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天堕天界戦争:無限の中で

 

 時は少し遡り、仁が天界に向かって突っ込んだ頃。


 “無限”の名を持つウロボロスは我先にと天使たちに向かって攻撃を仕掛けていた。


 不死王を除けば、この傭兵団の中で最も天使を憎む者であるウロボロスは一切の手加減も無く天使の一体を噛み砕く。


 赤い血潮が弾け飛び、鮮やかに散りゆく天使の血飛沫に反応できる天使は居なかった。


 「良き機会を団長殿が与えてくれた。過去の過ちを精算して貰うとしよう」

 「程々にな。張り切ってる体を壊すなよ」

 「誰にものを言っておる。儂はまだまだ現役だ」


 ウロボロスに声をかけたリンドブルムは、これ以上天使を殺さないように心がけながら天界へと降り立とうとする。


 今回の主役はウロボロス。


 普段口喧嘩をする中ではあるが、リンドブルムも時と場合は弁えていた。


(アタシが同じ立場なら、きっと天使を全て己の手で殺したくなるしな。今日は爺さんに全部譲るか)


 既に天界へ一撃入れているリンドブルムは、そう思いながら2人の堕天使を引連れて天界へと向かう。


 ウロボロスはその様子を見ながらも、未だに何が起きたのか分かっていない天使達に向かって攻撃を続けた。


 「“無限(メビウス)”」


 現れるは無限の魔力。この世界の理を強引に捻じ曲げるウロボロスの能力は、あまりにも強力すぎた。


 結界を維持しているとういのに、その魔力は常に溢れ続ける。


 ウロボロスは魔力を固めて魔力弾を作ると、それを天使たちに向かって放つ。


 パン!!と弾ける音と共に、天使の1人が爆発した。


 「........!!皆!!散開!!」


 ここでようやく天使の1人が正気を取り戻す。


 彼らも平和な時代を歩んで来たとはいえ兵士だ。日頃積んできた訓練のおかげか、天界に流星が落ちたという事実よりも自らの命が危ないことにようやく気づく。


 しかし、気づいた所でどうしようもない。


 既にこの場はウロボロスの独壇場。まな板の上に乗せられ、調理を待つだけの魚である彼らに抵抗する余地は残されていない。


 「痛みは無限に回りゆく。苦痛の中でもがいて死ね」


 魔力の塊を何とか避ける天使達。


 だが、その動きは途中で止められる。


 「あがっ!!」

 「いぎっ........!!」


 突如として動きが鈍くなる天使達。彼らは全身に駆け巡る痛みに侵され、飛ぶことすら困難になり始めた。


 攻撃は食らって居ないはずなのに、痛みを感じる。


 しかも、とてつもない程の激痛だ。


 まともに歩くことすらできなくなるほどの激痛は、天使たちの飛行能力を著しく落とし、中には空を飛ぶことも出来ずに地に落ち始める天使まで現れる。


 ウロボロスは下に落ちゆく天使をに向かって魔力弾を放つと、風船が割れたみたいに天使が弾け飛んだ。


 「この程度で音を上げるとは天使も弱いな。あの頃に殴り込みに行っても勝っていたかもしれん」

 「貴様........!!」

 「痛いか?その痛みは、あの人間のものだ。貴様が殺した訳では無いだろうが........アレだな。連帯責任と言うやつだ」


 ここまで飛び火する連帯責任があってたまるか。


 仁がいたらそう言っていただろう。


 ウロボロスは、この痛みに耐えながら自分に向かって攻撃を仕掛けてこれるちょっと頭のおかしい人間を思い出しながら、天使達にできる限り痛みを背負わせる。


 時分を助けてくれた人間の痛みはこんなものでは無いと。自分の負った心の傷はこの程度では無いと。


 痛みにもがき苦しみながら何とか剣を持ってウロボロスに攻撃を仕掛けてくる天使も居たが、痛みによって鈍った動きではウロボロスを仕留めることなど出来はしない。


 ウロボロスは優雅にその一撃を避けると、攻撃を仕掛けることなく静かに天使を見守った。


 「ゼェ、ゼェ、貴様ァ........!!」

 「それしか言えんのか?天使は語彙力が低くて困るな。我らが団長殿ならばもっと面白い煽り文句が言えただろうに」

 「団........長?」

 「貴様も見ただろう?最初に天使を殺した我らが団長の姿を。儂の長い人生の中で良き出会いだと思ったことが3つある。アレはその内の1つだな」


 初めは物珍しさから。


 あの退屈な島にやってきた人間がどのようなものかを見るためだ。しかし、2年も経てばこの人間が如何に面白く変な奴であるかを実感させられる。


 あの優しき老婆と違い、自由奔放な人間はウロボロスの退屈な時間を癒してくれたのである。


 最近は適当に会話しているだけでも面白い。特に、もう1人の人間とのやり取りは見ていて和むものがあった。


 ちなみに、残る2つは老婆とアスピドケロンである。


 恩人と友人の出会いというのは、ウロボロスにとって大事なものだった。


 「また失う訳には行かんのでな。ここで全てを終わらせる」

 「貴様ァ........」


 語彙力がないと言ったのに、まだ“貴様”としか言わない天使に呆れつつ、ウロボロスはファフニールに視線を送る。


 少し離れたところで花音と一緒に天使をシバいていたファフニールは、ウロボロスの視線に気がつくと、花音を頭に乗せて退避した。


 「では、行くとしよう。無限の彼方へ(メビウス・エンドレス)


 突如としてウロボロスの周囲は静かになる。


 何も聞こえず、何もさざめかない世界に天使達は何事かと痛みに耐えながら周囲を見渡す。


 その数秒後、天使達は無限の中に落ちていった。


 何があったのか分からない。だが、気がついた時には己の力が抜けて死に絶える。


 しかも、死してなお痛みを感じるのだ。


 魂に植え付けられたであろうその痛みは、女神の元で輪廻転生しなければ剥がれることは無い。


 そして、その魂たちは無限の中に葬り去られる。


 輪廻転生するために向かう先である天国には向かうことなく、無限の結界の中でこの魂たちは永遠の痛みを負うこととなるのだ。


 正しく無限。終わりなき先に絶望以外の未来はない。


 「永遠に苦しみもがき死ね」


 ウロボロスはそう言うと、落ちていく天使達の魂が集まった結界を飲み込む。


 これで、ウロボロスが死なない限り天使たちの魂は開放されることは無い。


 ある意味、そこは地獄となっていることだろう。


 「では、残りも殺すとしよう。彼奴への手向けとして、派手に盛大にな」


 無限の厄災は天を地に落とす。



 能力解説

無限(メビウス)

 特殊系特殊型の異能。対象指定した物に無限を付与し、ありとあらゆるものを操る能力。

 分かりやすい例で言うと、自身の魔力を指定し無限の魔力を生み出すことができる。

 使い方次第では無限の可能性があり、使い手の技量が顕著に出る能力と言えるだろう。

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