天堕天界戦争:天秤を揺らす者
目の前の天使を1人殺した事により、天使達は呆気に取られて居た。
平和な世界が続いていた天使達は酒に酔った者を取り押さえたり、喧嘩の仲裁をしたりと警察のようなことしかしてこなかったらしい。
要は修羅場を全くと言っていいほどくぐってこなかったのだ。
もし、彼らが戦争慣れしていたら直ぐに対応してきただろう。
地にいるもの達からの宣戦布告、これは戦争なのだと。
だが、天使達がそれを理解した時には全てが遅かった。
「堕ちろ!!蚊トンボ!!」
リンドブルムの魔力が渦巻き、天界に向けて流星が1つ落ちていく。
加減してやれと言ってあるので“星降る夜”は使ってないが、それでも一撃で天界の四分の一近くは吹き飛ばせるだろう。
一雫の雨は天界へと落ち、弾けた雨は天界を破壊する。
ドォォォォォォン!!
と、空気を揺るがす爆音。天使達は今気づいただろう。
俺達が天界に向けて宣戦布告をしたことに。
「流星。相変わらず馬鹿げた威力だな」
「アハハハハハ!!当たり前さ!!」
機嫌のいいリンドブルムは、そう笑いながらも追撃はしない。
もっと星を降らせれば、一方的にこの戦争を終わらせることが出来るだろう。
だが、それをするとウロボロスやファフニールから不満が出る。
戦争だと言うのに、こいつらは自分の取り分を気にするからな。しかも、金の取り分じゃなくて獲物の取り分を。
毎度毎度調整する身にもなって欲しいものだ。
厄災級魔物のご機嫌取りは大変すぎる。
「ウロボロス」
「分かっておる。無限の輪」
俺がウロボロスに声をかけると、天界と俺達を覆う結界が現れる。
普段俺たちの拠点を守る結界とは違い、外からの侵入と中からの脱出を許さない結界だ。
しかも、外からでは中の状況が一切分からない様になっている。
これで、毎度毎度俺達を監視していた目も消えた。
透明で目には見えない為愚かな天使たちは気づいていないが、既に彼らに逃げ場は無い。
「さて、俺は大天使達を探してくるとしよう。お前達は好き勝手暴れて来い。ただし、獲物の取り分で喧嘩はするなよ」
「フハハハハ!!あいわかった。喧嘩をせず、仲良く天使を分け合うとしよう!!」
「アタシもチマチマとやるかね。天使共の歯応えを感じられるいい機会だ」
「........悪いが、夢中になりすぎたら加減できぬぞ」
「ガルゥ!!」
ウロボロスだけ不安な回答が返ってきたが、ウロボロスの恨みは強い。
それでもほかの厄災級達が上手くやってくれるだろう。なんやかんや彼らは仲がいいのだ。
「黒百合さんとラファも気をつけろよ。ふたりが死んだら意味が無いからな」
「分かってるよ。そう簡単に死なないよ」
「死んでも大丈夫だよー。私が蘇生してあげる」
キリッとした顔で気を引きしめる黒百合さんと、普段と変わらない表情でのほほんとしているラファエル。
ラファエルの能力が蘇生まで行える治癒系の異能だからあまり心配はしてないが、それでも声はかけておくべきだった。
「不死王、六番大天使を持ってこれば良かったよな?」
「ソウデス。姿ハ分カッテイルノデ、飛バシテクレレバ、問題ナイ」
「OK。少し待ってろ。そっちに向かって投げ飛ばしてやるからな」
六番大天使に拘る不死王は、ゆっくりと頷くと背後に待つ不死の軍団を動かし始めた。
そう言えば、天使にこだわる理由は聞いたが六番大天使に拘る理由は聞いてなかったな。
少し気になるが、今その話を聞く訳には行かない。
俺は、目の前で起きている戦争に集中しなくてはならないのだから。
「花音、いい感じに皆を纏めろ。俺のサポートは要らないからな」
「え?適当すぎない?いい感じってどんな感じかな?」
「なんか........こう........いい感じに頼む」
「答えになってないけど分かったよ。いい感じにね」
俺の適当な指示に、花音は困ったような表情を浮かべながらも頷く。
花音も昔と比べてかなり強くなっている。天使に遅れをとることはないだろう。
その気になれば、厄災級魔物とも普通に張り合えるんだしな。
「うし、んじゃ、行ってくる。大天使達は俺が始末をつけてくるけどいいな?」
「フハハハハ!!好きにするといい。我らは我らで楽しむとしよう」
「いってらっしゃーい」
ファフニールと花音に行ってこいと言われたので、行くとしよう。
今回は監視の目も無さそうだし、最初からぶっぱなして行くぞ。
俺は異能を展開し、2つの箱を作り出す。
俺の切り札にして、最強の一手。厄災級魔物であろうが、これ一つで戦い抜ける。
「魔導崩壊領域」
過剰に創り出された魔力を強引に押しとどめ、全身に有り得ないほどの強化をかける。
天秤の操作により創り出された無限の魔力が迸り、バチバチと小さな雷を上げた。
「いつ見てもアレだよね。スーパーなサイヤ人」
「それ、俺も気にしてるからあまり言わないで」
サラッと気にしている事を言う花音にツッコミを入れつつ、俺は天界に向かって飛び出した。
流星の被害を受けた天界からは砂煙が上がっており、よく見ると何が起きたのか分からず困惑する天使達が多数いる。
この場で全て始末するのも簡単だが、それは俺の役目ではない。
それは、後から続く厄災や堕天使達の仕事だ。
「見えた」
ラファエルに聞いていた天界の城。ほかの建物よりも高く聳え立つ純白の城を見つけた俺は、その中に五つ程大きな気配があることに気づく。
普段ならこの距離ではまだ気づけないが、魔導崩壊領域によって感覚が研ぎ澄まされている今なら分かる。
あそこに大天使たちが居ると。
好都合な事に、ひとつの部屋に集まってそうだな。
ならば、扉をぶち壊して中に入らせてもらうとしよう。
俺は能力を使い、自分が通れる程の穴を城の壁に空ける。
剣聖と戦っていた時にはできなかった、魔導崩壊領域中の能力使用だが、今となってはお手の物だ。
俺は周囲を破壊しない速さで突き進み、五つの気配がある場所に入る。
そこには、ラファエルから聞いていた特徴を持った天使達が居り、コチラを見ていた。
「やぁやぁ愚かな天使共。天からの罰を受ける時だ」
軽い自己紹介。
それに反応したのは、偉そうにイスに座る大天使だった。
「誰だ?貴様。ここが天界だと知った上での愚行か?」
「愚行?いや、天罰だよ。目お前らの大好きな女神様に変わってな」
女神の名を出した途端、三人の天使たちの顔色が変わる。
先程まで普通だったのに、今はゆでダコのように真っ赤に染っていた。
「貴様ァ........人間だな?女神様を騙るとは、余程死にたいようだな」
「どの口が言ってんだか。鏡って知ってる?自分を写してくれる素晴らしい物なんだけど、いっぺん鏡を見てもっかいそのセリフを言ってみたら?」
「殺す!!」
殺気立つ大天使。
俺はそんな大天使の1人を無視して、ラファエルから教えてもらった六番大天使の特徴を思い出すのだった。




