トリスお姉ちゃん
暇な日が続くある日。
エレノラと軽く手合わせをしていると、トリスがドタバタと走りながらやってくる。
末っ子のトリスは、妹分のようなエレノラをとにかく可愛がっていた。
獣人組はそれなりに歳がいっているもの達が多く、何より妹や弟と言うよりは同僚に近い。
イスが唯一妹のような存在だが、その正体は厄災級魔物でありどちらかと言うと親戚の子供と言った感覚である。
傭兵団としての仕事をしないエレノラは、トリスからすると欲していた妹に近い存在なのであった。
「エレノラちゃーん!!」
「トリス姉さん。どうしたんですか?」
飛びつくトリスを受け止めるエレノラ。
まだこの拠点に来て間もない頃、トリスが良く面倒を見てくれというのもあって、エレノラはトリスに懐いている。
肌の色や種族も違うが、こうして見ると姉妹に見えなくもなかった。
........本人の前では言わないが、どちらかと言うとトリスが妹なんだよなぁ。
天真爛漫なトリスと冷静沈着のエレノラ。どちらが姉らしいかと言われれば、圧倒的にエレノラの方がお姉さんらしい。
これを言うとトリスの機嫌が悪くなるので、絶対に言わないが。
「あ、団長さんもおはよー」
「おはようトリス。仕事はいいのか?」
「うん。もう終わったよ。エレノラちゃんと遊びたくて最速で終わらせた」
「それは何よりだな」
「トリス姉さんもちゃんと仕事してるんですね。正直、あまり仕事が得意そうには見えませんが........」
サラッと失礼なことを言うエレノラだが、トリスは怒るどころかニヤニヤと気持ち悪い笑顔でエレノラの頭を撫でる。
多分、エレノラなら何言っても許されそうだ。
倫理観とか大分終わっているエレノラだが、何故かコミュ力は高いんだよな。イスにもかなり懐かれてたし、リーゼンお嬢様やメレッタにも懐かれていた。
アンスールなんかも“いい子じゃない”と言っていたし、ほかの厄災もエレノラに対して少し甘い。
アレ?この問題児、爆弾と言う欠点を除けば割とまともなのでは?
と錯覚してしまいそうだが、その欠点が全てを台無しにしている。
毎日のようにイスの異能の中で爆破実験を繰り返し、更には威力確認としてモーズグズやガルムが犠牲になっているのだ。
この前あの二人と話したが、“イス様の命令ですので”と嬉しそうにしていた辺りあの二人も終わってる。
どうしてウチの傭兵団には変態や頭のおかしい奴しか居ないんだ?
エレノラとイチャつくトリスを見ていると、こちらにやってくる厄災が1つ。
“地獄の番犬”ケルベロス。トリスと最も仲のいい厄災であり、あの問題児を纏める苦労人だ。
「グルゥ」
「ケルちゃんおはよー!!」
「おはようございます。ケルベロスさん」
いつも通りのテンションでケルベロスに突っ込み背中に乗るトリスと、ペコリと丁寧に頭を下げるエレノラ。
ケルベロスはエレノラに近づくと、頭をエレノラの体に擦り寄せた。
「相変わらずいい肌触りですね。残念ながらばくはの材料には使えませんが........」
「おい」
ケルベロスの毛並みまでも爆破材料としてみてるのか。
相変わらず過ぎるエレノラにツッコミを入れるが、爆破材料として見られているケルベロスは気にしていないらしくそのまま“背中に乗れ”と頭で促してくる。
「いいんですか?」
「グルゥ!!」
「ありがとうございます」
エレノラはぴょんとケルベロスの背中に跨り、後ろにいたトリスに抱きしめられる。
身長的にはトリスの方が上だが、どうしてだろう。姉に甘える妹にしか見えない。
やはり、トリスは誰が相手でも妹ポジだなと思っていると、猛スピードでこちらにやってくる魔物がもう1つ。
“月狼”マーナガルムが、漆黒の尻尾を横にブンブンと振りながら俺に飛びついてきた。
「ゴルゥ!!」
「おはようマーナガルム。随分と機嫌が良さそうだな」
「ゴルゥ!!」
何度も顔をあれの胸に擦り付けるマーナガルムの頭を撫でてやると、それを見たエレノラが興味深そうに呟く。
「やはり先生は人外の方がモテるんですね」
「聞こえてるぞエレノラ」
「聞こえるように言いましたから」
「生意気な生徒だな。これはもう少し厳しめに指導してやる必要があるかもしれん」
「もっと高威力の爆弾を使ってもいいならいいですよ。最近新しく開発した爆弾もありますし」
「それは辞めてくれ。使うにしても、被害が少ないイスの異能の中で使ってくれ」
エレノラの爆弾は更に進化しており、今では長距離に対応する出来るようになっている。
今はまだ威力がそこまでだが、その内マジでミサイルとか作りそうで怖いな。
今はまだ10km程度しか飛ばせてないらしいが、爆弾のことにおいては天才であるエレノラの事である。近い将来に国を超得ることの出来るミサイルをバカスカ量産するかもしれない。
「エレノラちゃんはいつここを出ていくの?」
「もう少しはここにいようと思いますよ。まだ実験しなければならないものも多いので」
「後1年ぐらい?」
「そのぐらいですかね。あまり長居しすぎると、居心地が良くて抜け出せなくなりそうですし」
「えー、いいじゃん。このままウチの傭兵団に入りなよ。団長さんも許してくれると思うよ?」
エレノラの後ろから抱きつきながら駄々をこねるトリス。
うん。君は妹ポジから抜け出せないね。
誰がどう見てもエレノラがお姉さんでトリスが妹だ。
駄々をこねるトリスだが、エレノラは首を横に振る。
俺としてはエレノラを団員に加えることに関して難色を示すことは無い。確かに倫理観が終わってたり、頭がちょっとおかしかったりもするが、この傭兵団に求められるのは厄災級魔物と仲良くできるかだ。
トリス以外をあまり背中に乗せたがらないケルベロスが背中に乗せてあげていたり、リンドブルムが空の旅に連れて行ってあげたり、メデューサが護身用のヘビの刺青を入れてあげたりと厄災級魔物達からもかなり可愛がられている。
エレノラが望めば、俺はエレノラを迎え入れてあげるつもりではいるのだ。
「私はこの世界にあるまだ見ぬ素材で世界最強の爆弾を作りたいんです。それこそ、この大陸を沈めるぐらいの。もし、私が生きてる間にそれが完成したらまた来ますよ」
「その時はうちに入れてあげるよね?団長さん」
「いや、それよりも今とんでもない事を言わなかったか?」
この大陸を沈めるレベルの爆弾を作りたいとか言ってた気がするんだけどこの子。
俺は、夢が大きくなりすぎたエレノラに不安を抱きつつももし帰ってきたその時は受け入れてやろうと思うのだった。
主に、そのヤベー爆弾を管理するために。




