天堕天界戦争:黒鎖呪鎖魂鎖の三重奏
仁が天界にひとりで突っ込んだ頃、花音はダルそうに天使達を見ていた。
リンドブルムが流星を降らせたこのに対し、一切のアクションも起こさない天使達の戦力などたかが知れている。
花音はやる気が欠片も出ず、欠伸をしながらファフニールの頭に降り立った。
「どうした?副団長殿」
「今回の戦争は暇だなぁと思って。強い奴らは仁と不死王が持っていくし、残りの戦えそうな天使もウロボロスが片付けそうだからさ」
「フハハハ。確かに暇になるだろうな。抵抗もしない逃げるだけの天使を狩るだけだ」
「つまらないよ。少しは抵抗して欲しいのに」
「フハハハ。平和ボケしたこの天界にそれを求めるのは酷というものだろう」
ファフニールはそう言うと、適当な天使を焼き殺す。
突如として焼かれた天使は、一切の抵抗所か悲鳴すら上げられずに息絶えた。
「相変わらず滅茶苦茶な能力だねぇ。“原初の炎”この世界を調律する為の炎だっけ?」
「そうだ。女神様が態々お作りになられた異能だ。神の欠片を持つお主らよりも実質的には上だな」
「仁には負けるくせに?」
「それを言うな副団長殿。アレは規格外中の規格外だ」
ファフニールは渋い顔をしながらも、天使を適当に燃やしていく。
その気になれば、一種でここにいる全ての天使を燃やし尽くせるのだが、それをしないのはウロボロスに獲物を残すためだった。
ファフニールもウロボロスの過去は知っている。いずれ別れが来る間柄ではあっただろうが、それでも天使に殺されての別れはやるせない。
自由奔放で扱いづらいと言われるファフニールと言えど、仲間の復讐を横から邪魔するほど倫理観が終わっている訳では無かった。
「お?城が吹き飛んだな」
「仁が暴れてるねぇ。しかも、もう終わったっぽい」
「速すぎやしないか?相手は仮にも大天使だと言うのに........」
「ファフニールの予想が外れたねぇ。想像以上に天使が弱くて、想像以上に仁が強かったみたいだよ」
「フハハハ。相変わらず団長殿は我の予想を超えてくる。退屈しなくて楽しいな」
天使達の虐殺が行われていると言うのに、あまりにも落ち着きすぎている一人と一体は暇そうにしながらも的確に天使を殺していく。
この絶望的な状況であっても、決して諦めようとさず夕刊にも抗おうとしてきた天使の1人を花音は魂の鎖で捕まえた。
「どうするつもりだ?」
「暇だし実験をと思ってね。ほら、天使って人間の上位互換みたいなものでしょ?その魂やらなんやらを弄って上手く行けば、人間にも使えるかなって」
「........人を人とも思わぬ所業だな。副団長殿の方が悪魔に見える」
「それ褒めてる?」
「これを賞賛の声だと思える時点で、頭がどうにかしてると自覚した方が良いぞ。今度団長殿と一緒に頭の病気を治してもらえ」
天使を実験動物として見ている花音に軽く引くファフニールだが、天使を殺すことに楽しさを覚えている自分も人のことは言えないかと思い直す。
結局の所、この場で最もまともな理由で戦っているのはウロボロスぐらいだった。
「離せ!!下劣な人間風情が!!」
「はいはい。御託はいいからねー。それじゃ実験しよっか」
鎖の中で暴れる天使。
彼は今すぐにでも自害するべきだった。舌を噛み切り己の命を断てば、まだ幸せなうちに死ねただろう。
だが、もう遅い。
花音は鎖を操って舌を噛み切れないように口に噛ませると、実践を開始する。
「先ずは呪われてみようか」
「ふぐっ?!」
花音の異能“魂の鎖”は、鎖を出すだけの異能では無い。
本質はそこではなく、鎖によって絡み取った魂に干渉する力が本質だ。
干渉した魂は花音の意思によって弄り回せる為、やり方によっては外傷無しで人を殺すことも出来てしまう。
花音は天使の魂を軽く弄ると、呪いを付与する。
正確には、花音の魔力を天使の魂に流し込んで相手の魂を侵食するのだ、
汚れなき魂は魔力を産み力となるが、穢れた魂は毒となる。
呪いを流された天使はビクビクと数度痙攣した後、目から血の涙を流し始めた。
「わー、神正戦争のときに少しだけやってみたけど天使でもなるんだねぇ」
「趣味の悪い殺し方だ。この天使は想像も及ばないほどの激痛に襲われているだろうな」
「私は痛くないからへーきへーき」
「いや、そういう問題じゃ........」
呆気からんと言い放つ花音に軽い恐怖を抱きつつも、ファフニールはその目で魂を観察する。
世界の“元”管理者である原初に許されたその“目”は、見えないものまで映し出すのだ。
ファフニールの目には濁った魂が映し出され、天使の体を侵食していくのがよく分かった。
拷問もこれを使えば、歴戦の暗殺者であろうと秘密を話すだろう。あまりにも可哀想ではあるが、これは戦争。
ファフニールも同情こそするが、助けはしない。
「んー、侵食は遅いねぇ。はい、次」
花音はそう言うと、今度は魂を弄り回して相手の魂を衰退させていく。
魂の鎖を扱うにあたって、最強最悪の攻撃手段である“魂の衰退”。
これは魂を老いさせることによって、その魂の持ち主自身も老いさせることの出来る技だ。
脳の働きも鈍くなり、体は動かしずらくなり、更には不死者であろうがお構い無し。
唯一の欠点は少しの間時間が掛かるだけで、それ以外は相手が誰であろうと関係なしの正しく神の所業。
呪いに侵され、魂すらも衰えた天使に明日は無い。
僅かに血を吐いた天使は、そのまま息絶えて地に堕ちる。
「うん。最近使ってなかったから怪しかったけど、ちゃんと使えるね。これなら問題なさそう」
「フハハハ。寧ろ、これを使っていたのか?」
「使ってたよ。私達にバカやらかしたあの五人にねぇ」
花音はそう言うと、ファフニールの背中に寝転がって大きく伸びをする。
ファフニールは何となく誰に使ったのかを理解すると、寝転がった花音を落とさないように羽ばたいた。
「何かあったら起こしてね。昨日徹夜気味だから眠いんだ」
「フハハハ。既に勝敗は決しているからな。団長殿も暇つぶしに不死王との戦いを見始めているし、我らものんびりするとしよう。天使の殲滅は堕天した二人とウロボロスが何とかしてくれる」
「フェンちゃんは?」
「彼奴も今回ばかりはウロボロスに気を使っておるな。天使が空に逃げようとするのだけを阻止して、他は見逃している」
「1人の復讐のために、皆が手を貸してあげる。なんやかんや暖かい職場だねぇ」
その職場に恐ろしい者も混ざっているがな。
ファフニールはそう言いたい気持ちをグッとこらえると、“そうだな”とだけ言って優雅に空を飛ぶのだった。




