成長したレイナ
アッガス達も合流し、大所帯となった俺達は教会へとやってきた。
教会では既に花嫁と花婿を迎えるべく、かなり気合いの入った装飾が施されている。
その装飾の華やかさは、神聖皇国で結婚式を挙げた勇者様と聖女様の時に負けず劣らずだった。
「凄いな。気合い入りまくりじゃないか」
「一昨日から飾りつけをしてたからな。俺も手伝わされたぞ。滅茶苦茶大変だった」
「俺も来れば良かったな。少しは役に立てたかもしれん」
飾り付けの大変さを思い出したのか、少し疲れた表情をするアッガス。
飾りつけをしているとは知っていたが、ここまで盛大なものだとは正直思ってもみなかった。
やはり、この教会の主が結婚するとなれば、それなりにしっかりとした装飾やらなんやらが必要になるのだろう。
「あ、ジンさんにアッガスさん。おはようございます」
教会の装飾に目を奪われていると、孤児院最年長のレイナがこちらに気づいてやってくる。
見習いシスターである彼女は、修道着に身を包み昔よりも大人びた雰囲気を出していた。
四年前から随分と変わったな。マリア司教に似てかなり可愛い子に育っている。
彼女目当てで教会に礼拝に来そうなぐらいには、レイナの清楚な美人が際立っていた。
「おはようレイナ。仕事はどうだ?」
「大変ですよ。マリア司教様はこんなにも大変なお仕事をされながら、私達の面倒を見ていたと思うと頭が上がりません。もちろん、多額の寄付をしてくださるジンさん達にもね」
「随分と言葉遣いが上手くなったな。孤児院の子供たちと一緒にはしゃいでたあの頃が懐かしいよ」
「まぁ、嫌という程仕込まれましたから。言葉遣いが荒いとマリア司教様が怒るんですよ........すっごく怖かったです」
マリア司教に怒られたことを思い出したのか、ぶるりと身をふるわせるレイナ。
普段おっとりとしたマリア司教だが、怒るとそんなに怖いのか。
普段優しい奴ほど怒ると怖いとは言うが、マリア司教はそれに当てはまる人物らしい。
「あ、でも、仕事以外では凄く優しいですよ。私もあんなシスターになりたいです」
「いいんじゃないか?マリア司教程素晴らしい聖職者も居ないだろうさ。唯一、男を見る目は無かったようだけど」
「アッハッハッハッハ!!それは言えてるな!!あのジーザンに惚れるなんて、確かに見る目がない。俺が女なら絶対に選ばないね」
「だろ?あの頭とガラの悪い見た目を何とかすれば、まだ何とかなりそうだけどな」
「ジーザンも幸せ者だ。外じゃなくて中をしっかりと見てくれる聖女様で良かったよ」
軽くモヒカンを弄ると、盛大に笑って乗るアッガス。
アッガスの言葉を聞いて、後ろでは傭兵達が深く頷いていた。
やはり、モヒカンは見た目さえどうにかすれば普通にモテるんだよな。
子供には凄く優しいし、割と紳士的である。それで居ながら、男同士なら悪ノリもしっかりとしてくれるモヒカンは誰からも好かれる良い奴だ。
その見た目が恐ろしくなければ、もっとモテたんだろうけど。
「ふふっ、ジーザンはいい人ですよ。ジンさん達ほどではありませんが、毎週決まった金額を寄付してくださいますし。しかもかなりの金額ですよ?普段の生活を心配する程ですから」
「傭兵に冒険者の仕事が流れてくるようになったお陰だな。戦争以外にも稼ぎ口が沢山あるから、そのお陰で中々に稼げる。どっかの誰かさんがこの街の均衡を傾けてくれたお陰さ」
「さぞ優秀な傭兵なんだろうな。そのどっかの誰かさんは。是非とも顔を拝んでみたいぜ」
「........知ってるか?ココ最近、バルサルの傭兵の中ではお前の事を“傾ける者”と呼ぶ奴が増えてるんだ」
「へぇ、“黒滅”じゃなくて?」
「古参の傭兵はそう呼ぶことが多いな。でも、冒険者から傭兵に流れてきたやつの殆どは“傾ける者”と呼んでるよ」
“傾ける者”か。
確かに俺は今まで様々な均衡を傾けて来ている。
バルサルの傭兵と冒険者の力関係だったり、神聖皇国と正教会国の力関係だったり。
俺の異能が“天秤崩壊”ということを考えると、案外ピッタリな二つ名かもしれない。
「いい二つ名じゃん。“黒滅”も良いけど、どちらかと言えば“傾ける者”の方が仁には合ってるかもね」
「そうだね。仁くんの今までの事を考えると、そっちの方がいいかも」
花音達も同じ事を思ったのか、この二つ名に対して肯定的だ。
“傾ける者”。
かっこいいじゃないか。
「気に入ったようで何よりだ。中にはお前を恐れて、その二つ名が無礼にあたるんじゃないかと怯えてるやつもいたしな」
「一体俺をなんだと思ってるんだ?そりゃ“バカ”とか“アホ”な二つ名なら怒るけど、この程度で怒るほど俺の器は小さくないぞ」
「お前のこと知っていればな。だが、噂でしかお前の事を知らない者も多くいる。正教会国を潰し、世界最強の傭兵と呼ばれた“神突”を赤子扱いした者達を従えるようなヤベー奴と言うのが知らんやつらの認識だ」
「寧ろそっちの方が失礼だろ。俺は至ってマトモだよ」
「マトモなやつは自分の事を“マトモ”とは言わないんだよ」
肩を竦めるアッガスは、そう言いながらシスターレイナに御祝儀と思われる金の入った袋を取り出して渡す。
かなり大きな袋にパンパンに詰められた硬貨の音が、僅かに耳に残った。
「はいコレ、あのバカとマリア司教様への御祝儀。ここにいる傭兵達全員分の御祝儀が入ってるから、教会の運営にでも使ってくれ」
「ありがとうございます。幾らかは私の給料になると思いますよ」
「アッハッハッハッハ!!それで是非とも美味いもんでも食ってくれ」
「そうさせて頂きますよ」
アッガスが御祝儀を渡したのを見て、俺も御祝儀袋を取り出す。
アホみたいに溜まっているウチの金庫から、クソ適当に袋に詰めた御祝儀袋だ。
前の世界のようにお札と言う概念がないので、“御祝儀”と書かれた袋紙では無くちょっと高価な麻袋に入れるのがこの世界では常識である。
「それじゃ、俺達からも御祝儀だ。教会の経営が上手くいかなくなっても食っていけるだけの金額が入ってるぞ」
「........また大金貨が入ってるんですか?マリア司教様が困ってましたよ。ジンさんからの寄付が多すぎて、金庫が足りないって」
「アハハハハ!!なら、金庫もセットで付けるべきだったな!!今度作って持ってきてやるよ。亜空間付きの高価なやつ」
シスターレイナな少し呆れたように眉を顰めると、肩を竦めて静かに笑った。
「是非ともお願いします。例え世界が滅びようとも壊れない頑丈なやつを」
「任せとけ」
尚、御祝儀袋の中には大量の白金貨と大金貨が入っていたので、後でモヒカンに“やりすぎ”と怒られるのだがそれはまた別のお話。




