レッツパーリー
様々な人が出し物をしていく中、それを見ながら俺達も楽しむ。
歌を歌う者もいれば、ちょっとした劇をやる者、中にはもの凄い作り物をしてプレゼントを贈る者まで様々な出し物が見られた。
個人的には、アッガス達傭兵団がちょっとしたコント劇場をしているのがいちばん面白かった。
吉本新〇劇の様な慌ただしいコントは、皆を笑わせ場を盛り上げる。
愛想笑いと言うよりは、皆心の底から楽しんでいるのがよく分かった。
そして俺たちの番が回ってくる。
大トリは俺達では無いので、最後から2番目の披露だ。
「随分と遅くなったな。もう日が沈み始めてる」
「仕方が無いよ。これだけの人達が出し物をしたんだからね」
「ついに私達の番かぁ。ちょっと緊張するね」
「私達は翼を出さなように気をつけないとねー。少し前までは天使だったけど、いまは堕天使だし」
「祝福の場に堕天使がいるのは確かに相応しくないわな。二人とも注意深くしてくれよ」
「大丈夫だよ。そこら辺は弁えてるから」
堕天使は世間一般では“不吉の象徴”として語られる。
祝いの場である結婚式でその姿を見せるなんて事はあってはならなかった。
ましてや相手は聖職者。天使であるならともかく、堕天使はいろいろと不味い。
「私達も気をつけないと。この場にダークエルフが居ることがバレると面倒」
「それはいつもの事だ。気をつけろよ」
「多分大丈夫。私達はまだ誤魔化しが効くし」
シルフォードはそう言うと、隣でイスと仲良く話している(俺達には見えないが)サラに視線を送る。
何かあれば、サラが上手くやってくれるだろう。上位精霊たるサラは、意外と気が利くのだ。
初めて会った時は悪ガキだったんだが、体が成長していくにつれて丸くなって行ったな。
今ではシルフォードにベッタリな良き仲間として、イスとも仲良く話している。
ちなみに、サラと偶に麻雀やら将棋やらで遊ぶのだが、彼女は普通に強かった。
イカサマ無しだと俺に勝率四割を叩き出す天才である。
「エレノラ。花火の順番は大丈夫か?」
「問題ありません。気合いの入った素晴らしいデキです」
「そいつはよかった。んじゃ、派手に行こう。我らがモヒカン君の華々しい一日を綺麗に飾ってやるとするか」
俺はそう言うと、拡声の魔術を使いながらこの場にいる全員に聞こえるようにハッキリとそして盛大に話し始めた。
「では、我々揺レ動ク者のショーを始めるとしよう。たが、その前に注意事項だ。今から場所を移動する。決してこの場にいる皆様に危害を加えるものでは無いという事を先ずは知っておいて欲しい。場所が変わっても、慌てず、その場で普段通りのんびりと食べていてくれ。繰り返す。今から場所を移動する。決してこの場にいる皆様に危害を加えるものでは無いという事を先ずは知っておいて欲しい。場所が変わっても、慌てず、その場で普段通りのんびりと食べていてくれ。また、驚くような事が多く起こる。だが、この場にいる皆様に危害を加えるものでは無い。慌てることなく、このショーを楽しんでくれ」
俺はそう言うと、少しの間時間を開ける。
俺の言ったことを理解する時間が必要だからな。
「おいおい、何をする気だ?」
「見てなってアッガス。俺達は世界最強の傭兵団。こう言う催しも派手に行かないとな」
観客達が俺の注意を理解したのを見てから、俺はイスに声をかける。
今回はイスの世界で派手にやるのだ。ここにいる全員、死と霧の世界にご招待である。
「イス、始めるぞ」
「はいなの!!死と霧の世界!!」
こうして、俺達は教会の前から姿を消した。
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マリア司教と結婚することになったモヒカンことジーザンは、自分とマリア司教の為にこれだけの人が集まってくれる事が嬉しかった。
様々な出し物を見ながら、隣でマリア司教と一緒に笑う。
普段自分達を纏めるアッガスがお笑いをやっていたり、爺さん婆さんたちが以外にも上手なコーラスを奏でる事に驚きながらこの日を楽しむ。
そしてやってきたは問題児。
世界最強の傭兵に関しては、何をやらかすのかサッパリだった。
「何が始まるんだろう?」
「ジンたちの事だ。多分滅茶苦茶な事をやらかすぞ」
可愛らしく首を傾げるマリア司教に見惚れながら、ジーザンは少し嫌そうな顔をした。
今から出し物をするのは、あの世界最強が率いる傭兵団。
二つ名持ちだらけの、規格外なものたちばかりが集まった傭兵団である。
きっと想像もつかない事をやらかすに違いない。そして、ジーザンの想像は的中する。
「........霧?」
「霧だな........」
突如として現れる霧。
僅かに冷たさを感じるが、そこに敵意は感じない。
むしろ、ジーザン達を祝福するかのように包み込む霧は徐々に濃くなり始め、最終的に視界を覆ってしまった。
「ジーザンさん。居ますよね?」
「いるいる。大丈夫だ」
不安げに手を握ってくるマリア司教の手を握り返すジーザンだが、マリア司教とは違い焦りも不安もない。
長年仁を見てきたジーザンは、仁がこのような場面で人に危害を加えるような男ではないと分かっているのだ。
尚、こんな中でも堂々と出来るジーザンがカッコイイとマリア司教は惚れ直していたりするが、顔が見えない現状では垂らしなく緩みきったその笑顔は誰の目に求まることは無い。
そして、霧が晴れると底には氷で作られた幻想的な世界が広がっていた。
イスが学生時代に学んだ建築学や魔術をフルに活かして作り上げた最高傑作である城が目の前に聳え立ち、誰しもが圧巻される。
あまりの美しさに、思わず感動してしまう程であった。
「........相変わらず無茶苦茶だな」
「凄い........綺麗」
あまりの美しい世界に寒さを忘れる二人。
しかし、世界最強達の見世物は、ここから始まるのである。
「流石はアゼル共和国に住む皆様。驚きこそ有れど、取り乱さないその姿はお見事です。では、始めましょうか。マリア司教とモヒ........じゃなくてジーザンの結婚を祝して派手に行かせてもらいますよ!!」
今お前“モヒカン”と言いかけただろ。
ジーザンは相変わらず過ぎる仁に呆れながらも、この後始まる世界最強のパフォーマンスに心を躍らせるのだった。




