天堕天界戦争:黒滅殺
六番大天使を投げ飛ばした俺は、残る大天使達と対峙する。
ファフニールがかなり強いと言っていたが、正直そこまでの力量を感じない大天使達。
俺は、少しガッカリしつつも油断大敵と思いながら相手の出方を伺った。
「いつかこの日が来るとは思っていた。天使がその道をはずれた日から、この日がな」
「........?」
1人の天使が天を見上げながらそう言う。
俺は、何が言いたいのか分からず首を傾げるが、天使はそれ以上の事を語ろうとはしなかった。
「今日この日、天使は滅びるだろう。だが、せめてもの抵抗はさせてもらう。日和見主義者と言えど、自らの命は惜しいものだ」
「まぁ、長生きはしたかな。出来れば楽に殺してくれ」
どうも二人の大天使は既に生きることを諦めているようだ。
俺の力を見たからと言うよりは、この日の訪れを覚悟していたように見える。
逆に、もう2人の大天使は殺意満々で今にも俺を殺そうと隙を伺っていた。
「巫山戯んなよジジィ共。相手はたかが人間ただ1人。俺がぶち殺してやる」
「悪いがまだ死ねないのでな」
既に諦めたものと、抗う者。
あまりにも対称的すぎるこの天使達だが、俺からすれば今から骸となり地に堕ちる哀れな羽虫と代わりない。
俺は殺気を向けてくる二人の大天使に視線を向けると、中指を突き立てながら宣言した。
「10秒で終わらせてやるよ」
「ほざくんじゃねぇよ。人間風情が。天使様に逆らった事を悔いて死ね!!」
ほんと、軽い挑発に乗ってくれるプライドの高いやつは扱いやすい。
怒りに身を任せて飛び出してくる大天使の1人だが、その1歩目を踏み出すよりも速く俺が懐に入り込んでいた。
あの馬鹿げた人外の剣聖ですら反応できなかった速度で近づき、異能を展開しながら首を切り落とす。
ラファエルから聞いている。回復系の異能を使える大天使は彼女一人だけであり、ラファエルが居なければ所詮はただの生物に過ぎないと。
人間のように首を切り落とされれば、生命活動を停止する他ない天使など俺の敵ではなかった。
首が切り裂かれ、血飛沫を上げながら切り離された頭が地面に落ちるよりも早くさっきを向けるもう1人の天使に近づき心臓を貫く。
俺の動きに反応すら出来なかった大天使は、自身の胸から手が生えていることに気づいきようやく己が死に至るのだと気づいた。
「........は?」
「遅せぇよ。そんな速度で俺とやり合おうと思ってたのか?」
ワンテンポ遅れて口から血を吐く大天使。
あまりにも早すぎた攻撃だった為か、身体が死んだ事を理解する間が生まれてしまった様だ。
胸を貫き心臓を抉り出せば即死するはずだが、あまりにも早すぎて言葉を話す余裕が出てしまったな。
一瞬にして崩れ落ちる2人の大天使。
1人は首なしの天使となり、もう1人は胸なしの天使となる。
生を諦めていた天使達も、ようやくここで味方が殺されたことに気づいたようであられもない姿に変わり果てた仲間を目を見開いて見ていた。
「........マジか」
「人と言うには少々無理があるな........本当に人間なのか?」
「失礼しちゃうな。俺はれっきとした人間だぞ?」
「普通の人間は我らの目でも捉えられぬほど素早く動かなければ、早すぎるが故に起こる衝撃波も生み出さん。見よ。貴様が余りにも早く動くせいで城が半壊しているぞ」
大天使に言われ、辺りを見渡すと確かに先程まであった壁やら天井やらが無くなっている。
あれ?いつからここはオープンカーの様な解放感のある場所になったんだ?
「全く。反射的に結界を張ったと言うのに、もう粉々だ。これでも厄災級魔物の攻撃もある程度は防げる品物のはずなんだがな........」
「その結界、多分不良品だよ。返品した方がいいんじゃないか?」
「できたらしている。普通の人間としての生を歩んだ方が、まだ幸せだったのかもしれんな」
「安心しろよ。痛みなく殺してやるぞ?」
「殺される恐怖を味わいながら死にたくないと言う話だ。過去に2度、死の恐怖を味わったが、私はアレが恐ろしく嫌いだったよ」
へぇ、二回程死の恐怖を味わったことがあるのか。
俺なんてあの島にいた頃はほぼ毎日、死の恐怖と戦っていたよ。
お陰で感覚が麻痺し過ぎて何があっても、恐怖を感じ亡くなってしまった。
“死”という生物としての根源的恐怖を克服したという点では、この大天使の言う通り人間を辞めているのかもしれないな。
そう考えると、怒った花音に恐怖を感じるというのはある意味“死”よりも恐ろしい事なのだろう。
花音って実は滅茶苦茶やばいんじゃね?
そんなくだらない事を考えつつも、そろそろ幕引きをしようと俺は能力を使用する。
天使は死すれば“次”が生まれる。
だが、俺の異能で消しされば、次なる天使は生まれないはずだ。
全ての天使の異能を消し去るのは無理だが、大天使だけでも消し去っておくとしよう。
既に殺した二人の大天使からは、異能を消し去っている。残るはこの2人と六番大天使だけだ。
「言い残すことは?」
「もし女神様に会うことがあれば“世話になった”と伝えてくれ」
「痛みなく殺してくれればいいよ」
「私は抵抗するからな?」
「ご勝手に。アレを見ても尚、勝てると思うならいいんじゃないか?」
「........それでも抗うさ。私は死にたくないんだ」
「安心しろよ。皆仲良くあの世行きだ」
俺はそう言うと、戦う気すらない大天使のひとりに接近して頭を消し飛ばす。
異能を使って頭を消滅させたので、おそらく痛みは感じなかっただろう。
天使が脳以外に痛みを感じる器官があれば別だが、それを俺が知る由もない。
「........っ!!」
最後に残った天使は、俺が視界から掻き消えた時点で結界を展開しようとする。
が、あまりにも遅くあまりにも脆かった。
俺からの攻撃を防ぎたいなら、ウロボロスのような理不尽極まりない結界を構築するしかないのだ。
アレ、マジで意味わからんからな。俺の異能を使えば容易く壊せるが、逆に言えばそれ以外で壊せる未来が見えない。
「........後は頼んだぞ」
「あ?」
最後の大天使に一撃を叩き込む寸前に、大天使が何かをつぶやく。
聞か返そうかとも思ったが、その時には既に俺の腕が大天使の肉体を粉々に斬り裂いていた。
滴り落ちる血と鉄の匂いが混じる生臭さ。
僅か1分足らずで死んでしまった大天使達に歯ごたえを感じる訳もなく、俺は欠伸を噛み締める。
「俺の仕事は終わったし、不死王と六番大天使の戦いでも観戦しに行くか」
俺はそう言いながら、死した天使達の跡地を飛び立つのだった。




