズは自分の役割を果たそうと少し二人から離れる。


 そして、本来の姿である巨人へと変わった。


 ほんの一瞬で20m近くに巨大化したモーズグズを見て、さすがの観客たちも驚き騒ぐ。


 しかし、騒ぎはすれど取り乱さなかったのはモーズグズから優しいオーラが出ていたからだろう。


 もし、殺気が流れていようものなら、今頃観客は慌てふためいて大混乱に陥っていたはずだ。


 「........マジかよ」

 「大きいですね」


 予想外過ぎる光景に圧巻される二人。しかし、この程度で驚いて居ては心臓が持たない。


 モーズグズは膝を着くと、手の平を上にして地面に置く。


 モーズグズの役割は、この新郎新婦を城のバルコニーへ案内する事なのだ。


 「さぁ、乗ってください。あの城のバルコニーに向かいましょう」

 「態々あの城に案内する為だけに、こんな大掛かりな事をするのか........」

 「流石はジンさん達としか言えませんね。今まで見てきた出し物の中でも規模が違いすぎますよコレ」

 「本当に滅茶苦茶な奴だ。俺が今まで出会った奴の中で1番頭がどうかしてるよ」

 「私もです」


 2人は呆れながらも、モーズグズの手の平の上に登る。


 モヒカンが先に乗りマリア司教を引き上げる事を自然とできる辺り、モヒカンはちゃんと出来る男であった。


 手の平の上に2人がしっかりと乗ったことを確認したモーズグズは、二人を落とさないように細心の注意を払いながら城のバルコニーへと手を伸ばす。


 少しでも揺れればイスに叩き壊されたモーズグズ(ご褒美)の練習をしていたため、その乗り心地は最高と言えただろう。


 「ご降りください。ここが、今日の会場です」

 「ありがとう。モーズグズさん」

 「ありがとう。モーズグズ。うわっ、スゲェな。椅子やら装飾やら細すぎだろこれ。下手な城よりも手が込んでるぞ」


 バルコニーに案内された2人は、モーズグズにお礼を言うと手の平から降りる。


 そして、イスの最高傑作とも言える城に施された様々な装飾やこだわりに舌を巻いた。


 雑に装飾で埋め尽くされているのでは無く、しっかりとバランスを考えて掘られた装飾。あえて空白を作ることで、鬱陶しさを無くしつつも謙虚で派手という矛盾を作り出している。


 マリア司教はこの立場上様々な所で城や手の込んだ教会を見てきたが、そのどれよりも圧倒的に鮮やかで慎ましい。


 四年間イスが学んできた建築学と学友の建築学オタクの最高傑作がそこにはあった。


 「どうだ?ウチの子とその友達が作った城は」

 「ジン、滅茶苦茶やってくれるな」


 バルコニーだけでも圧巻させるその素晴らしい建築を見ていると、仁もバルコニーに降り立つ。


 イスの世界で披露するショーのために、まだ少し時間が掛かるのだ。


 「まだまだこんなもんじゃないさ。んで、どう?」

 「凄いよ。俺は城を見た事は無いが、少なくともこの城に小国の王が座るのは勿体ないと思うね」

 「どの教会よりも好きですね。イスちゃんとそのお友達を褒めておいて下さい」

 「そいつは良かった。身内にしか見せてなかった城だからな。イスに伝えておくよ」


 仁はそう言うと、チラリと会場の奥を見る。


 そこには、既に準備を終えたエレノラ達が手を振っていた。


 「それじゃ、世界最強の傭兵団が送るショーを楽しんでくれ........あ、飲み物とか居る?」

 「俺は要らん。ずっと飲み食いして疲れた」

 「私も大丈夫です」

 「そうか。もし必要ならモーズグズに言いつけてくれ。適当に呼べば来るだろうから」


 仁はそう言うと手をパン!!と一度叩く。


 すると、巨大なモーズグズは崩れ落ちて綺麗な氷の結晶だけを撒き散らした。


 「........やる事なす事派手だな」

 「特別だぜ?普段俺達は大人しいからな」

 「どの口が言ってんだか。お前が大人しかった事なんて1度も無いくせに」

 「ははは!!かもな。んじゃ、楽しんでくれ。新たな夫婦の誕生に祝福を」


 仁はそう言うとバルコニーから飛び降りる。


 その背中を見送ったモヒカンとマリア司教は、今から始まるショーに期待を寄せるのだった。

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