天堕天界戦争:滅びゆく天界
不死王が六番大天使を下し、5名の大天使達は全滅。
さらに、戦える天使達も厄災級魔物達の手によって全滅し、天界に住む天使達も不死の軍勢によって殺されて行った。
神聖なる天使達は地に落ち、天界はわずか1時間で廃墟と化す。
そこにあるのは、天使たちの死骸と崩れ去った天使達の街だけだ。
「終わったな。想像よりもかなり早く終わった」
「天使達が弱すぎたねぇ。ファフニールも言っていたけど、どうも時間が経ちすぎて昔よりも弱くなりすぎていたみたい。私たちからすれば、早く帰れるから有難いけどね」
「そうだな。これでアンスール作る夕飯が食べられるってもんだ」
滅びゆく天界を見ながら、俺と花音は呑気に今日の晩御飯について話す。
まだ僅かに生き残りが居るらしいが、後始末は不死王とウロボロスに任せておけば問題ない。
嬉々として殺戮を行うその姿は、正しく厄災であった。
「これで少しはウロボロスの気も晴れたかな。俺としても修行の成果が出たから万々歳だ」
「私も実験できたから十分だねぇ。他の厄災達も、多少は暴れられて満足なんじゃない?」
「フェンリルとかは結構機嫌が良さそうだったな。ウロボロスに気を使ってなるべく天使を殺さないようにはしていたけど」
「何気に気遣い出来る子だからねぇ。普段はよく遊び回ってるけど」
天界の跡地では、フェンリルと黒百合さん達が楽しそうにお話をしている。
そこだけを見れば微笑ましい光景であるが、周囲に天使の死体やら崩れ去った家が産卵しているとなれば微笑ましさはない。
寧ろ、この状況でのんびりしていることに軽い狂気を覚えるほどである。
昔のの黒百合さんならばこの状況に発狂していただろうが、この世界に染ってしまった黒百合さんはこの光景を見てもなんとも思わない。
もう地球には戻れないよなぁ。
俺達もそうだが、易々と人殺ししてしまう価値観に染ってしまっている。
「フハハハハ!!久々にいい運動だったな!!」
「それは良かったよファフニール。天使達とのエクササイズで少しは痩せたんじゃないか?」
「フハハハハ!!寧ろ天使たちを少し食ったから太っているだろうな!!」
「........天使って美味いのか?」
素朴な疑問をファフニールにぶつけると、ファフニールは天使の味を思い出したのか少し苦い顔をする。
あまり美味しくはなかったようだ。
「凄く微妙な味だったぞ。昔ならば満足出来ただろうが、如何せん調理した肉の味を知ってしまったからなぁ........」
「あぁ、舌って一度肥えると戻らないよな。たまに美味いもん食うぐらいならともかく、毎日食ってるとそれが当たり前になっちまう」
「フハハ、あの島にいた頃のように、魔物にかぶりつくだけでは厳しいな。全く、厄災級魔物を餌付けするとは、団長殿も中々やる物よ」
「餌付けは基本花音とアンスールがしてるけどね?俺は肉を焼いて塩コショウをかけるのが精一杯だ」
「仁は料理が下手だからねぇ。レシピ通りにやるってことを覚えない子だから........」
「フハハハハ!!なんでも完璧にこなせるよりはいいじゃないか。欠けている物があってこその生き物だ。全知全能は神の域よ」
ファフニールの言う通り、ありとあらゆる事が完璧にできる存在は“人”ではなく“神”だ。
奏音も人間性がちょっと終わってるところもあるし、絵は絶望的に下手である。
黒百合さんもコミュ障気味だし、龍二は馬鹿。光司は........よく知らないから分からん。
「まぁ、ともかく、これで全て終わったな。何か予想外なことが起こるまでは、しばらく暇だろう」
「暇というか、教師の仕事とエレノラの面倒を見るのがあるけどね。それでも、少しは暇になるか」
「フハハハハ!!暇を潰す方法を考えておかなければな!!」
「麻雀でもやるか?」
「やってもいいが、団長殿とはやりたくないな。強すぎて勝負にならん」
「俺のイカサマを見抜けないのが悪い」
「仁のイカサマを見抜けないのが悪いね」
「えぇ........普通はイカサマをする方が悪いのだがな?」
困惑するファフニールを横目に、俺は滅んだ天界を見る。
これで終わりか。黒百合さんの安全も保証されたし、後は死ぬまでのんびり過ごすとしよう。
だが、この後全世界を巻き込んだ大戦が起こるなど、知る由もなかった。
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黒き闇の中。女神の目を盗み動く者達は、天使の全滅を感じ取っていた。
「ん、終わりましたね」
「どっちが勝った?」
「もちろんあのイカレたアマのいる方ですよ。彼女達が負ける様なことがあれば、私たちの計画も上手く行きませんし」
「戦力的には彼らとほぼ一緒だからね。まぁ、殆どは魔王のお陰だけど」
影はそう言うと欠伸をしながらお菓子を摘む。
長年考え、地道に準備してきた計画もかなり上手くいっている。
少し計画外の事もあったが、それでも順調ではあった。
「いよいよ動き出す時か。僕達がやるべき事をやるとしよう」
「お?終わったのか?」
「やぁ、人形君。無事、終わったみたいだよ」
「へぇ、これでようやく動き出せるわけだ。ニャルにも伝えてこよっと」
たまたま近くと通り掛かった人形は、天使達の全滅を知るとそれを伝えようとニャルラトホテプのいる部屋に向かう。
かつて殺しあった仲だと言うのに、今では夫婦のような距離感である2人に違和感を覚えながらも、影は“仲が悪いよりかはいいか”と思い直す。
コミュ力の高い人形は、悪魔ともかなり仲良くやっている。
何かと遺恨の残る影の仲間たちの潤滑油として頑張ってくれている人形の存在は、かなり有難かった。
「それじゃ、招集を掛けようか。僕達も計画の最終段階のために動き出そう」
「聖弓、剣聖の2人も呼んできますか?」
「もちろん。彼等は僕らの仲間だからね」
魔女は頭を下げると、ふっとどこかへ消えていく。
その様子を見送った影は、静かに呟いた。
「傲慢なる女神に鉄槌を」
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どこかの海で、彼女達は話し合う。
ココ最近世界が騒がしい。恐らく、恐れていた事態が動き始めたのだと、彼女達は分かっていた。
「平和な世が続いて欲しいんだがね」
「それは無理さ。私達人間は争って進化してきたんだからね」
「いい迷惑だ。あのクソ共、まだ生きていたのか」
「私のお師匠様が勧誘されたからね。断ったけど」
「その結果がこれだろう?いい迷惑じゃないか」
「それは言えてるね」
彼女たちもまた動き出す。
最終戦争の日は近い。
これにて第四部五章はお終いです。




