モヒカンの結婚式
平穏な日常が続くある日、俺達は獣人組や三姉妹までも連れてバルサルの街に来ていた。
教員時代もちらほらバルサルの街には来ていたが、相変わらず街並みは変わることなく騒がしい。
冒険者ギルドよりも傭兵ギルドの方が力を持つ少し変わったこの街にある教会で、今日はめでたい事があるのだ。
「ついにモヒカンも結婚か。これを機に傭兵は辞めることになりそうだな」
「マリア司教とくっ付くとは思ってたけど、随分と長かったねぇ。5年近くウロウロしてたんだよ?モヒカンももう少し積極的になればいいのに」
「モヒカンさんは意外と奥手だったからね........見ているこっちが“はよくっつけ”とは思ったけど」
「団長さん達にもよく相談してたよねー。向こうも惚れてんだからはよくっつけやとは思ってたけど」
バルサルの街を歩く俺達は、その人数と特徴的な服装で少し注目を集めている。
しかし、俺達にとってはいつもの事なので気にしなかった。
それよりも今は、モヒカンとマリア司教が結婚するという事の方が大事である。
随分と長い事マリア司教にアタックしていたモヒカンだが、遂に結ばれる日が来たのだ。
兄であるジーザスが亡くなってから約五年。弟であるジーザンはハーフエルフの司教であるマリア司教と距離を詰め、この日婚約に持ち込んだのである。
「モヒカンさんと言えば、アノ奇抜な頭をしている方ですよね?こう言ってはなんですが、よくあの見た目で聖母のような輝きを放つマリア司教と結婚できますね。どちらかと言えば、更生させられる側では?」
「辛辣だな........まぁ、確かにそうなんだけど」
今回の結婚式に参列するエレノラ。結婚式への参列だと言うのに、エレノラは普段通りの白衣を着ている。
俺達もあまり人のことは言えないが、エレノラの服装はあまりにも場違いすぎる。
しかし、“これ以外に服なんて持ってませんよ”と言われてしまえば何も言えない。
こんなことなら、冠婚葬祭用の服を見繕っておくべきだったと軽く反省している。
「フハハハハ!!あのモヒカンも身を固める日が来たのか!!中々に話の分かる面白い男だったな!!」
「団長さん達の結婚式を見た時も思ったけど、懐かしいわよね。私達もやりなおす?」
「フハハハハ!!やり直した所で何も変わらんさ。どうしてもやりたいなら付き合ってやらんでもないがな!!」
「ならいいわ。貴方に花嫁姿を見せても笑うだけだしね」
「フハハハハ........否定できん」
龍二や光司の結婚式は場所が神聖皇国というのもあって、参列したのは普段のメンツばかりだが、今回はかなりの大所帯である。
その中には吸血鬼夫婦も混ざっており、自分達の結婚式がどんな感じだったかを思い出しては懐かしんでいた。
この2人、よく黒百合さんと酒を飲んでいるから忘れがちだが元国王と王妃なんだよな。2人の結婚式ともなれば、国中を上げての祭りだったに違いない。
今となってはイスの面倒を見たり、あの問題児に変な知識を教えたりするだけの酒飲みだが。
「まさかモヒカンも、厄災級魔物が結婚式に参列して来るとは思ってないんだろうな」
「厄災級魔物所か、堕天使にダークエルフまで居るんだよ?人外のオンパレードじゃん」
「........確かに。獣人の中では人外差別される白色の獣人も居るし、世界初だろうな。こんな人外塗れの結婚式は」
「まぁ、向こうは全員人間だと思っているだろうけどね」
真実を知った時のモヒカンの顔とか見てみたいな。とか思っていると、教会に向かう途中である集団を発見する。
この国で最も強い(俺たちを除く)傭兵団“赤腕の縦”御一行様だ。
アッガスがモヒカンと仲がいいということもあって、彼らも今回の結婚式に参列するのだろう。
それにしても、凄い数である。
幹部連中は当然として、その部下達も全員やって来るとは。
「お?黒い集団がいると思ったら、ジン達じゃないか」
「ガラの悪い連中がいると思ったら、アッガス達か。まさか全員連れてくるとは思ってなかったぞ」
「アハハハハ!!昔、ジーザンがウチの訓練に参加してた事があってな。外部からの参加者は割といるんだが、その中でもアイツは目立つだろ?」
「あの頭で目立た無い方が可笑しいな」
「だろ?皆ジーザンの事は覚えてんだよ。それに、結構な頻度で訓練に参加してたからな。団長を呼ぼうと手紙を送ったらみんな着いてきやがった」
「いやー、“今度あのモヒカン頭が結婚するぞ”って言ったら、皆“行きたい!!”っていう駄々を捏ねてな。アッガスにみんな連れてきていいかどうかを聞いて貰って、承諾を得られたから来たんだよ」
そう言って笑うバラガス。
モヒカンもかなり慕われているんだな。仲が良くなければ結婚式に行きたいなんて言い出さないだろうし、何より首都からこの街まで来る間の路銀は自腹だ。
さらに御祝儀まで渡すとなると、かなりの金が飛んでいくだろうに。
この世界の結婚式にも、御祝儀を渡す風習がある。ちなみに、宴会のような催しもあるのだが、食材は各自持ち込みだったりする。
主役たる新郎新婦に負担はさせないという事だな。
もちろん、俺達もありえないほどの量の食材やら酒やらを持ち込んでいる。
どこぞのアホ竜が意図せず起こしてしまったスタンピードから刈り取った地竜の肉や、神聖皇国からかき集めた酒、更にはリーゼンお嬢様にお願いして取り寄せてもらった高級肉や野菜などなど。
多分、龍二の結婚式の時よりも多く持ち込んでいる。
マリア司教の元には子供も沢山いるからな。子供が沢山食べてくれるだろう。
「モヒカンも幸せ者だな」
「全くだ。見ろよ俺達を。ここにいるヤツらのほぼ全員が独り身だぜ?」
「アッガスも含めてな」
「ケッ!!俺は1人の方が楽なんだよ。お前の隣にいる頭の可笑しい嫁さんに振り回されたりするのを考えたら、やってらんないね」
「アッガスー?それどういう意味かなぁ?」
花音がアッガスに向けて軽い殺気を放つ。
しかし、何年もこういうやり取りをしているアッガスは慣れていた。
「言葉通りだ。この“狂信者”め。俺がジンを尊敬できる唯一の事は、このヤベー奴と隣に居て平然とできる事だよ」
「よーし、アッガス。歯を食いしばれ。今からそのヤベー奴がお前を殴る。モヒカンの結婚式を前に、その目を真っ赤に腫れさせてあげるよ」
「それだよそれ。そういうところがダメなんだよ。もっとお淑やかにしろよ。まだエレノラの方がマシだぜ?」
「うっわ、今まで言われてきた悪口の中で一番傷つく」
「私も傷つくんですが?」
「エレノラに傷つく心とかあるのか........」
「爆破しますよ先生」
そこで“殴る”じゃなくて“爆破”が出てくる辺り、エレノラだよなぁ。
俺はそう思いつつ、モヒカン達が待つ教会に足を運ぶのだった。




