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天堕天界戦争:銀狼の暴風

 その日、天使達は空から降ってきた流星により大混乱に陥っていた。


 平和で何一つ不自由の無い理想郷の世界に突如として降り注ぐ厄災は、長年身内同士でしか争ってこなかった天使達にとって恐怖以外の何物でもない。


 ある者は流星の衝撃に巻き込まれて地に落ち、ある者は運良く助かったものの恐怖で動けなくなる。


 そして、大半の天使達は何が起きたのか分からずただ騒ぎ立てて逃げ惑うだけだった。


 「何が起きてんだ?!」

 「分からないけど、逃げるしかない!!」


 彼らのその一人である。


 比較的若めの天使であり、五番大天使を支持していた彼らはその日落ちてきた流星に運良く巻き込まれることは無かった。


 家の中で楽しく話していた彼らだが、流星の衝撃波によって家の窓ガラスが割れたとなれば何事かと外に出るのは必然。


 そこで目に入ったのは、天界の4分の1近くが吹き飛ばされ更地に変えられていた光景だった。


 ハッキリ言って未だに何が起きたのか分からない。


 だが、これだけは言える。


 今すぐに逃げなければ命はないと。


 彼らは訳も分からないまま、流星が落ちた方向とは逆に逃げ始める。


 彼らと同じように考え、慌てた様子で逃げる天使もちらほら居た。


 「クソッ!!今日は滅多に飲めないワインを飲む日だったのに!!」

 「ワインより自分の命だろ?!んなもん生きていりゃいつでも飲める!!」

 「それはそうだが、今日の楽しみだったんだよ!!」

 「気持ちは分からなくもないが、ワインと命を天秤にかけるんじゃねぇ!!命あってこその娯楽だ!!」


 できる限り遠くへ。


 彼らは本能でそう感じ、目的地の無い逃亡劇を続ける。


 ふと流星が落ちた場所を振り返れば、そこには白銀の竜と黒き翼を持った堕天使達が天界の地に降り立っていた。


 たまたま目に入った黒き翼。天使にとって堕天使は重罪人の証である。


 万引き程度ならば牢にぶち込まれて怒られるだけだが、殺人や行き過ぎた強盗など重い罪を犯した天使達は罪人の証として“堕天”させられるのだ。


 時には天界を転覆しようと目論んだ天使達が、堕天させられた上で極刑になった事もある。


 天使達にとって“堕天”は恥ずべき物であり、天使が天使でなくなるのと同意義であった。


 「おい、今の見たか?」

 「見た見た。堕天使が居たぞ。しかも、ドラゴンを引連れて」

 「まさか、運良く生き残った堕天使の奴らが再び天界の転覆を企てたのか?」

 「真偽は分からんけどこれだけは言えるぞ。奴らは天使を殺す気だ」


 彼らは知らない。


 あの堕天した天使達は大天使であり、長らく姿を消していた三番大天使と新たに生まれた四番大天使だと言うことに。


 彼らは反乱を企てた天使が再びこの地に戻ってきたのだと思っているが、その戦力は桁違いだった。


 阿鼻叫喚の悲鳴が上がる中、必死に逃げ続ける天使達。


 「大天使様達が来ればきっと何とかなる!!」

 「それまで何とか生きてないとな!!」


 彼らは大天使を希望に逃げているが、既に大天使達は1人の人間の手によって殺さるている。


 唯一六番大天使が生き残っているが、不死なる王との戦いで天使達を助ける余裕は無い。


 そして、崩れ去った城を見る余裕も彼らにはなかった。


 後ろから微かに聞こえる悲鳴や轟音に耳を塞ぎながら、必死に逃げ続ける天使達。


 だが、天使達の殲滅を目論む厄災が彼らを見逃すはずもない。


 「ギャァァァァァァァ!!」

 「イヤァァァァァ!!」


 近くで聞こえる悲鳴。


 何事かと悲鳴の聞こえた方に視線を向けると、そこには血塗れで息絶え絶えの天使達がゴミのように転がっていた。


 「ヒッ!!」


 思わず情けない悲鳴を上げる天使。


 争いごとの少ない天界に生きてきた彼らは、人の死を見ることが中々ない。


 だからこそ、気づかなかった。


 その奥に見える白銀の狼に。


 「ガルゥ」


 “神狼”フェンリル。


 天高く登る太陽の光に照らされ、白銀に輝くかの厄災はその美しさとは裏腹に返り血が幾つも付いている。


 「ガルゥ?ガルゥ」

 「あ、あ、あ........」


 圧倒的強者のみに許された底知れない圧は、天使の死に驚き気づくのが送れた彼らの歩みを止めさせるには十分だった。


 今までに感じたことの無い“死”の恐怖。


 まだ何もされてないと言うのに、その先に待っているのが死以外無いと本能で悟る。


 恐怖に支配され錯乱した彼らは立ち向かうことも逃げる事も許されず、断頭台に乗せられギロチンが落ちる時を待つ死刑囚の様だった。


 「ガルゥ」


 フェンリルはそんな天使達を暫く見つめた後、興味を失ったかのように背を向けて歩き出す。


 「........た、助かったのか?」

 「わ、分からん」


 厄災に何かされることも無く、自分達が助かったことに喜びたいが足が笑って動けない。


 それだけでは無い。全身が熱く、焼けるように痛かった。


 「と、ともかく助かっ──────────」


 ここで気づく。


 彼らは見逃された訳では無いのだと。


 厄災が興味をなくして歩き始めたのは、既に()()()()()()()()からなのだと。


 ぽとりと地面に落ちる小指。


 天使は何が起きたのかを理解する前に自らの死を悟って悲鳴をあげた。


 「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 「へ?」


 目の前でぐちゃぐちゃに切り崩される天使。


 友人が目の前で細切れにされ、血の池を作った事が理解出来ずに固まる天使。


 だが、友人が死んだと理解するよりも早くかの天使も崩れ去る。


 ぐしゃり。


 と、彼も友人と同じように細切れになって死に絶える。


 「ガルゥーガルゥガルゥ♪」


 その様子をフェンリルは見ることも無く、機嫌良さそうに天界を歩く。


 フェンリル1人で天界の天使達を殲滅し尽くすのは簡単だ。まともに戦えるのは大天使や兵士の天使のみであり、ここに居るのは言わば平民。


 戦いを知らない者たちである。


 だが、フェンリルは派手に暴れることなは無い。


 今回は獲物の殆どをウロボロスに譲ろうと思っていた。


 ウロボロスの過去を知っているからこそ、フェンリルも気を使う。


 逃げ惑う天使達を多少始末するだけで、フェンリルはゆったりと天界を観光する。


 その道筋に天使達の死骸が転がっていることを除けば、その光景も微笑ましく見える事だろう。



暴風神(ルドラ)

 特殊系魔法型の異能。世界の空気全てを操ることができ、やろうと思えば酸素や窒素を分けることもできる。

 天候を変えることもお手の物であり、風を操作して気候を変える事により天災を巻きおこす。

 この世界に2つしかない神の名を持つ異能であり、現在もう片方の保持者は存在していない。

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